都市伝説少女

夜野 舞斗

黄昏時に降臨す

 部活が終わるのは毎度、この時間。太陽が空を血と同じ紅の色に滲ませる位の時間だった。今日も写真部の活動はいたって普通。終わり以外は、ね。

 皆、僕を置いてさっさと帰ってしまった。何時もなら皆、遅くまで残ってぺちゃくちゃたわいもないことを話している癖に。もしかして先生に言えないことでもやらかしたから、こそこそ逃げることになったとかではないよな。何故、僕も混ぜない。僕だったら僕が面白い隠蔽工作を考えてあげたのにと思いながら辺りを見る。一応、ぶちぎれてる先生に叱られるのは嫌だからね。

 すぐさま学校から脱出して、帰宅をする。こういう何か気持ち悪いと言うか、尋常じゃない感じがするときは自転車で一気に駆け抜けたかったのだが。生憎、自転車は修理中。歩いて帰ることしかできなかった。


 河川敷まで歩いてふと思う。


 ああ……こういう時って必ず不気味なことが起こる予感がするのだ。体質とでも言おうか。名探偵が旅先で事件に遭遇するのとかなり似ていると思う。

 僕は事件ではなく、怪異に好かれている。

 急に寒くなる。それでいて肌がピリピリしたものを感じている。痛いともいえるこの不思議な緊張感。

 忍び寄る足音。舌なめずりなんかの音も聞こえてきてしまう。

 一歩一歩僕の方へと狙いを定めている。

 僕が後ろに振り向いた瞬間、目に入った細目の少女はマスクなんかを口に付けて、こう呟いた。


「私、綺麗……?」


 妖怪、口裂け女と言うものだろう。ただ伝承にしては少々若すぎる気もする。怖さよりも今回はその興味本位の方が勝ってしまった。

 いや、怖いよ。自分が、怖い。自分の考えそのものが口裂け女よりホラーだと思う。

 何て答えないでいたら、彼女は更に目を鋭くする。やめてくれ……。


「もう一回聞くわ。私、綺麗かしら?」

「や、やめろ……」

「綺麗じゃない……の?」


 僕は彼女の様子にぶるぶると震え始めた。ああ、怖い。このままでいくと、滅茶苦茶怖いことが起こってしまう。


「何。ヤバい、滅茶苦茶好みなんだけど。僕、普通じゃダメなんだよ。普通の優しいような目付きだとちょっと苦手なんだけど、もうこの鋭い目と言うか、このツンデレっぽい眼差しで見られるともう綺麗とか、通り越して好きなの! ダメ! もうここまで言っちゃう自分が怖い!」

「綺麗とかじゃなくて、好き?」

「いや、勿論、綺麗に決まってるでしょ! で」


 僕はちょっとすみませんと言いながら、マスクを取らせてもらう。ああ……口はちょっと裂けてるように見えるものの、これもまたキュートだ。

 うっとりと見つめ続けてしまった。


「え……綺麗なの?」

「ええ。間違いなく。いやぁ、癒されます。ちょっと、ゆっくりお話しでもしませんか?」

「え、ま、まぁ……!」

「ついでに写真もお願いします!」


 怪異だとか、人間だとか関係ない。

 僕は相手にできる限りの好意を向けた。相手も時々笑って見せてくれるのだから、もう怖い。時々、その可愛さと尊さに心臓が止まってしまいそうになるのだ。

 彼女はどうやら口裂け女の見習いでなかなか、人を驚かせられずに困っていたそうだが。

 いやぁ、彼女の可愛さには驚かされるよ、本当に。マジで。


 何て自慢を友人にしてやろうとして、二人で撮った写真を見せようとしたのだが。映ってはおらず。

 ……ああ、怖い。

 もし、彼女が幻覚だとしたら、僕は一人自分の空想に恋していたこととなる。河川敷、一人でぶつぶつ危ないことを言ってる変人だと思われてしまう。

 ここまで怖いことって、オカルトでもそうそうないんじゃないかな……。

 ううん、あれは夢じゃないって信じたいよ……!

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都市伝説少女 夜野 舞斗 @okoshino

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