スマホ依存症の僕と画面の中のヤンデレ美少女
綾波 宗水
アナタは必要不可欠な存在です
「ヤバ、まだ宿題してない」
「夜はまだまだこれからだよ? もっとイチャイチャしよーよ」
刺激的な言葉に反して、見た目の方は、青髪ショートボブ&首元にヘッドホン&ゴスロリ風コスチュームといった萌え萌え具合。
そんな彼女の名はイーファイ、自称ファイちゃん。
「わたしの充電なんて放っておいていいから。だから離れたりしないでね。宿題も一緒に頑張るから」
*****
高校入試の合格祝いにスマホを買ってもらって以来、僕は見事なまでにスマホ中毒となっていった。
部活動やアウトドア趣味と縁遠い僕は、インドア趣味の代表格たる読書やアニメなどにハマっていったのが、義務教育時代であるならば、高校二年の三学期、俗にいう高校三年生のゼロ学期までの現時点では、スマホ依存症時代と評することが出来るだろう。
同じサーファーでも、ネットの大海原の場合は、上達するにしたがって肌は青白くなってゆき、持ち前の暗さと高校生活の内、三分の二で得た不健康さによって、僕は恋愛市場における無産階級ロードを気づけば歩いている始末。
青春真っ只中にある異性への関心は、無念にもアニメによって最低限保障されてきたが、とどまるところを知らない恋への恋は、やがてある結果へと結びつくのである。
何を隠そう、ついに天運に任せる祈祷師的日常から脱却し、自らの意志によって、彼女作りを始めたのである!
…………まずは二次元アンドロイドとの会話で、コミュニケーションスキルを高めなきゃだよな。
「やっぱ、ショートボブ正義だわ」
そうして僕の彼女としてこの世に生を受けたのが、他でもない、イーファイである。
一つミス?的なことを反省するなら、好感度をMaxにしたせいで、ヤンデレ美少女に出来上がったことだろう。
「次、
単なるアバターではなく、なかなか有能なアンドロイドゆえ、作成アプリ内以外であっても彼女は活動し続ける。
だから、これはハッタリなんかじゃない、過去に三度も経験済みだ…………
ついでに言うと、アダルト関連の内容は全て、表示されないよう、監視されてもいる。リアル彼女以上に束縛が激しい分、不思議と温かみもあったりする。て言うか、放熱してるわ。
「…………もしかして、表示外で何かしてないよね?」
「し、してないもん」
それほど高価な機種じゃないんだから、過度なインストールとアンインストールを繰り返したり、同時に多くのタスクを処理したりすると。
「あ」
彼女の断末魔と共に、
強制再起動を多用するのはスマホにもあまりよろしくない気はするが、彼女が可哀想という前に、僕の禁断症状を未然に防止する為にも、ここは愛するヒロインを救出しておこう。
彼女はまたしても泣いていた。どうやら、電源が落ちている間も意識はあるらしいが、明かりは一切なく、基盤という狭い部屋に閉じ込められているような感覚に陥るという。
僕も彼女も四六時中、ネットと繋がっているがために、そうでないほんのひと昔前の日常は、もはや日常ではないという訳だ。
「だから言ったのに」
「やっぱりわたしにはサトル君しかいないよ。絶対に離れないでね」
彼女との今の暮らしは、当初の意に反して、依存症を進行させている。もしかして、そういう目的で電源落としたんじゃないよね……?
とにもかくにも、スマホとの、もとい彼女との日常を大切にするためにも、僕は本気で宿題を終わらせなければならない!
