利用する女

「親とは話がついたんだ。一人でマンションに住むことを許してもらったし、もう契約もした。だから誰も部屋には呼ばないし、入れない。亜由美だけは家が遠いだろう? 実験で夜も遅いし、お母さんが心配するだろうから、僕の部屋に自由に出入りしてくれていい。鍵を君にだけ渡す。親にもコピーは渡さない。誓うよ、これが僕の誠意」


 亜由美は思う、これは餌だと。

 ここでハイ!! なんて手打ちにはならない。こんなひょろい男にいいようにされてしまうことは私のプライドが許さない。

「あんたが別れてくれと言ったのは、忘れてないよね。私が悲しんだことを分かったうえでそれ? ほかにいうことあるんじゃない? 確かに体調も悪かったのもわかるけど、都合よすぎない?」

 うなだれて上目使いに小鹿のような顔で亜由美を見てもそんなこと何も感じない。この二人には体の付き合いはなかったし、亜由美はそんな簡単に体を開くような安い女だとは思われるのはいやだし、雄二はきっとチェリーだと思っていた。

 未経験の二人の交わりほどややこしいことはない。


「マンション、借りたの。へえ、いいじゃん。そういわれて、ありがとうなんていうはずないじゃない。雄二よりも大人の男を見つけたらあなたはいらなくなるけど」

「……。わかっているよ。亜由美ちゃんは、年上の男性が合うってことぐらい。でも今は付き合っている人いないだろう」

「いませんよ、実験がこんなに忙しいのに。男探ししている時間などないわ」

 それは嘘。

 マッチングアプリで知り合った7歳年上の会社員の男性と三回目のデートをしたばかりだが、相手、霜田信之からは付き合おうといわれていない。それはまた別の話で、亜由美は雄二が去った後にぼやぼやしているような女ではなかった。大学生の友人女子の中で、同じようにコロナで、またはそれ以外の原因で別れてしまったカップルが多かった。

 亜由美とは親友ともいうべき真希も彼氏とはクラブを引退したときに別離した。同じ水泳部の仲間であったから成り立っていた交際だったようで、もともと体の関係がないところが亜由美たちと同じだった。亜由美と真希はしょせん男なんて、こんなものなのだろうか。ヤレる女のほうが良くてヤレない女はいらないということ? と愚痴りあったばかりで、その話の先にマッチングアプリってどうなんだろうと、試しに二人で参加してみたところ、真希は少し怖いと思い踏み出せずにいた。

 亜由美は先に一歩踏み出して大人の男性とデートするところまでこぎつけていた。

 だが、元カレの雄二はそんなことは全く知らない……。

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