Ubiquitous
澤田啓
第1話 禍福は糾える縄の如し
「おぉぉっ!
朝の通勤通学ラッシュ、満員電車の中で思わず大きな声を出してしまった私の顔を『このオッさん……朝から何を
思わず漏れ出た大声に対して、いい大人である私は……少し赤面しながらも『えっ??誰がそんな声を出したのでしょう??』みたいな表情で取り繕ってみせたのだが……どうにもこうにも、私の顔をまだ見ている高校生を含んだ、私の周囲で立っている他の乗客の耳も誤魔化し切れてはいないようだ。
私が通勤時間でのみ楽しんでいるスマホ用ゲームアプリ『モンストロ・ジャッジメント・クエスト(通称:モジャクエ)』の10連ガチャで、最強の誉れ高いモンスター『
新型コロナウィルスの蔓延に伴い、マスクの着用が社会的常識上のマナーとなっていたからこその、間抜けなニヤけ顔ではあったのだが。
『モジャクエ』内における
早速と云うか、ゲームアプリ愛好家ならではの作業と云うべきか……溜めに溜め込んだ屑モンスターを『熾天使セラフィム』の強化に費やし、グングンと成長する『熾天使セラフィム』のステータス値に……私のテンションはMAXまで跳ね上がった。
『このモンスターが最強と呼ばれるのも判る、コイツはぶっ壊れた性能の持ち主や……』
今度は声を出さないように、鼻息荒くニヤけたままの私は……ここに至るまでの長い道のりを思い出し、感慨深い思いに囚われていた。
新作としてリリースされてから半年以上が経過した『モジャクエ』は、確率の辛過ぎるゲームアプリとして名を馳せていた。
最初に私が叫んだ超エクセレントレアの排出確率は僅か1%、その中でも大当たりキャラと呼ばれるキャラの排出確率は10%……そしてその中でも私が引き当てた『熾天使セラフィム』が排出される確率は10%と、立ちはだかるハードルを全て超越するには0.001%の確率が必要となっていたのだ。
世のサラリーマン諸兄と同じく、毎月における収入がお小遣い制であり……昼食代込みで30,000円と定められている私では、ゲームアプリに課金するなどもっての外……運営会社が毎日1クレジットずつ配布する無償のログボだけを頼りに、コツコツと10連ガチャに必要な200クレジットを溜めた私は……今朝の通勤電車で運試しをした自分の豪運を誇らしく思っていた。
『やっぱり…"お目覚めTV"の占いで牡羊座が1位やったんが良かったかな?』
そんな上機嫌な私は、ニヤニヤ笑いをマスクの下で浮かべたまま……『モジャクエ』の売りである
昨日までは狩られる側であった私が、今日からは狩る側の強者としてログインするのだ。
そんな期待に満ちた目で見つめる『接続中』の画面が『準備中』に変わり……そして対戦相手が画面に表示された。
『おほっ!アナタは"熾天使セラフィム"を所持していらっしゃらないのですか……申し訳ないが負けを覚悟してくださいねっと!』
スマホの画面が切り替わり、対戦フィールドのエリアが表示された瞬間……激しい衝撃と共に、金属と金属を思い切り擦り合わせたような轟音が満員電車の中に響き渡り、私の躰はニヤけ顔を貼り付けたままの姿勢で吹っ飛んで行った……………。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「それではニュースです。
本日の午前8時頃、JR◯◯線の□□駅の構内で、隕石が走行中の新快速電車へ衝突し……そのまま乗客の男性に直撃、この事故により隕石の直撃を受けた乗客の男性一名が死亡しました。
それでは次のニュースです、本日午前7時にソーシャルゲーム最大手のS社のメインフレームに不正アクセスによる侵入があり、世界で5000万人の登録者を誇る『モンストロ・ジャッジメント・クエスト(通称:モジャクエ)』のデータが書き換えられ、人気キャラクターの排出確率が一時的に100%へ上がったそうです。
この不正アクセスによる侵入を受け、S社はゲーム内の公平性が保てなくなるとの理由で、『モジャクエ』のゲーム配信を停止すると発表しました。
この不正アクセスによる被害総額は、利用者への補償も含めると、およそ300億円に上るとの試算が…………………」
【禍福は糾える縄の如し:完】
※ Ubiquitous …… ラテン語で遍在をあらわす語「ubique」に由来する英単語。ラテン語のこの語は宗教的な文脈で神の遍在をあらわすために用いられる。
Ubiquitous 澤田啓 @Kei_Sawada4247
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます