不思議な体験をした夜

ケイくんとナナさん或いは義鷹=gsgs

怖かったあの日

薄暗い部屋の真ん中で蝋燭の炎が揺らめいている。そこに浮かび上がった皺だらけで干からびかけた老爺の姿。その口が歪んだかと思うと身体ごとこちらへ飛び込んできて──


「──ッ!!……夢?……夢かぁ良かったぁ」

悪夢を見ていた気がした。飛び起きて部屋を見渡すと寝る前と変わらないいつもの暗い部屋だった。荒くなった呼吸を整えてもう少し一度寝ようとした時、冷や汗で背中がびしょ濡れになっていることに気付いた。ベッドから起き上がり汗を拭きに洗面所へ向かおうとしたその時、部屋から音が消えた。そして妙な寒気と共に頭上を何年も髭を剃らず、床屋にも行っていなかったような毛むくじゃらな中年男性の生首が半透明となって通りすぎた。「は?」と呆ける事しか出来ない中、その男性の頭を追うように半透明の女性の生首が通りすぎた。手元にあった時計を見てみれば丁度丑三つ時、怖くなった僕は汗が冷えて冷たくなったパジャマを急いで着替えてもう一度眠りに着こうと目を閉じた。


次に目が覚めたのは部屋から物音がした時だった。よく部屋に家族が入ってくることがあるから、誰かそこに居るの?と声をだそうとしたけれど寝起きのせいか声が出なかった僕は、起き上がって確かめようとした──しかし動けなかった。金縛りだと気付いたとき一気に怖くなった

(え?動けない?動けないんだけど??こういうときはどうすれば良かったんだっけ……もういいや)

さっきの生首の事もあって怖さが受け入れられる一定値を越えてしまったのだろうか、部屋のどこかで聞こえる物音と金縛りという状態に楽しくなってきていた。

(右に動け──ない、ハハハ、なら左に動け──ない……ハハハ、楽しいなぁ)

初めて感じた金縛りの感覚を壊れたように楽しんでいた。


しばらくして物音が消え、急に何もなかったように金縛りが解け、動けるようになった。そして物音がしていたところを覗いてみたが、何も変化してなかった。それを確認した時、それまで感じていなかった恐怖が一気に襲ってきた。急いでベッドへ戻って布団を頭まで被り、音楽をかけながらもう一度眠ろうとした。しかし、恐怖で眠気が飛んでしまってなかなか寝ることができずに一時間ほどが経過した。何もせずに横になっていれば流石に瞼も重くなってきて、ようやく寝れるかなと瞼を閉じると部屋がとても寒く感じるのに気付いた。今の季節は夏前で夜でも寒く感じること無かったし、布団を頭まで被っていてさっきまでは暖かかったのに急に寒く感じたことに嫌な予感がしながらもなんとか眠ろうとしていた。そうしてこの夜最大の恐怖が僕を襲った。


寒い部屋で布団に潜って震えているとかけていた音楽が急に聴こえなくなり、部屋は一気に無音の空間へとなった。怖くなって壁の方を向いて目を閉じて、自分が息をできているのかも分からなくなっている中で不意に身体が重く感じた。そして見えない何かが耳元に居るのが分かった。布団があるのも関係なしに僕の耳を引っ張り、「※※※※」とノイズがかかった声で四文字囁かれる。そう囁いた後、その声の主はその寒い部屋よりも冷たく感じる空気の塊で僕の身体を撫で回して耳と髪の毛を摘まんだ。そしてゆっくりと持ち上げようとし始めたのだ。このままだとヤバイと感じた僕は慌てて抵抗を始めた。僕を無理矢理に引っ張り上げようとするその存在が居なくなるまで僕は抵抗を続けているとようやくその冷たいナニカは諦めたのか引っ張るのを止めた。その瞬間に部屋の温度は戻り、荒々しい僕の呼吸だけが部屋に響く、震える手で耳たぶを触るとそこにはまだナニカに引っ張られていたときの感覚が残っていたのだった。


その日から僕は年に一度、誕生月に寺社巡りをするようになった。

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