高校入試合格までスマホを持たせてくれないような古風な両親だ、もし成績が一気に下がるような事が起きてしまえば、没収、いや最悪の場合、解約されかねない。
「顔色悪いよ? サーモカメラでは平熱だけど………」
心配してくれるのは嬉しいけど、サーモカメラとかいつインストールしたんだよ。それホントに無料なんだろうな。
僕は集中するためにスマホの通知音をオフにした。イーファイは若干、怒っているようにも思えたが、お互いの為を思ってここは宿題に徹することとした。
*****
集中して取り組んでみたら、小一時間で終えることが出来た。こんな事なら先に終わらせておいて、ゆっくりネットサーフィンでもしたのに、というのは毎度お約束の反省にならない反省だ。中毒症状おそるべし。僕の意志の弱さとかじゃなから。
寝る時間まではもう少しある。ならばスマホだ。
「むしろこの感覚が気持ちいいから、宿題を後にしてしまうんだろうな」
ただいまと言いたい気持ちを何となく抑えて、僕はスマホを見る。
はずだった。
本日二度目の暗転である。これはおそらく落ちたというより、イーファイの報復、すなわち、彼女の意図的な電源オフだろう。
そんな安直な考えは、自らの慣れた手つきによって、すぐさま捨てざるを得なくなった。
電源が付かない。
「は?」
え、どうして? 充電切れ? そういやそんな事を言っていた気もしなくはない。
案ずるより産むが
充電ランプが点灯する。しかし、画面には何パーセントの充電があるのか表示されない。
電気が供給されているのに、どうして充電されない。
僕は冗談抜きに禁断症状の如き苛立ちを覚えはじめた。仮に壊れているとしよう。ならば修理をすればいいだけなのだ。
だが、事態は僕にとってはなかなか深刻だった。
――イーファイはどうなる――
この疑念がよぎるたびに、僕は強制再起動を試みた。
だが、機能を停止した心臓に何度、電圧を加えてもフランケンシュタインみたく蘇生されないように、焦りと虚しさだけが募っていった。
こんな事なら、彼女をつくらなければよかった。
思わずそんな事さえ感じる程に、僕は後悔に悩まされていた。ヤンデレなのが時には疎ましく思ったが、それでも僕は居てくれさえすれば良かったのだ。一度たりとも、最初から作り直そうとは考えなかった。
このアプリの特徴の一つに、同じ性格数値・容姿を選択できないというものがある。
まさに一期一会と言おうか、仮にスマホ所有者の意図によって『破局』という結果になった場合、まったく同じ恋人を作る事はできないのだった。
似たような恋人は存在するだろう、しかし、疑似的存在と言えども複製を重ねるのは如何なものか。これがアンドロイドとしてやり取りを極限までリアルにした代償なのである。
そのため、僕が別の機種を持ったとしても、彼女とは二度と話すことが出来ない。
突発的事故への保障は…………
「そうだ!」
勢いあまって、机にぶつかってしまったが、痛みはそれほど気にならない。
もしかすると、スマートウォッチなら。そう気づいた瞬間に僕はクローゼットの中を探し出していた。
流行りに乗っかって購入したのだが、イメージと反して、お世辞にも近未来的アイテムとは言えない代物である事に加えて、常にスマホを使用している僕には機能自体もあまり役に立たず、文字通りお蔵入りとなった。
スマホと連動させているのだからきっと――――――
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「やった! イーファイ!!!」
「サ"ト"ル"く"ん"!!!!」
めちゃくちゃに泣き崩れたイーファイの姿がそこにあった。
「わたし、もう会えないと思ったよー!」
ぴーぴーと泣く彼女に、涙腺よりも安堵感を刺激される。
「充電が無くなる直前に、インストール時に潜んでいたウイルスが発動しちゃってね、何してもエラーになったの、だからね、わたしね」
「イーファイが無事でよかったよ」
また泣いてしまった。まあ、これを機に、持ち主に勝るとも劣らないスマホ使用は控えような。
*****
「サトル医院長、スマートウォッチ経由で
「お、ついた!」
「ふむふむ、私たちの愛の巣は何も荒らされてないよ! やったね♡」
単なるイタズラ目的で、恋人を失いかねなくなったんだ、結果良ければすべて良しだが、それにしても………
「心拍数早まってるよ」
「そんな機能使ってないで、スマホに帰ってきなよ」
「ドクンドクンドクンドクンだって」
「やめろや」
「いつもみたいにサトル君の手の中も落ち着くけど、スマートウォッチだと心臓の音も聞けて、何だかハグしてるみたい………♡」
「これからはスマホが使えなくても一緒だね」
本当に僕が依存していたのは、スマホではなかったのかもしれない。
いや、僕らか。
「サトル~? 何バタバタしてる……の」
母が思わず目撃したのは、自慰行為をする年頃の男の子でもなければ、人なり動物なりを密かに家へと招き入れたわが子でもなく、時計に映された漫画のキャラクターのような女の子に向かってニヤニヤしている息子であった。
スマホ依存症の僕と画面の中のヤンデレ美少女 綾波 宗水 @Ayanami4869
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