知らぬが華
若い娘の嘘など、別に体制に影響は与えない。
濃厚接触を偽ることのように社会に迷惑をかけるわけでもない。亜由美は雄二に復讐を仕掛けるほどの憎しみなど抱いていなかった。だが彼を好きだったし、大事にされていると思っていたはずなのに、自分をあっさりと切り捨てたくせにまた、付き合ってくれないかと普通の顔をしていう無神経さに、イラついた。だがそれを顔に出すことなく、マンションを借りてカギを貸してくれるというのだから、自由に使っていいということ。それはあの時の別離の代償と受け取っていい。ならば亜由美は大学院に進まず卒業してしまった友人がほとんどで、雄二とよりを戻したことなど報告しない。
自分の部屋のように洋服や化粧品を置いて、実験が遅くなる時はまるでホテルのように寝泊りしていた。その間に、雄二が亜由美を求めることはなかった。
以前旅行に何度もいったが、手をつないでキスをして眠るだけ。子供のような純真な雄二はなんら変わることなどないと思っていた。そう、あの時までは。
亜由美が霜田とデートして、四度目の夜に交際してほしいと言われた。
「僕みたいなおじさんだけど、いいのかな。彼氏いるんでしょ」
「いいえ、コロナ破局したのです、今はただの友人ですよ。立派な家があるのに父親と不仲なようで、マンションを借りて一人暮らしをしているので、荷物を置かせてもらっているだけです。霜田さんこそ、彼女がいるんでしょ。二股じゃないですか。そんなことしたら、私、許さないですよ」
丸顔で童顔なので23歳には見えない亜由美は黒に白い小花のワンピースを霜田に買ってもらって先ほどそれに着替えたばかりだ。
「じゃあ、部屋に行こうか」
「ええっ、いきなり……」
高級ホテルの向かいのデパートで洋服を買ってもらい、高級な鉄板焼きの店でおいしい食事とくれば次は……。
(この人なら、女の扱いに慣れているはずだ。私もこの年までピーチでいるのもなんだし。いいかもしれない)
友人の真希は一足先に社会人となり、霜田のような大人の彼氏ができるかもしれない。いろいろな思いが交錯している亜由美をのぞき込んで霜田は言う。
「無理にとは言わないよ。僕もいい大人なんだから、嫌がる女性を……」
「好きですか? 私のこと」
「ここで言わせる? 二人きりのほうがいいと思ったんだけれども」
亜由美はうつむいて一呼吸すると、庭を一周しませんかと言った。
少しは時間が欲しかった、男性に抱かれるまでに、あと少し。
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