短編50話  数ある冴え渡りし我が直感

帝王Tsuyamasama

短編50話  数ある冴え渡りし我が直感

「今日はとても『直感』が冴え渡りそう! 特に異性へ感じたことはズバズバ当たっちゃう絶好調な一日! 大胆なアプローチで急接近! ラッキーカラーはペールオレンジ、ラッキーアイテムは炊き込みご飯! 今日も一日、いってらっしゃい!」

 テレビでやってる朝の占いコーナーによると、直観なおみ 雪伍郎ゆきごろうの属する星座は一位らしい。十三星座はよくわからないが。

(直感、かぁ……ふむ……)

 俺はちょうど食べていた朝ごはんである炊き込みご飯をじぃっと見てから、口の中にかき込んだ。


 今日もいい天気だな! 学生服やセーラー服を身にまとい、中学校指定の紺のセカバンセカンドバッグを肩からさげた学生たちが元気に登校していっている!

 実に俺の直感かのように晴れやかな一日となりそうだ!

「ぶへっ!」

「よっ! おはよっ!」

 いきなり背中に衝撃が来たかと思ったら、現れたのは立菱たちびし 理依りいだ!

 ショートカットでサッカー部所属の元気っ子女子だ。身長は俺と同じくらい。

 小学校から結構しゃべってる。

「朝っぱらから不意打ちとは何事かっ!」

「あはっ、だってなんかぼけーっと空見ながら歩いてる感じだったからさ、ついっ」

 いやそんなてへぺろとかされても……

(はっ!)

 待てよ……? 理依って女子、つまり異性だよな? わざわざ朝から俺を見つけて不意打ちかますってことは、これはひょっとして…………

(俺のこと好きってことなんじゃね?!)

 そうか! これが今日の占いの効果だったのか!!

 今までなんとなくぼけーっと見ていた占いコーナーだったが、炊き込みご飯食べた俺の直感は普段の数倍に跳ね上がっているのだな!!

「なぁ理依」

「ん? なにー?」

「俺のこと、好きか?」

 俺は理依に聞いてみた。

「はぁ? どしたの雪伍郎。まだ寝ぼけてんの?」

「どうなんだ!」

 断じて寝ぼけてなどいないぞ! 理依は絵に描いたようなあきれ顔だが。

「んー……まぁー、嫌いじゃないかな?」

「それで好きなのか!?」

「ちょっ、どうしたのさー。に、二択なら……んまぁ好きなんじゃないの……?」

「そうか! やはりそうだと思ったぞ!」

 素晴らしい! 今日の俺の直感やべーな!!

「まー、今後ともよろしくー。んじゃねっ」

「ああ! また会おう!」

「教室で会うじゃん」

 最後はやっぱりさわやかに立ち去った理依だった。


 学校に着いたぞ。

 靴を上靴に履き替え、三年二組の教室の扉を開いた。うむ、今日も皆元気そうだ。

「あ」

「お」

 扉を開いた瞬間に現れたのは日尾瀬ひおせ 眞紀まきだ!

 髪が腰くらいまである科学部所属の謎めいた女子だ。身長は俺より低い。

 去年も同じクラスでしゃべるようになったのはその時くらいから。

「おはー」

「おはー」

 眞紀はちょこっと手を上げながらおはーしてきたので俺も同じテンションのおはーを返した。

(……ん……?)

 なんかずっと見てきているぞ? なんだ?

(はっ!)

 そのまっすぐな視線! まさか眞紀もそうなのか!?

「なぁ眞紀」

「ん?」

「俺のこと、好きか?」

 眞紀にも聞いてみた。眞紀はそれでもなお俺のことをじーっと見ている。普段からぼーっとしているような感じではあったが……。

「別に」

「どてっ」

 おかしいな……まぁ眞紀は特殊な例だったんだろう。


 三限目の数学が終わった。次の国語を切り抜けたら給食の時間がやってくる。

 なんで国語って教科書も便覧も重てぇんだ? おっと便覧を後ろのロッカーから取って

「きゃっ」

「おわっ」

 こようと思ったら、右隣の席へ戻ろうとしていた織花おりはな 沙世美さよみとぶつかってしまった!

「ああすまんっ」

「ううんっ」

 髪は肩を少し越すくらい。家庭部所属のおとなしい系女子だ。身長は俺より低い。

 クラスが一緒になることがそこそこあって、小学校のころからしゃべっている。しゃべる量自体はそんなに多くないが、班での作業とか委員会とかは一緒にすることがちょこちょこある。あ、こっち見てきた。

 おめめをぱちぱちしている。

(はっ!)

 これまでいろんな作業を一緒にしてきた沙世美。苦楽を共にしてきた沙世美。それを踏まえたうえで今こうして見てきているということは!

「なぁ沙世美」

「あ、なに?」

「俺のこと、好きか?」

「えっ」

 お、表情が変わった。なるほど俺は核心を突いてしまったのか。さすが俺の直感!

 沙世美は持っていた便覧を、なんか自分の前で強く握っちゃっている模様? あれっ、視線が下にずれたりまたこっちに戻ってきたり。

「……わ、わからないよぉ、急に、そんな…………」

「なんだ、違ったのか」

 おかしいな。理依以外ばちっと当たった感触がないぞ。理依だけが偶然だったのか? いやいや炊き込みご飯食べたんだぞ? しかもおかわりもしたし。

「うぅっ……」

「違うなら違うでいいんだ、協力してくれてさんきゅ」

 沙世美は便覧を机に置いて、ゆっくり席に着いた。なんかちょっとぷるぷるしてる?

