真偽と真相

 ホテルの中庭、日本庭園を二人で散歩する。自然と繋ぐ手は大きくて熱い。先ほど白ワインを飲んでいたからだと思うがその手は強く亜由美を掴んで離さない。もう逃げることはできなさそうで、その意志の強さを感じることができるだけに、緊張が増してしまう。

 さりげなく手をほどくと、一人で夜道をふらふらと歩く。

 その先、視界の中に前から雄二が近寄ってくる、驚く亜由美を無視して後ろにいる霜田にいきなり殴りかかろうとするが、体格で負けている雄二が逆に押し倒されてしまう。

「一流企業のサラリーマンだなんて、嘘でサクラなんだろう。友達の兄貴が同じサイトに登録していたから知っているんだ。引っかけた女の子を風俗に売り飛ばすつもりなんだってな!!」

 (それよりもなぜ、ここに雄二がいるのだろうか。)

「お前こそ、誰なんだ。警察を呼ぶぞ」

 霜田は冷静を装いながら静かに転んだ雄二に言い捨てた。

 普段はおとなしい雄二も今日は負けてはいなかった。

「僕は別に何も悪いことをしていないから、呼びたいなら呼べばいい。困るのはそちらじゃないのか? さあ、呼んでみたらいいじゃないか!!」


 霜田は雄二の言葉を最後まで聞かずに、背中を向けると亜由美と雄二の前から立ち去った。亜由美は雄二になんと声をかけていいのかわからずに自分もこの場を立ち去ろうとしたけれど、雄二に呼び止められた。

「僕はそんなに頼りなくて、憎まれているのかな。話を、もっと話をしないか?」


 亜由美はどうしたらいいのかよくわからないし、雄二の話が本当ならば、霜田は悪人だったということになる。自分は愚かにもそんな男の餌食になるところを雄二に助けられたのだ。

「ごめん、亜由美の後をつけたりなんかして。でも何となく真希ちゃんの元カレから聞いたんだ。マッチングアプリで知り合った男性と亜由美ちゃんが何度か会っているらしいって」

「それでも、私の後をつけるなんて」

「どれだけ軽蔑してもいい、でも僕は君を守りたい一心で……」

 亜由美は自分が間違っていたのだろうかと思い始めていた。

「ごめんなさい、雄二がそこまで私のことを」

 重なる二つの影を月は静かに照らしていた。


 雄二は友人の兄である霜田に化けた信之に5万円を先払いしていた。

 先のことは誰にも分らないということだけは正しいのだろうと雄二は思っていた。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

痛いおんな 樹 亜希 (いつき あき) @takoyan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