人権購入のいろは

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人権購入のいろは

俺は、人を殺めた。どうしようもなかった。そもそも、俺にこんなことができたなんて、自分でも驚くくらいだ。人を殺すのは絶対悪だ!なんて意見もあるだろう。だが、まずは俺の生い立ちを聞いてほしい。それからでも遅くないだろう?


上位人権をご購入になる場合は、1ヶ月に2万円、それを30年間続けていかなければなりません。

そんな話を、聞いたことがある。の俺には到底手の届かないシロモノだ。手を伸ばそうとも思わないがな。

『最低人権』。それは産まれた時に保証される、本当に最低の人権である。内容は

・海や川、森林などに立ち入る許可。ただし、過度に侵害することを禁ず。

・発言の許可。ただし、発言が聞き入れられるとは限らない。いかなる理由があれど下位、及び上位人権施設に立ちることを禁ず。

・生きる許可

のみっつだ。外国には、極度に貧困な人には生活の保障制度があるそうだが、ここにはそんなものは無い。ちなみに俺は学校に行ったことがない。あの場所は俺にとって異世界だ。なんだあれは?

この世界には、生まれつき保持している最低人権の他に、下位人権、中位人権、上位人権のみっつがある。学校ではこの環境に慣れるためのシュミレーションをしているそうだ。みんながみんな点数の奪い合いだ。数字に縛られているらしい。

入手した資料によると、学校では、まず下位人権(仮)が付与される。仮なのは、それは「学校」という限られた範囲の外では全く機能しなくなるからだ。もっとも、学校に行くことをあたかも簡単かのように語っているが、入学に金がいる。それを払えば、ひとまずは学校には通える。だが、俺のような、親が最低人権の場合は、もう絶対と言い切れるほど通えない。そもそもお金を用意できないのだ。

この世界は腐っている。全てがお金なのだ。お金が全てなのだ。

さておき、俺は学校に通えなかった。

学校では、最大10年間過ごせる。一年の末にお金を取り立てられ、それが払えなかったものは追放される。莫大な金だ。中位人権でも用意するのは厳しいだろう。そして、10年間満期で卒業した子供は、無条件で上位人権を付与される。どろどろだよな、この仕組み。学校の中では(仮)の人権を、試験の順位、親の優劣によって奪い合うことになる。みんな、血ナマコ……じゃねえ。血眼ちまなこになって勉強するらしいぜ。しかもその試験の結果すら賄賂で捏造される世界だ。正直者は馬鹿を見る……とは言い切れないが、ほとんど馬鹿を見る。真っ直ぐ生きるのが馬鹿らしくなる程度にはな。

さて、そんな親の七光りと金と権力がモノをいう世界で、1、2年目で追放されたやつ、そもそも最低人権のやつはどんな扱いを受けると思う……?

白眼視と、迫害だよ。彼らは、自分より下の人間を徹底的に見下さないと自信を得られないんだよ。なんせ、自分を信じず、他人を信じてきたんだから。絶望を知らない人間なのだから。

ここまで言うともう察した人もいるかもしれないが、ここからは人権によって得られる特権について聞いてほしい。

まず、下位人権だ。下位人権では、

・公衆のトイレ、下位人権用購買施設、下位人権用娯楽施設、下位医療機関

などの施設や、

・就職する権利、私物を保有する権利、お金を得、浪費する権利

などが与えられる。ちなみに、下位人権用の施設は、貧乏くさくてチープだ。

「この程度か……。結局下位人権と最低人権の差なんてさほどないのでは?」

と思わせられるくらい。どれだけ上位の人たちが俺たちを見下しているか分かるな。

さて、中位人権と上位人権は、基本的には同じだ。だが、グレードアップの度合いが半端じゃない。中位人権は、決して幸福とは言えないにしろ、比較的穏やかで楽しい人生が約束されている。もう上位人権については言うまでもない。

この人権は購入可能だが、馬鹿にならないほどお金がかかる。あいつらは金の亡者だ。俺たちは購入する権利もないので、学校に行ける年齢を過ぎたらもう一生最低人権だ。

まあ、ここまではまだいい。ただ差別し、蔑まれたところで、俺たちは生きてるのだから。しかし、そんな安心も束の間、彼らは頭の悪い改悪を続ける。


その中のひとつが、


わかるか?私物化って。つまり、最低人権の人たちを奴隷として扱おうが、殴る蹴るなんてことをしても、もちろん許されてしまう。下卑げびた話になるがレイプや強姦なんてものも許されてしまう。

そんな馬鹿げたルールのせいで、俺たち最低人権の生活は一変した。

まず、俺たちの作っていたささやかな寝床(森だったら木の葉を寄せ集めて作った簡易的なベッド、海なら流れ着いたものを組み立てた家などだ。)は壊され、荒らされた。そして、何もかも搾取された。

体も、精神も、命も、持ち物も、プライバシーも、意思も、思考も、嗜好も、楽しみも、出会いも、別れも、他人の温かみも、自然の温もりも、雨も、雪も、太陽も、月や夜空も、光も、闇さえ奪われた。

残されたのは、徹底的な陵辱のみだった。

俺は、俺の目の前で、母親を殺された。本当に目の前だった。声を出すまもなく、無駄に凝った彫りのナイフで、刃の部分が見えなくなるくらい、深々と刺されていた。そのまま腹を裂かれ、楽しくって楽しくってたまらないというような気分の悪い笑みをたたえ、こちらを見た。俺は、逃げた。幸い、地の利はこちらにあった。顔や体には、母親産の血のりがべったり付いていたがな。笑えねぇ。

命からがら逃げ切り、そこで俺は知った。

『子羊の戯れ』の存在を。

なんか……ぱっと見は厨二病こじらせみたいなネーミングセンスだと思う。だが、彼ら彼女らの活動は、まさに今の俺にぴったりだった。要約すると革命だとか復讐だとか、そんな趣旨の活動だった。加入条件はふたつだけ。最低人権か下位人権で、軽蔑されたり迫害を受けていた人たち。もう一つは「覚悟」がある人たち。なんの覚悟かは、ここでは言うまでもないな。

さて、まあ当然、そんなグループがあるのなら入らないなんて手はないよな。俺は即決即断で入会した。

まず彼らとコンタクトを取って思ったことは、俺と一緒だということだ。ぼろぼろの、服とはおよそ呼べない布切れをまとい、身体中から嫌な匂いを発しながら、しかし己の野望に目をギラつかせている点だ。彼らはいたって冷静沈着で、着々と復讐の手回しを進めていた。具体的には人権管理局の最重要区画に潜り込んでセキリュティの脆い部分を確認したり、武器や薬が保管されている倉庫のパスワードや見回りの周期などを把握するなどととても危険が伴う行動だ。俺は新入りだったため、重要な仕事は与えられなかった。環境の整備(整備したところで底辺だが)や見回り程度だ、任される仕事は。

まあ、ここから俺の復讐の生活は始まるのだが、話疲れたのでこの辺で切り上げよう。また気が向いたら話すさ。

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