ギャルパン! ~異世界転生したらギャルのパンティでした~

kanegon

ギャルパン! ~異世界転生したらギャルのパンティでした~

【起】


 キンキンキンキンキン!


 辛うじて抵抗してきた村の若者と剣を打ち合った。だが相手は重い火傷を負っていて、俺の敵ではなかった。


 仰向けに倒れた若者の喉元に剣先を突き付けた。左目の下に大きな泣き黒子があるようだ。


「さあ、エクスカリバーの場所を言え」


「だ、誰に頼まれた」


「そんなこと、もうすぐ死ぬお前には関係無いだろう。さっさとエクスカリバーのある場所を言ったら、せめてもの慈悲で楽に死なせてやるぞ」


「む、村に火を放ったのは失敗だったな。もうとっくに燃えただろう」


 ボグッ。ムカついたので、爪先で若者の頬を蹴りつけた。


「エクスカリバーが、こんな火災程度で燃えるかよ」


「も、燃えるさ。お前、エ、エクスカリバーがどんな物なのか、聞いていないのか」


「なんだよ、その言い方。魔剣じゃないっていうのかよ」


 弱った若者は、かすかに頬を歪ませた。笑ったらしい。


「お前、お、男だろう」


「当たり前だ」


「お、お前のエクスカリバーは、体のどこにくっついている」


「股間」


 即答した。でも、こんな場面で下ネタ質問が来るとは思わなかった。


「そ、そうだ。エクス、カリバーの本質とは、股間に付くものなのだ。エクスカリバーは、じょ、女性用のパンティなんだ。もう、とっくに燃え尽きているさ」


「ふざけるなぁっ」


 俺は若者の顔面を幾度も強く踏みつけた。


 …………と。


 このあたりまで、スマホでゲームをプレイしていた。


 ついつい夢中になっていて、信号が赤であることに気付かず横断歩道を渡っていた。


 プオォォォォン。


 トラックのクラクション音が聞こえたと思った次の瞬間には、俺はひかれて死んで異世界に転生していた。


 …………ここは、どこだ?


 どこかの街の中だろうか。異世界転生もののアニメで観るような、北欧風の瀟洒な木造の建物が並んでいる。


 俺は、石畳の道の途中で、くたっ、としていた。


 歩けない。動けない。そもそも俺、手足が無いし目も無いぞ。見えるけど。


 俺は人間の姿をしていないことを認識した。


 異世界に転生した俺の姿は、七個の玉を集めたら登場するドラゴンが与えてくれそうなデザインの、白とライトグリーンの縞パンになっていた。。。。。。。


 なんてこった。


 絶望。それだけが俺にのしかかった。乾いた風が妙に冷たく吹き抜けた。


【承】


 異世界転生したらギャルのパンティでした。略してギャルパン。


 それが、今の俺が置かれている状況だ。途方に暮れるしかない。


 だがしかし。ちょっと考えを前向きに発展させてみた。


 俺は女性用パンティだ。それも、若くてカワイイ娘向きだろう。


 ってことは、誰か若くてかわいい女の子が、俺を拾って、俺のことを穿いてくれることになるだろう。


 つまり、俺は自分のシマシマゼブラの体全体で、女の子のデリケートゾーンやヒップを包み込むことになる。


 これって、もしかしてだけど考えてみたらご褒美なのでは。


 そう思うと気が晴れた。異世界転生マンセー。早くカワイイ子が拾ってくれないかなあ。


 ところがこの世は、じゃない、こちらの異世界は甘くなかった。


 ギャルパンの俺の第一発見者は、通りかかったデブでハゲかかったオッサンだった。


「ウホッ」


 オッサンは猿のような奇声を挙げると、周囲を見渡して誰も目撃者がいないことを狡猾そうに確認した。その目に強欲な光が宿った。


 おい、まさか。やめろ。


「ラッキー。女物のパンティが落ちていたぞ。家に持ち帰って、くんかくんかニオイかいで、頭に被って遊んで、それから」


 俺はオッサンの手に拾われて、ズボンの尻ポケットに乱暴に突っ込まれた。


 マジでヤバい。俺、脂ぎったオッサンに拉致されるわ。


 その時。


「待ちなさいオッサン。そのパンティは、あなたの物じゃないでしょう。返しなさい」


 オッサンの背後から美少女の声が響いた。そう。有名アニメ映画監督が娼婦の声と形容していたけど、アニメ声優みたいなかわいらしいソプラノヴォイスだった。声の時点で美少女だと俺は判断した。


 振り向いたオッサンは、いかにもなエロそうな顔をした。居たのは金髪碧眼の美少女だった。頭には分厚いターバン、胸の部分は葡萄色のビキニアーマーで、おへそ丸出し。濃緑色のミニスカートを穿いている。更には白いニーハイソックスをはいていて、絶対領域が形成されている。よく分からない格好だけど、顔は美少女だ。


