第7.5話 むかしむかしのおはなし
栗花落家の次男として生まれた弟は生まれたときから芸術性に溢れていた。絵を描かせればたくさんの人を魅了した。文字を紡がせればたくさんの人が共感した。歌を歌えばたくさんの人が支持した。弟は中でも歌うことにとても優れていた。綺麗な歌声を聴くのは僕と母のたのしみになった。ただひとり、父は違った。
芸術性に溢れている弟に父は徐々に目を向けなくなった。最初は可愛い可愛いととても愛していたのに。弟の能力が目に見えてわかればわかるほど父は笑わなくなり、弟から手を離した。
そして、ついに父は弟を視界にいれなくなった。
栗花落家にはもう1人、長男が居る。芸術性に溢れていた栗花落家の次男の双子の兄だった。兄は言われたことを、やるべきことをとても丁寧に一寸たりとも間違わず、完璧にこなせる器用な人間だった。社交的で母に似た綺麗な容姿(弟も同じ顔ではある)は人々を虜にした。自然と兄の周りはいつも人が溢れていた。兄はそんな下心ばかりの人間達を毎日、毎日相手にしていた。
そんな兄を父は心底愛した。はじめは弟と同じく可愛い可愛いと唱えていた。しかし、その愛は目に見えて強くなり、重く歪んでいった。そして父は兄しか視界にいれなくなった。
兄に早くからたくさんのことを教え指示した。兄はそれをとても丁寧に一寸たりとも間違わず、完璧に器用にこなした。
兄はまるでロボットだった。
いつしか兄は弟と会うことが許されなくなった。広い屋敷の中、ふたりは離れ離れになった。
次第に兄の才能に惚れ込む父はおかしくなっていった。
そんな父を見かねた母は弟を連れて出ていった。
「行かないで」
と泣き叫ぶ兄を置いて。
母は
「ごめんなさい」
と。
幾度と繰り返していたのを忘れられない。
そう、僕はその兄なのだから。
さよならはペパーミント 天使 ましろ @am_noenoe
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