関西人が最も恐ろしいと思うハナシ
薮坂
恐ろしいアレの正体
「最近ウチさぁ、ホラーもんにハマってんねん」
「ホラエモン? なんやそれ、めっちゃウソ吐きそうな猫型ロボットの名前みたいやな」
「ちゃうわ、ホラーもんやホラーもん。怖い小説とか怖いアニメとか怖い映画とか、そういう怖いヤツやん。ていうか、あんたの耳どないなっとん? 確実におかしいで。あ、おかしいのはアタマのほうか」
「なんもおかしないわ。お前の声が小さいねん。あと乳も小さいねん。まぁ、そこは数少ないお前の好きなとこやけどな」
「小さい言うな、しつこいねん。それ嬉しないねん」
「ほんで、なんやって? ホラーもんが好きってハナシやったか」
「あ、そうそう。ホラーもんの話。最近多いやん? オカルトもんとかゾンビもんとか。今ちょうど、テレビドラマでゾンビもんやってるやろ。地上波でやるなんか凄いことやで。ウチらゾンビ愛好家からしたら、快挙やで快挙」
「まずお前がゾンビ愛好家やった、てことが驚きやな。長いこと幼なじみやっとるけど初耳やわ」
「そらな。初めて言うたし」
「いつから愛好家なんよ」
「2ヶ月前からやね」
「えらい歴史浅いな。ほんでそれ、ちょうどそのゾンビドラマ始まった時期からとちゃうんか。どうせ主演の役者が好きやとか、そんなしょーもない理由やろ」
「惜しいな、主役ちゃうねん。脇役の役者さんが好きやねん。めちゃくちゃカッコええから、ほんまに。ほんでな、これ原作のないオリジナルドラマやからさ、いつ死んでまうかわからんから毎回ドッキドキやで」
「オキニの役者が死ぬや死なんやいうとったら、ちゃんとストーリー見ろやって本意気の人らに怒られるんちゃうか。ゾンビ舐めんな、言われるで」
「舐めたらゾンビに感染するやん」
「そう言う意味ちゃうわ、アホ。ほんでそのドラマ、オレは見てへんけど、浅めのゾンビ愛好家のお前から見てどうなん。日本のゾンビドラマの出来は」
「浅め言うなや。深さは期間が決めるんとちゃうで。愛が決めるねん、愛が」
「その愛は何て言うてるん。おもろいなら、まぁ見たってもええけど」
「なんやムカつくな、その上から目線。そんな態度やったら見んでもええ。作品に失礼や」
「えらい言葉を弄しとるけど、結局どないやねん。おもろいんかおもろないんか、そこが聞きたいんや」
「まぁ、おもろくないワケやないな。上からになるけど、ようやっとるってのが正直なとこやわ。キビシイこと言わせてもうたら、ちょっと怖さが足りへんねん」
「へぇ、怖さが足りんとはな。それ、ホラーもんとしては致命的ちゃうんか。ゾンビもんやのに怖ないって」
「んー、主題はホラーとはちゃうねんよ。それこそ主題は愛やで、愛。絶望的な状況下で、それでも二人は諦めずに生きようとすんねん。終わりゆく世界の中でな」
「それ、ゾンビもんでやる必要あるんか? あと、お前のキメ顔も大概やで。こないだオレのキメ顔に散々文句言うてたけど、お前の顔も負けず劣らずやな。ムカつく顔してるわ」
「うっさいな、あんたよりは可愛い顔してるわ」
「まぁ、どうでもええけど今ので決めたわ。オレもわりとホラーもん好きやけど、怖ないっていうなら観る必要ないな」
「あんた、ホラーもん好きなん? 意外やな。小さい頃は、オバケが怖い怖い言うてよう寝小便タレとったやん」
「いやマジでクチの利きかた気ぃ付けぇや。高校生の年頃の女が『寝小便タレる』とか言うな。せめてチビるって言え。ほんま友達おらんなるで。そういやお前が友達と仲よう喋ってるとこ、見たことないな」
「うっさいな。友達くらいおるわ」
「ほんまにオレ以外に存在するんか、友達は」
「なんであんたがウチの友達ポジみたいな顔してるん?」
「え? オレお前の友達とちゃうん? こっわ、久しぶりに怖い思いしたわ」
「ちょっとしたホラーやろ。チビった?」
「チビってへんけど、無駄にビビらすなや。オレ、お前の友達ちゃうかったら一体何モンやねん。どのポジやねん」
「それは追々決めるわ」
「追々ってどういうことやねん。何に決まるねん」
「そやからそれは追々な。まぁそんなハナシは置いといて、や。こういう『日常の怖さ』って言うんは、なかなかおもろいモンがあるやんな」
「えらい話題曲げてくるやん。高速スライダーくらい手元で変化するやん。受け損ねるわ、お前との会話のキャッチボール。愛が全く感じられんねんけど」
「愛はあるで? 直球やないけどな」
「いらんわ変化球の愛なんか。真っ直ぐな愛でこいや」
「ほんでさ。なんかこういう『日常の恐怖』みたいなハナシ、他にない?」
