解決

 紅茶を飲み終えた探偵は、まだ温かいポットから新しく紅茶を淹れた。

悠長なその様子に動揺を隠せなくなったのはパトリックだ。

「わかりましたって、レイチェルを見つけてくれるんですか!?」

と、声を大きくした。

それに対し、エドワードはあくまで冷静といった様子でこう返答した。

「ミセス・レイチェルの行方は分かりかねますが、どうなっているかは解りましたよ」

新しく淹れた紅茶をちびりと飲み、エドワードはきっぱりと断言した。

「あなたが全て知っている通りですよ。ミスター・デニス」

「な、何を言うんですか?依頼主に対して―――」

しどろもどろになっているパトリックにエドワードは畳み掛ける。

「いいえ、私はまだあなたの依頼を受けていません。なのであなたと私はただ一緒にお茶をしているだけの他人と言えるでしょう」

何とも屁理屈に近い物言いだが間違いではない。

「しかし、それでもなぜ自分が知っている事になるんですか!?」

「それをこれからご説明致します。紅茶でもご自由に飲みながらお聞きください」

こうしてエドワードは語り始めた。

「まず初めに、あなたが隣町で技師をしているのに対しミセス・デニスは侍女。しかもミセス・デニスの給仕先は社交界から離れた私ですら知っている程、大層な名家のお屋敷だそうですね。それを《中流》と言ったのは解りかねますが……恐らくはあなたの見栄でしょう。あなた方には僅かに身分の差があるように思えますし。

なので技師であるのは嘘だと仮定していましたが、それは外れました。振り子時計に心を乱されていては給仕も出来ませんし、お茶会を多く目にしていればそのように慎ましやかな食べ方はなさらないでしょうから。

そこで次はあなたとミセス・デニスとの関係を疑う事にしました。幸いにも事実は雨のように何度も降り、思わずシルクハットを被るべきか考えた程です。

結論から申し上げますと、あなたとミセス・デニスは兄妹ではありません。あなたに先ほど行った質問で確信致しました。

決定打は勿論、あなたが読ませてくださった手紙です。ミセス・デニスがきちんと手紙を出していても雨で配達は遅れるでしょうに、短気でせっかちなあなたには待てなかったのですね。

最後になりますがご自身に自覚がないようですので、私から一言だけお伝え致します」

と、ここで話を区切らせた。足を組み、ゆったりとした姿勢でエドワードはこう告げる。

「ミセス・デニスはあなたを愛していましたよ」

その言葉が終わったと同時に部屋が再びノックされ、やがて開かれた。部屋の外にいたのはミス・ブラウンとふくよかな初老の男性だ。

エドワードは座ったまま初老の男性に声を掛けた。

「ご機嫌よう、ミスター・ブラウン。お茶はいかがですか?」

ミスター・ブラウンと呼ばれた初老の男性は山高帽を取って軽く挨拶した。

「どうも、バーンズさん。お茶はまた今度。そして―――」

と、言葉を区切ってパトリックの方を見て、重々しい声でこう告げる。


、お前をレイチェル・デニス誘拐殺人容疑で逮捕する」

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名探偵は安楽椅子から離れない 柊 撫子 @nadsiko

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