開拓村でスマホ? ~欠けた開拓地のそこそこ平和な日常~

海原くらら

開拓村の食堂にて。

 うーん。

 うーむ。

 あ、こんにちは。開拓村の兵士です。

 はい。今日も警備任務です。今は休憩中ですけど。


 なにか異常があったのか? いえ、別になにもないですよ。

 その割には深刻な顔してた?

 いえ、ちょっと考え事というか、記憶をたどってただけです。


 何か心配事があるのなら相談に乗るから話してみてはどうか?

 いやいや。本当に大したことではないんですよ。

 ただ、どうにも気になることがありましてね。休憩中だしちょっと考えてただけです。


 え? 前に悩みを聞いてもらったこともあるし?

 ああ、畑の土と直観についての。

 いやぁ、あの時は私の経験談を聞いてもらったぐらいですからね。そんな気にしなくてもねぇ。


 まぁそこまで言われるのでしたら、せっかくですしちょっとお話を聞いていってください。


 この村に来た開拓団の人たちって、いろいろな国から集まってるじゃないですか。

 私たち兵士もそうなんですよ。

 開拓騎士団の兵士は各国から開拓本部に集められ、そこで出身国を問わず一緒になって基礎訓練を受けるんです。

 そうです。本来の出身国はバラバラなんです。


 それでですね。

 国や地域によって、文化というか言葉の違いってあるじゃないですか。

 あるものを、似てるけどちょっと違う言葉で言い表すような。


 たとえば、ここ最近で食事に出るようになった小さい揚げ物のことを、コロッケって言うかクロケットって言うか、とか。

 で、自分が知ってるコロッケだと思って食べてみると、中身が思ってたのと少し違ってたりして。

 それがちょっとした雑談話のタネになったりするんですよ。

 これは小さすぎてうちの国のコロッケと違う、いやこっちではカニのすり身を入れる、いやいやうちの国のクロケットではこうだ、とか。

 ま、そういう違いを知るのもおもしろかったりするんですけどね。


 それと似たような流れで、たまーにその国独自の言葉というか、今まで聞いたことない言葉ってのを聞いたりするんですよ。

 方言っていうんですかね。ある国のある地方だけで使われてる言い回しとか、別称とか。

 イノシシのことをノブタって言ったり、他にもボタンとかヤマクジラとかヤマバシリとか。


 そんな中で、ひとつ謎の言葉がありましてね。

 いつかの食事時に、誰かこの言葉を知ってるか? って話になったんですよ。

 その人も聞きかじりの単語で、どういう意味か分からないそうで。知ってたら教えてくれって。

 でも、その場の全員が誰もその言葉を知らなくて。


 スマホ、っていう言葉なんですけど。


 聞いたことあります?

 あー、やっぱりないですか。

 どっかで聞いた気がするんですが、どうしても思い出せないんですよねぇ。

 そういうのって気になりません? 私は気になっちゃいます。なんでかずっと頭から離れないんですよね。


 剣の騎士様に聞いたら、酢味噌すみそや酢豚なら知ってるけど酢マホは知らないって言われました。

 むしろマホってなんだって聞かれましたよ。

 少なくともあの方が知ってるものの中にマホって呼ばれるのはないそうです。

 あとマホって名前の人はいるけど、スマホは聞いたことないと。


 他には、マホが魔法という意味ではないかという説が出ました。

 頭にスがつく何かの魔法、それが変化してスマホ。

 それで、術騎士と呼ばれてる魔法が得意な騎士様にスマホって魔法があるか聞いてみたんですが、知らないって言われまして。


 そちらにはスってなんだって聞かれましたね。

 術騎士様が言うには、よく聞くのは火の魔法、水の魔法、風の魔法、土の魔法の四種類だそうで。

 それらはどう言葉が変化してもスの魔法にはならんでしょうと。

 もし新しい名前の魔法だったら興味があるから教えてとは言われましたがねぇ。


 スマホ。酢マホ。ス魔法。

 ……酢魔法。

 すべてを酢漬けにする魔法?

 いや、まさかそんなねぇ。


 あっ、獣騎士様。

 いえいえ。大したことではないんです。休憩中にちょっとお話をしていただけで。

 ああでも、せっかくなのでひとつ聞いてもよろしいでしょうか?


