エピローグ
「先生、心静止です」
「CPR開始! アドレナリン用意して」
ピコーン、ピコーン、とモニターのアラームがけたたましく鳴り響いた。心電図はフラットと呼ばれる一直線、心臓が動きを止めたことを示していた。医師が心臓マッサージを始めた。
「2分経過、波形見るよ」
心電図はフラットのままだった。
「アドレナリン1A、CPR再開して」
はい、と言ってもう一人のぽっちゃりした医師が患者の胸を押し始めた。大きなほくろが口元についていた。どん、どんという音とともに横たわった女性患者が揺れた。汗だくになりながら心臓を押し続けたぽっちゃり男性にひょろながの医師が声をかけた。
「次の評価で心マ代わろうか」
ぽっちゃり医師は無言で頷いた。
そんなやりとりがしばらく続いたあるとき、看護師がつぶやいた。
「先生、30分経過しました」
ひょろなが医師が胸を押すのをやめると、心電図は再び一直線を示した。女性患者が死亡したということを示していた。
「また、ダメだったか。しばらくは小康状態だったから、いけると思ったのに」
ひょろなが医師は思わず床にへなへなと座り込んだ。ぽっちゃり医師も息をはあはあ言わせてから壁によりかかった。
「こんな若い女性が続けて事故で死ぬなんて、2週間前と全くおんなじじゃないですか。やっぱりあの都市伝説って……」
「おい、下手な憶測はやめろ。どうせあの『八科村』のことだろ」
「そうです。レンタカーの店員が見てるんですよ、この人がナビで『八科村』って入れてるところ」
「勘弁してくれよ、2週間前の女性も同じだって言うんだろ? 何で20年以上も前に無くなった村をカーナビで入れる人が続くんだよ。しかも二人とも行き止まりの道の突き当たりで転落して死んでるなんて」
ぽっちゃり医師は、数回大きく深呼吸をしてから、うつむくと、首を大きく横に振った。
「『八科村』って俺らが試しにナビに入れても、何も出ないんですよ。でも選ばれた人が入れると道がでるんだって。だからあの道は危ないから誰も入れないようにしてあるのに、なぜか入っていく人が絶えないんですよ、そして……」
ひょろなが医師は大きく首を振った。
「もーいい。考えたくもない。もうこんなのはこりごりだ」
そう言って、二人は集中治療室を後にした。
亡くなった女性の表情は心なしか安らかなように見えた。
サンクチュアリ 木沢 真流 @k1sh
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