(これはもう少しデータを集めなければな)


「あれ、お兄ちゃんじゃん」

 掃除の時間、理科室前廊下で直観なおみ 結弓ゆゆみと遭遇! 理科室の掃除らしい。

 髪は肩よりちょっと短いくらいの吹奏楽部所属ひとつ下の妹。身長は俺より少し低い。

 最もしゃべっている……ああそうか、結弓も女子、つまり異性か!

「なぁ結弓」

「なに?」

「俺のこと、好きか?」

「……なに、急に……?」

「改めて聞いておこうと思ってな」

「……好き、かもね」

(お?!)

「そうか! それはよかった! じゃ」

「え? あのー、家族としてですよー? おーい」


 授業が終わって部活のために部室へ向かう廊下でその 若那わかなと遭遇!

 髪は肩にかかるくらいの弓道部所属きっちり系女子。身長は俺と同じくらい。

 幼稚園からしゃべっている。

「やぁ若那」

「あら、雪伍郎。お互い大会が近いですね。練習を頑張りましょう」

「そうだな。なぁ若那」

「なんでしょう」

「俺のこと、好きか?」

「なっ、なんですかいきなりっ」

「嫌いか?」

「……それは今答えないといけないことでしょうか?」

「ああ。今すぐ答えてくれ」

「ど、どうして急に…………え、ええ。一緒にいて落ち着きますから、少し好きかもしれません」

「そうか! 若那、きっとまた調子を戻せるさ。じゃ!」

「……ふふっ、ありがとうございます。頑張りますね」


 部活の時間、音楽準備室で瑠璃沢るりさわ 麻瑛あさえから楽譜のことに関する話をしてきた!

 髪は肩を越す長めだが、よく右か左かへひとつにくくって真横版ポニーテールをしている。

 吹奏楽部所属りりしい系女子。部長だ。身長は俺と同じくらい。あぁ俺も吹奏楽部なんだぞ。つまり結弓とともにきょうだいで吹奏楽部に入っていることになる。

 麻瑛とは中学校で出会って、部活入ってからよくしゃべっている。

「こんなものかな。雪伍郎、そっちの仕分けお願いね」

「なぁ麻瑛」

「え? なに?」

「俺のこと、好きか?」

「ちょっ、なによ突然っ」

「好きか?」

「待って。なんで机の上に楽譜広げたこのタイミングでそんなこと言い出したの」

「俺の直感がそう感じたからだ」

「直感って…………ごめんなさい。雪伍郎は仲間だけど、恋愛感情はないわ」

「そうか。で、好きなのか?」

「あなたねぇ……はぁ。好きじゃないわ。どう、これでいいかしら」

「わかった。こっちは任せろ」

「……ほ、本当にごめんなさいね。でも仲間としては大切に想っているわ。これだけは信じて」

「好きじゃないとわかればそれでいいんだ。結局俺の直感は今ひとつな結果だな……」


 一日をとおして、俺の直感正解数はそこまで高いわけでもなかったな。んーむ、炊き込みご飯をもう一杯おかわりしておくべきだったか?

(はっ!)

 しまった! あまりに炊き込みご飯に集中しすぎてペールオレンジ要素を取り入れていなかった!!

(くっ……だからこんな中途半端な結果だったのかっ……!)

 しかしZEROってわけでもなかったんだ。また明日から頑張るとしよう。

(フッ……明日はどんな一日が待っているんだろうな……)

 俺は玄関ポーチを少し振り返って、また校門へと歩きだ

(ん? あれは……)

 そうとしたら、沙世美もちょうど帰るところだったようだ。玄関ポーチから出てきて、お、小走りで近づいてくる。

「雪伍郎くん」

 こっち見てくる沙世美。

「どうした?」

「……ゆっ、雪伍郎、くん……」

 なんか俺の名前を呼んでるけど?

「……雪伍郎くんはっ。その…………」

 手をちょこっと組んで視線もちょっと落ちた。

「…………わっ……私のこと、あの……あのぅっ……」

 下校していく学生がちらっちらっこっちを見ながら横を通り過ぎていくが~……

「……私のことっ! す、好きですかっ!!」

「うあわっ」

 おとなしい系沙世美からびっくりする音量が飛び出た!

(え? てか、今度は俺が聞かれているのか?)

 えーっと。答えなければ。こほん。

「ああ、好きだ」

「はあっ……ほ、ほん、と……?」

 組んでいた手がこんどは両ほっぺたに移動した。

「沙世美はいいやつだ。好きに決まっているじゃないか」

 手がぱーからぐーになった。

「……い、一緒に帰ろ、雪伍郎くんっ……」

「ん? ああ。道も途中まで一緒だしな」

 沙世美の家は小学校のときに遊びに行ったことがあったからな。

 横に並んで校門へ向かってゆっくり歩き始めた。

「……えへへ」

 さらに手は背中へ移動。新しい体操かもしれない。

「あっ」

 と思ったら、肩から下げていたセカバンをがさごそ。取り出されたのは

「今日家庭部で炊き込みご飯を作ったの。おにぎりにして持って帰ってきて……た、食べる?」

 透明な保存容器をぱかっ。なんと炊き込みご飯がおにぎりの形でラップにくるまれてあった!

「いいのか!?」

「うん」

「さんきゅ!」

 ……なんか今日の沙世美、めちゃくちゃ笑ってんなぁ……?

(でも考えてみたら、沙世美のこういう笑顔はよく見てきた気がする。あれ、だから沙世美にも俺のことが好きかどうかを聞いてみたのだろうか?)

 しかし占いでは『直感』って書いてあったよな……? そんな反射的な感じじゃなく……なんていうか、もっと、こう……

(ちなみに俺の名字は直観なおみ

「ラップ取りにくい? むいてあげた方がいいかな?」

「大丈夫だ。ほら、よし。いただきまーす」

「めしあがれっ」

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短編50話  数ある冴え渡りし我が直感 帝王Tsuyamasama @TeiohAoyamacho

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