帰りますか?
その叩かれ方は、まるで殴られたかと錯覚するほどだった。振り返ると二人の若い男性が立っていた。一人はひょろながで、もう一人は少しぽっちゃり。口元に大きなほくろがついていた。
「あなた、お帰りになる人ですか?」
いきなりの有無を言わせぬ物言いに少し腹が立った。私が戸惑った様子を見せていると、ミサが助け舟を入れた。
「ああ、この村暗くなるとなかなか帰れないから、もし今日中に帰るならマイクロバスで一斉に村の外に送ってくれるんよ。ぎりぎり終電に間に合うくらいかな。これ逃すと数日は外に出られなくなるかも。あんまり外と行き来する村じゃないからさ。どうする?」
どうする、のミサの表情に何か違和感を覚えた。それが何なのかわからない。だが、今もゆっくりながれるサンクチュアリのメロディが、私の命、私というものを悠久の時に乗せて、そのままどこかへ漂流していってしまいそうな、そんな感覚さえ覚えた。
どうするか。帰ってもいいかもしれないが、ここもいい気がして来た。外界から離れ、大好きなアーティストがいて、何も考えずに気まま暮らし。ここにしばらく残ろっかな……そんなことを考えていると突然私の頬に衝撃が走った。
何? と振り返ると、男の一人が私の頬を殴っていた。男の表情が豹変し、怒りに満ちた表情になっていた。そのまま逃げる間も無く、私はどん、と押し倒された。思わず地面に腰をついた。そのまま男性は私に馬乗りになると、私の胸を思いっきり一発殴った。胃の中のものが一気に口から飛び出しそうになった。
(何? 一体私が何をしたっていうの?)
助けを求めるようにミサをみると、ミサは眉をひそめ、憐れむような、蔑むような目で私を見ていた。男を止めようとする様子はない。
(なんで助けてくれないの?)
男の表情は重く、必死だった。
「もう帰ってこれないかもしれないんですよ、いいんですか?」
私はしばらく考えてから、二度まばたきをした。それからゆっくりと頷いた。すると男はさっと私から離れると、一緒にいたぽっちゃり男と一緒に去っていった。ミサを見ると、嬉しそうな顔をしていた。
「さ、この後打ち上げだよ。一緒に盛りあがろ」
私は満面の笑みで頷いた。
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