アユミ
きょんきょん
アユミ
<久しぶり☆元気?>
「んあ?誰だっけこいつ」
ベッドに寝そべりながらスマホゲームを楽しんでると、画面上に一件、SNSの通知が届いた。
「アユミ?そんな女いたっけ……あー、この前要らねえやつ一気に消しちゃったからやり取り残ってねえんだったわ」
返答に困った俺は、そのまま未読スルーをしようと思いゲームに戻ろうとすると、再び通知が届いた。
<あーもしかして私の事なんて忘れたんでしょ。真司そういうところあるからなー。私の誕生日の時も忘れてたくらいだしね>
申し訳ないが付き合ってきた女の誕生日なんて誰一人覚えちゃいないんだが……。
覚えてないと正直に言うのも
海馬の細胞を極限まで働させ、アユミという名前が当てはまりそうな元カノ達を記憶の海の底からピックアップした。
第一候補、橋本アユミ。
年齢は確か二十四歳だった気がする。職業は看護師だったはずだ。デート中に急な呼び出しがあったとかで何度すっぽかされたことか。
第二候補、井上アユミ。
年齢は何歳だったけか……確か年上で三十歳だったような。面倒見は良かったんだが次第に結婚を迫るようになって面倒くさくて別れたんだ。
第三候補、松永アユミ。
年齢は二十六歳かそこらでタメだった気がする。付き合うぶんには面白かったんだが身持ちが固すぎて諦めたんだっけ。
思い返すと、ろくな付き合いをしてないなと自嘲してしまった。
「しかし情報がないとこれ以上思い出すこともできないな」
何か手掛かりはないかと返信をする。
<わりいわりい。そんで誕生日いつだったっけw>
これで教えてくれればヒントになるんだが――
<えー本当に忘れちゃったの?9月だよ9月!>
九月と聞いて、真っ先に橋本アユミは選択肢から外れた。確かあいつの誕生日の為に予約していたレストランに行けなくなって喧嘩したんだ。
それが四月だったはず――
<ああ、そうだったっけwそういやさ、仕事はどうよ。残業とか忙しくないのか?>
井上アユミは広告代理店に勤めてて、付き合っていたときも残業ばかりで疲れてたようだし、今も仕事が変わっていなければ残業三昧のはずだが、返事はどうだ――
<仕事ねー。忙しいわよ。毎日毎日くたくたよ>
思わずガッツポーズをした。思った通りの内容だ。アユミとは松永アユミだったんだ。
どうやら未だに独身のようで哀れでもあったが、少しは優しくしてやろうかと思い返信する。
<そっちの仕事も大変だよな。無理はするなよ>
するとすぐさま返信があった。よほど話し相手になってもらいたいのか。
<気遣ってくれてありがと。なんだかんだ言って真司は優しいよね。介護の仕事は大変だけど、倒れない程度に頑張るよ>
「っておい、井上アユミじゃないのかよ!じゃあ……残りの松永なのか」
そうか、そうだったのか。松永アユミは介護士をしてるって言ってたような……。いつも人手が足りなくて忙しい忙しいってぼやいていたのをすっかり忘れていた。
でも、それならこれで答えがわかるはずだ。
<そういえばさ、アユミあのアパートにまだ暮らしてるの?>
何度迫っても断られ続けたあのアパートを良く覚えてるぞ。他の二人はそれぞれマンションだし、これで答えがイエスなら松永アユミで決まりだ。
<それ、誰と間違えてるの?私ずっと実家暮らしなんだけど>
「お前誰だよ!」
予想していた三人とは違うアユミに思わずツッコんでしまったが、正体が一切わからぬ相手とのやり取りが気持ち悪くなり、アユミという名前の人物が本当に存在するのかと疑心暗鬼に陥っていた。
「もうこうなったら直接名前を聞くしかないか……」
出来れば避けたかったが、モヤモヤした気持ちのまま終わらせることもできず、奥の手を使った。
<ごめん。名字なんだっけ?>
これは絶対に怒られるパターンと覚悟した。それもそうだ、結局思い出せなかったのだから。
既読になってからしばらく時間が経過し、やっと返ってきたメッセージを確認すると、その内容は予想とは大きく異なるものだった。
<えっと、私こそごめん。もしかしたら勘違いで送っちゃったかも……>
「え?」
どうやら、アユミさんは同じ名前の真司くんに送りたかったらしいが、俺と同じタイプでやり取りしてなかった人の履歴は消してしまうらしく、残っていた同名の俺にメッセージを送ってしまったとのこと。
ひとしきり謝られ、こちらも余計な勘繰りをしてしまったことを詫びて一件落着となった。
胸につかえていたモヤモヤが取れ、気分がスッキリした俺はやりかけのゲームに戻った――のだが、ゲームの画面を見て再びモヤモヤが戻ってきた。
「で、俺のこと知ってるアユミさんは一体誰なんだよ」
アユミ きょんきょん @kyosuke11920212
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