「無視か、もうええわ。ほんで次は怖いハナシ大会かいな。せやけどまだ真昼間やで。電車待ちの駅のホームですることやないやろ」
「なんかないん? 最近怖かったこと」
「ゴリ押しやな。まぁええけど。んー、最近怖かったこと……いややっぱないわ。ていうかそんなポンポン出てくる話題でもないやろ、こんなん。むしろまずお前が提示せぇや。こんなハナシ求めてます、って具体例を」
「具体例なぁ。ウチもそんなに……いや、あったわ」
「あるんかい。で、それどんなハナシなん?」
「この前、クラス対抗の球技大会あったやん? バレーボール大会」
「あぁ、あれな。あったな」
「球技大会が終わってさ、さぁ着替えよかなーって思てたら、ないねん」
「乳は元々ないやろ」
「乳のハナシちゃうわ! ブラのハナシや!」
「え? それめっちゃ怖いハナシやん」
「せやろ? ウチの学校に下着泥棒が出たんやで。怖すぎるわ」
「状況からして、確実に内部犯行やな。腐っても私立高校や、正門には警備員さんもおるしな。ほんで、盗まれたんはお前の下着だけなんか」
「せやねん、ウチのだけやねん」
「なるほど、なかなかの謎やな。ミステリや。オレらのクラスには、お前より美人はようさんおる。その中であえてお前の下着狙ういうんは、なかなかの猛者やで。なんかこう……親近感覚えるわ」
「親近感? まさか、あんたとちゃうやろな」
「ちゃうわ、覚えるんは親近感だけや。たぶん、犯人はかなりの貧乳好きやと思われるな」
「いやそれあんたやん」
「一緒にすな。オレは盗みはやらん。仮にどうしても欲しなったら、きちんとお前に頼むわ。恥を忍んでな」
「頼むから、一生忍んどいてな」
「……しかし怖いハナシや。謎は深まるばかりやで」
「謎? 犯人てこと?」
「いやちゃう、そうやない。謎はふたつや。ひとつ、お前はノーブラで家に帰ったんかどうか。ふたつ、お前は球技大会中ノーブラで過ごしとったんかどうか。このふたつや。もしオレの予想が的中してたら、ほんま惜しいことした。球技大会中、もっとお前を見とけばよかったわ」
「ブラから離れろや、アホ」
「ブラから離れられてるんはお前のほうやで」
「そういう意味ちゃうわ、アホ。あんなぁ、大会中はスポブラ付けとったに決まってるやろ。なくなったんは普通のブラや。だからスポブラで帰った。それだけやで」
「汗まみれのスポブラで?」
「汗まみれ、とかいうなや。変態」
「この年頃の男はみんな変態やで。それ人間を『おい人間』って呼んでるようなもんやで。いやしかし、惜しいことしたわほんま。もっと観察しとけばよかった。オレも修行がまだまだやな」
「なんの修行よ」
「お前の乳の実サイズを知る。それがオレの隠されたライフワークなんや。言わば修行や、修行」
「ウチからしたら苦行やけどな。ほんでどこまでも変態やな。一生隠しとけ。こんなんが幼なじみとか、ほんま怖いハナシやわ」
「ある程度は掴んでんねん。いや小さすぎて掴まれへんけどな。あとは細かい数字やねん」
「掴もうとすなや、ほんま怖いわ」
「……ところでお前、嫌いなアルファベットと数字、言ってみてや」
「は? いきなり何なん? 嫌いなアルファベットと数字? 好きなほうやなくて?」
「そうそう、嫌いなほうな」
「んー……、Aと2かな」
「ピタリや。お前のサイズ、Aの72やな?」
「こっわ!」
「これが、メンタリズムです」
「ちゃうわアホ! メンタリストに怒られるで! いやほんま引くわ。ドン引きや。最近聞いた一番怖いハナシに間違いないわ。自分の幼なじみがこんなにヤバいヤツやったとは、今後の付き合い考えなあかんな」
「身近な恐怖って、案外転がってるもんやな」
「キレイに締めようとすな」
「そう言えば、オレも思い浮かんだで。身近な怖いハナシ」
「思い浮かんだ? どう言うことよ」
「ちょうどええから、なぞかけスタイルで説明したるわ」
「えらい上からやん。ほんで自らハードル上げていくスタイルやん。まぁええわ、せっかくやし聞いたるわ」
「ほないくで。お前、『その心は?』って合いの手いれてな」
「ムカつくなぁ、そのキメ顔。まぁええわ、言うたるわ」
「……このハナシの結末と掛けまして、お前の乳と解きます」
「その心は?」
「ヤマもなければタニもない真っ
「……しょーもな! ほんでこのハナシにオチがないとか、一番怖ッ!」
【終】
関西人が最も恐ろしいと思うハナシ 薮坂 @yabusaka
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