プリンの行方

牧田ダイ

食べたい

 今日は日曜日。仕事は休み。

 10時ぐらいに起きて、ご飯を食べた後、ためていた録画番組を見る。

 恋人もいない私の日曜日は大体こんな感じ。めったなことが無ければ外に出ないと決めている。


 13時頃に昼食をインスタント食品で済ませ、再びテレビに張り付く。

 録画していたものは見終わったので、今度は有料動画配信サービスを使って映画を見る。

 1本映画を見終わったところで時間は15時。

 次の映画を選ぶ前に冷蔵庫へ向かう。

 プリンをとるためだ。

 休日に映像を見ながらプリンを食べる時間が私にとって至福の時間なのだ。


 意気揚々と冷蔵庫を開け、プリンの定位置へ手を伸ばす。

 その瞬間私の顔から笑顔が消え、代わりに絶望の表情が浮かんだ。


 プリンが無い――。


 

 あまりのショックに呆然としていたが、冷蔵庫がピーピーと開きっぱなしを伝えてきたので、慌ててドアを閉めた。


 なぜ……?


 冷蔵庫の前で頭を両手で抱えて考え込む。


 プリンは金曜日の仕事終わりに週末のご褒美として2日分買うことにしている。

 今週もちゃんと買った。覚えている。

 そこでふと思い出す。

 そういえば金曜日は明美あけみが遊びに来てたな。

 もしかしたら明美が食べちゃったのかもしれない。


『私のプリン食べた?』


 明美にメッセージを送った後、返事が来るまで他の可能性について考えてみる。


 1人暮らしだから誰かが食べちゃったとか漫画でよく見るシチュエーションはまず無い。


 まさか泥棒?そうだったらプリン以外にも何か盗られてるかも。


 そう思って部屋の貴重品を確認したが、どれも無事だった。


 さすがにプリンだけ盗ってく泥棒なんていないよね。


 そんなことを考えているとスマホが鳴った。

 明美からの返信だ。


『私酔ってたからあんまり覚えてないんだけど多分食べてない』


『どうしたの?』


 そういえば二人とも酔ってたなーと思いながら返信する。


『今日のプリンが無くて……(泣)』


 すぐに既読が付く。


『あらー、週末の楽しみなのにね』


『あの時真理香も酔ってたから間違えて食べちゃったんじゃない?』


 そう言われるとそんな気がしてくる。


『そうかもー、何かごめんね。勝手に食べたみたいにしちゃって』


『全然いいよー、楽しかったし(^^♪』


『また遊びに行っていい?』


 良い友達だなーと思いながら『もちろん!』と返事を送った。


 うーん、今日はプリンなしか。


 落ち込みながら何かないか冷蔵庫をのぞくと、牛乳寒天があった。

 明美にもらったやつだ。これにしよう。

 持つべきものは友だな~と明美に感謝しながら、牛乳寒天の蓋を開けてゴミ箱に捨てる。


 ふとゴミ箱が気になった。

 もし私がプリンを2つ食べたなら、プリンカップが2つあるはず。

 そう思いつき、ゴミ箱の中を探した。

 プリンカップはちゃんと2つあった。やっぱり私が食べたのか。

 スプーンは1つしかでてこなかったが、どこかに紛れているのだろう。


 結局自分が食べていたことに呆れながら、牛乳寒天と共にテレビに向かった。




 ほんとにかわいいんだから♡


 そう思いながら明美は画面を見つめる。


 画面には真理香の部屋が映っており、真理香は映画を見ている。


 私があげた牛乳寒天食べてくれてるわ。かわいい♡


 それにしても真理香のプリンが無いとわかった時の顔、あんな顔もあるってわかってほんっとに最高だったわ。


 この前真理香がプリンの話をしていた時に、すごく幸せそうに話してたからわたし妬いちゃった♡


 あとそれを奪った時に真理香がどんな顔をするのか見たかったの。


 金曜日に真理香が寝ちゃった後プリンを食べてカップを捨てた。真理香が使ったスプーンはもらっちゃった♡ 

 真理香がゴミ箱を調べだした時はひやっとしたけど、気づかないところがまたかわいい♡


 画面の真理香は眠たいのか、牛乳寒天を口に運びながらうとうとしている。


 あぁー、もうほんとにかわいい♡


 私はプリンじゃなくて、真理香を食べたい♡







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プリンの行方 牧田ダイ @ta-keshima

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