 スマホって言葉、ご存じです?


 えっ、聞いたことある?

 何かの略語だった気がする?

 おお、初めての手がかりです。


 ほうほう。ある魔獣の名前だと。

 スマートホーン、略してスマホ。

 西方の言葉で賢い角、という意味なんですね。

 それってどんな魔獣なんでしょう?


 ふむふむ。旧大陸にいる魔獣で、獣騎士様も実際に見られたことはないんですね。

 一本の細く鋭い角を持つ魔獣。

 とても小さくて、ポケットに入るぐらい?

 それだけ聞くと可愛い動物みたいですね。ペットみたいな。


 え?

 油断すると大ケガする? 

 それも死ぬまで傷が残るほどの。

 スマホってかみつくんですか? それとはちょっと違う? 大炎上する?

 いやー、ちょっと想像がつきませんね。どういうことなんでしょう。


 ふむ。スマホは賢い上に、その角に込められた魔力を使ってスマホ同士で遠距離でも通信や通話ができる。

 他にもいろいろなことを手伝ってくれるし、記憶力がすごい。計算もできるんですか。

 それはなんというか、便利そうですね。

 スマホが生息する地域の獣使いは、その能力目当てでスマホを使役しようとする人たちがたくさんいると。

 へえー。


 サイズは小さめだけど、強い個体はやや大きい。使い続けると熱を持つ傾向がある。

 だから寒い地方では触って指を温めることもある。

 場合によっては触れないくらい熱くなることもあると。 


 ああ、もしかして炎上って、そのスマホが火を吹くぐらい熱を出したりするんですか?

 それもたまにあるけど、そうではない?

 とすると、どういうことなんでしょう。


 そのスマホを使って変なことをしようとすると、勝手に通信しだす?

 知らない他人が持ってるスマホに、自分のことを全部ばらされる? そのスマホの持ち主にも知られる?

 顔も住所も家族構成も行動範囲も好物も性癖も貯蓄額も借金額も昨日のおかずも全部!?


 変なことをしようとしなくても、うっかり間違った通信指示を出したら同じように他のスマホへ通信してしまう。

 それが他のスマホに次から次へと伝わっていって、一度広がりはじめたら止められない?


 それってどれくらいの範囲に広がるんですか?

 えっ、全世界レベル!?

 それも半永久的に伝わり続けるんですか!?


 恥ずかしいことであればあるほど、あっという間に広まる。

 それを見たスマホ使いの中には、他人事だからとおもしろがって広めたりする人もいると。

 そんなふうに勝手に情報と被害が広がっていくことを炎上って言うんですか。

 うわぁ。


 怖いですね。ちょっと本気で。

 そんな話を聞いたらスマホには近づきたくなくなりますよ。

 いくら便利だといっても、ねえ。


 正しく使えばそんなことにはならない?

 相手をただの道具だと思わず、ちゃんと手入れして、乱暴にせずていねいに扱うことが大事だと。

 そしてスマホのことを学び、個性をふまえて少しずつ自分に慣らしていくことが大切。

 危ないことには近寄らせないと。

 そうすれば、スマホはこちらのやりたいことをしっかり手助けしてくれる。

 それがスマホ使いの基本だと。

 なるほどー。


 あぁ、ごめんなさい。長話しちゃいましたね。

 貴重なお話をありがとうございました。とても勉強になりました。

 それでは。


 ふぅ。

 謎が解けてスッキリしました。

 ちょっと怖い話も聞いてしまいましたが。


 さーて、私もそろそろ休憩終了です。また警備に戻らないと。


 えっ、もしスマホが使えるのならどうするか?

 嫌です。


 そりゃ即答しますよ。

 私に使いこなせるとは思えませんし。

 仮に使うことになったとしても、事前にしっかり調べます。


 私は学びました。武器もスマホも同じです。

 便利だから、使えそうだからってだけで何も考えずに振り回すと再起不能の大ケガします。

 面白がってますけど、あなたも例外じゃないですよ?

 スマホには気を付けてくださいね。ほんとに。

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開拓村でスマホ? ~欠けた開拓地のそこそこ平和な日常~ 海原くらら @unabara2020

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