「なんだ、このパンティ、お姉さんのかい。じゃお姉さん、今、ノーパンなのかい。返してあげるから、今ここでパンティ穿いてみてよ」


 パンティの俺を差し出しながら無造作に美少女に近づくオッサン。美少女は左手でパンティを受け取ると同時に、右足を振り上げてヤクザキックをかました。


 おっさんのエクスカリバーのある場所に。


 おっさんは石畳の上で股間を押さえて悶えながら輾転反側しているけど、痛さに哀れみはするけど、同情はしない。


【転】


 さて、悪のおっさんは滅びた。


 美少女は、縞パンの俺をスカートの左ポケットに押し込んで、そして向かった先は冒険者ギルドだった。


 受付嬢のお姉さんは、ショートの茶髪で、巨乳の美人だった。絵に描いたようなありがちなシチュエーションだ。


「ミッションクリアしたので、手続きお願いします」


「承りました。冒険者カードをご提示願います」


 金髪美少女冒険者は、ミニスカートの右のポケットから冒険者カードを取り出した。スマホくらいの大きさだな、って、それ、スマホだよね。


 スマホを、魔法陣の描かれた金属板の上に置くと、スマホの画面がテカーと輝いた。


「ちょ、な、なんなんですか、この異様な戦闘力は! ……伝説の武器でもお持ちなんですか?」


 受付嬢が上擦った声を挙げる。スマホの輝きの眩しさを目の当たりにして、金髪美少女もまた動揺しているようだ。


 受付嬢のお姉さんが、輝いているスマホの画面を覗き込んだ。


「イ、イキシアさん、あなた、エクスカリバーをお持ちなのですか」


 イキシアと呼ばれた金髪美少女は、目を白黒させた。いや、碧眼だけどさ。そこは文学的表現てやつで。


「わ、私は魔法で戦うから、武器なんて何も持っていないんだけど」


 イキシアも自分のスマホを覗き込む。冒険者名:イキシア。所持品:エクスカリバー。確かに画面に表示されている。


「ま、まさか、この縞パン……色も形もそっくりだから、まさかとは思ってあのオッサンからゲットしたんだけど……」


 そう言いながらイキシアは、ミニスカのポケットから俺を引っ張り出した。


 白とライトグリーンの縞パン。


「も、もしかしてだけど、俺がエクスカリバーってこと?」


 受付嬢とイキシアと、冒険者ギルド内のホールの近くに居た人の目が見開いた。


「「パンティが喋ったぁぁ?」」


 その後。イキシアは俺を持ってギルドの二階に宿泊用の部屋を取った。


 イキシアは俺に、エクスカリバーについて知っていることを語ってくれた。


「エクスカリバーの能力は、それまで穿いた女性のことを忘れないこと。情が深いとか、そういう話ではない。穿いた女性のお尻の形とか、デリケートゾーンの形をしっかりと形状記憶していて、再現できるってこと。女性にとっては悪夢のような呪いの品物よ。この真実を知った世界中のエロいオッサンが、エクスカリバーを入手しようと付け狙った。私たちエルフ一族は、呪われたエクスカリバーを処分しようとした。でも、魔法の炎で炙っても燃えない。唯一、エクスカリバーを消滅させることができる方法は、世界の中心にある天牙岳の火口に投入すること」


【結】


 映画のロード・オブ・ザ・リングみたいな解決策か。


「私はこれから、あなたを持って世界の中心たる天牙岳へ向かう」


 ちょっと待て。それって、俺、処分されるってことか。管理型産業廃棄物最終処分場に投入される産業廃棄物みたいな気持ちだ。


「待ってくれよ。俺、今はこんなパンティみたいな格好をしているけど、本当は人間なんだ。パンティに転生してしまったんだ。処分は待ってほしい。俺が人間に戻る方法を考えてほしいんだ」


 慌てて、俺は今までの経緯を説明した。


「それにしても、エクスカリバーがパンティだったっていうのは、本当だったんだな。あの、左目の下に泣き黒子がある男が言っていた通りだったなんて、驚きだ」


 俺はうんうんと頷いた。いや、縞パンだから実際にはそういうジェスチャーはできないけど。気分の問題。


「でも、あの男の言っていたことが全部正しかったわけじゃないな。パンティは村の火災では燃えていなかった。だから、今、俺がいる。」


 ふとイキシアを見ると、俯いて、少し肩が震えている。黒いオーラを放っているようにも見える。


「あなた、今の話、どういうこと? エクスカリバーを手に入れるために、エルフの村に火をつけて焼いたの? 左目の下に泣き黒子がある男って、もしかして私の兄さんのこと?」


 イキシアの兄がどんなヤツであるかは知らない。だが、左目の下に泣き黒子がある男、耳が細長く尖っていて、確かにエルフだった。


「つまりあなたが、私たちエルフの村を焼いて一族を殺した犯人なのね?」


 イキシアは、耳まで覆っていた大袈裟なターバンを脱いだ。あの男のような、細くて先が尖った耳が出てきた。


「いや、ちょっと待てよ。それはあくまでもゲームの話であって、俺が本当に村に火をつけたわけじゃないって」


 あの隠れ里は、エルフの村だったのだ。だからよく炎上したのだ。というか、俺はゲームの中の世界に転生した、っていうことらしい。


「あなたが人間に戻る必要は無いわね。天牙岳まで運んで火口に投入してあげるから、おとなしく滅びなさい」


 俺の悲痛な叫びは誰にも届かない。俺は厳重に梱包されて、イキシアのリュックに詰め込まれた。


 イキシアが世界の中心たるテンガ岳に辿り着く前に、盗賊でも誰でもいいから、俺を奪い取ってくれることを望む。

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