スマホの可能性を考える会議

常陸乃ひかる

第128回 スマホの可能性を考える会議

 ある広間。複数の人間あり。

「本日は、お集りいただきありがとうございます。私、司会進行を務めさせていただく四階しかいつとむです。では早速、本日の議題『スマホの可能性』について、詳しく話し合っていきたいと思います」

 司会の男。軽い口上。軽い礼。

「おねがいしまーす」

 その他、バラバラの声。無数。


「――はい、一番! 僕は、ゾウが踏んでも壊れないスマホを開発しました!」

「あぁ……どうせ基板が壊れますね。次の方」

 茶髪の男。詰めが甘い男。却下。

 および、過去の商品のパクリ疑惑。スマホ議会を追放される可能性の黙示。


「二番! 壁もスマホ、天井もスマホ、床もスマホ! 私はスマホ症候群のための部屋を作りました。あぁん、最高! 私これで、もうスマホの一部ね!」

「吐きそう。次の方」

 長髪の女。当人がシンドローム。却下。

 精神病院へと連行。


「三番、ヘイお待ち! ウチの店はスマホ定食を作ったぜ。スマホ入りラーメン、スマホの手垢入り餃子、スマホの横についてるボタン入り天津飯――」

「吐きそう。次の方」

 ラーメン屋の店主。却下。

 奇をてらい客足が激減。


「四番。ボク、ヒューマノイド作って、スマホを指で操作できるようにしました」

「スマホより、よっぽどすごいです。もはや別の事業をしてください。次の方」

 天才科学者。却下。

 ここに来た理由が不明瞭。


「五番、語ります。『このスマホを、あすの十七時ピッタリに彼へ届けて。彼をビックリさせたいから』という、女友達の言葉が発端だった。いわく、遠く離れた彼氏にスマホを届けてほしいというのだ。女は全身に打撲や骨折、切創に擦過傷など、数々の傷を負っていて入院中だったから、誰かを頼らざるを得なかった。俺は情にもろいから、その申し出を受け、何十キロも離れた場所に住む彼氏へ、時間どおりスマホを届けてやったんだ。男は驚いた様子だったが、すぐになにかを悟ったようにそれを胸に当て始めた。俺はそれを横目に去ろうとすると、大きな音とともに彼氏のスマホが大爆発。彼氏はビックリした顔で仏さんになっちまったよ……。なんでも女は、彼氏のDVで入院してたらしいんだ。それで逃げた野郎への復讐を果たしたんだとさ」

「……長い。誰も読まない。はい、次」

 ノンフィクション作家志望。却下。

 たぶん作り話。


「六番。スマホでブーメランを開発。投げると戻ってくる。つまり戦えます」

「現代では戦いません。あと危ない。次の方」

 裸に皮のベストを着た狩猟。却下。

 たぶん時代錯誤。


「Seven.アー、スマホ、モテナイ。ワタシふるいダカラ、Newノヤツ、買えマスカ」

「あ、ソーリー。えと……ディスショップ、イズ……あー、アバウト……500メーターぁ、フロムヒアー。帰り道はわかりますね? 次の方」

 外国人。却下。

 会議所と携帯ショップの誤認。


「八番。このスマホ、投げると戻ってくるんです。子供のおもちゃに是非――」

「さっき見た。次」

 玩具会社、開発担当。却下。

 被ったブーメランネタ。


「九番。スマホ型麻酔銃と、スマホ型変声機と、犯人追跡スマホ――」

「あぶねーあぶない。別の意味で危ない。次の方」

 メガネをかけた少年。却下。

 危険。


「十番。煩悶はんもんのあまり参った次第です。わたしは歳が廿にじゅうと二にもなりますが、未だに嫁の貰い手がなく、もはや身請みうけでも――と思っている折、現代の『スマホ』なるものを知りました。この板を使えば、殿方とのがたとも容易にえると聞いた次第。浮世のことわりを破るがごとき不見識ふけんしきだと承知しておりますが、こちらの五十銭銀貨を対価に……何卒なにとぞわたしに御知恵を授けていただけないでしょうか」

「何時代の方でしょう……ここは相談所ではありませんゆえ、どうか貴女の時代に御帰りになすって。次の方」

 束髪そくはつ和装わそうの女性。却下。

 タイムトラベラー説。渋沢栄一しぶさわえいいちの生きる時代へ帰還。


「十一番。スマホに地対艦ミサイルを搭載したであります! 重いであります!」

「万歳! 日本万歳! 次の方!」

 自衛隊の方。却下。

 日本を守る立派な方々。


「十二番。ナイフ形スマホ――」

「どうしてそういう危険な方向に行くのですか。次の方」

「十三番。ピストル型スマホ――」

「このメリケンが。次の方」

「十四番――」

 有象無象。

 否めない、会議の滞り。

 休憩。会議。休憩。会議――

 訪れる夕刻。四階つとむにも訪れる、疲労困憊。


「――九十九番。ブーメラン型のスマホを……」

「だ……だから、もう見たって! つ、次の方……!」

 日曜大工の好きなお父さん。却下。

 空前絶後のブーメランブーム。


「百番。スマートフォンにインストールできるアプリを開発しました。これから様々なアプリを作り、皆の生活をより便利に、豊かにしてゆきたいと思います」

「――そ、そそ、それだ! 今まで『通話』と『時計』と『電卓』以外に用途がなかったスマホは、これから各自アプリをインストールし、自分なりの使い方を見出すことを推奨します! ようやく新しい道が見えました! みなさん、今までの126回の会議は無駄ではなかったんです! うぅっ……」

 Tシャツとジーパン姿の若い男性。採用。

 司会進行、四階つとむ。感極まって涕涙ているい


「え、そんな! 自分たちでスマホの使い方を探せって言うんですか!」

「そうよ、自分で考えるなんて怖い! スマホが壊れたらどうするの!」

「そもそも、どうやって! 誰かが教えてくれるんじゃないんですか!」

 参加者。激怒。悲哀。当惑。

「みなさん、私たちは変わるんです! わかりましたか? わかりましたね? はいこれにて閉会! では、来週からはパソコンの新しい可能性について、会議を行ってゆきます。皆さん、しっかりと案を練ってきてください」

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