『武道館は鉄格子の向こうに』


「みんなー!今日も晴海の配信にきてくれてありがとう!」

 元気な声。華やかな衣装。一目見ただけで魅了されてしまいそうな妖艶な表情。それは誰がどう見ても、トップクラスのアイドルだった。


「まったねー」

 でもなぜか、背景だけは監獄みたいにどす黒い色をしている。


「はいはい、お疲れ様でしたー」

 モニター用の画面が暗転すると、彼女はすぐさま俺との距離を狭めてきた。


「どうだったどうだった?今日も可愛かったでしょ、あたし」

 鬱陶しい。


「ね、ねえねえ、どうなのプロデューサー」

「その呼び方はやめろって何回言えば」

「つまんない。そんなに『看守さま』って呼ばれたいの?変態」

 俺はやつを睨みつけながらなんとか我慢した。怒鳴りつけたいのは山々だが駄目だ。こいつは、うちの刑務所一番の金づるなんだから。


 彼女の名は神楽晴海。

 窃盗23回。公務執行妨害罪4回。銀行強盗2回。ハイジャック1回。

 得意技は、一瞬であらゆる扉を解錠するという「姫ピッキング」。


 界隈では知らない人がいない無期懲役囚。

 彼女は今、人気急上昇中のネットアイドルである。

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面白い小説のイントロだけがある空間 ヨカワ @astrono1999

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