第2話 都市伝説

「うん、また明日ね!」

友人にそう言葉を告げて私は颯爽とバイトへ向かった。

良くも悪くも波のない人生を送っている。

大学2年生の春になるが仲の良い友人にも巡り会えたし、人生の前に立ちはだかるぬりかべさんも私の前には現れない。就活もまだ先だし、多分人生で一番自由気ままに過ごすことが出来る時期なんだろうな。

多分世間的に考えるとありふれた女子大生に見られているのだろうね。

寧ろ個性という言葉を埋もれさせることが出来るくらいの没個性的な属性を持っている個性的な女子大生であるとも言えるのかな?

何考えてるんだろ。まぁいいや。


 スタスタと歩いていると「まじかよ、それまじふざけんなよ」という声が真横から急に聞こえ思わずビクッとしてしまった。

電柱に寄りかかっていた為、高校生が電話しているのが見えなかったのだ。

まじふざけんなはこっちのセリフだよ・・・と心の中で思った。

 電柱の後ろに人影があったら少し恐怖を感じてしまう。というのも一昔前に都市伝説番組特集をテレビで見た時に口裂け女というのをまじまじと見てしまったからだ。

 電柱の裏から大きなマスクをした女がにょろっと出てきて

「私、綺麗?」と問いかけてくるのだ。

「綺麗」と答えれば、「これでも?」とマスクを外し大きく抉られた口が露わになるのである。

それに臆して答えられずにいると憤慨して時速100キロで追い回されることになるのである。捕まったら、鎌で同じ様に口元を抉られ殺されるのだと言う。

 今考えると色々と無茶苦茶な話ではある。そもそも自分から聞いてきて答えられなければ殺すと言うのは理不尽の極みである。そこらへんの当たり屋の方がまだ殺してこないだけ優しいまであるんじゃないかな。

当時の私はその番組の映像が頭から離れず、日々電柱そのものにびくついて暮らしていた。今は電柱だけで恐怖を感じることはないけども、人影があるとつい反応をしてしまうのであった。

「今って都市伝説とかあんまり流行ってないよね・・・」

と昔の都市伝説のレパートリーの多さにはちょっとだけワクワクしていたのも事実であった。

 あり得ないけどあり得そうなこと。日常での非現実的な体験。最近ではそんなオカルトチックなことが流行らない時代であるから少しだけ寂しい気持ちもあるにはある。



「はぁ・・・」

「なんだよ、これ見よがしに溜息なんかついて」

とバイト先である漫画喫茶の累子先輩に言われた。

「なんだか退屈だな〜と思いまして。こう、非現実的なことがふっと起きないかなと思ってしまう年頃なんです。」

「何それ?」とぷっと吹き出していた。

「同じ日がぐるぐる回って、起きて、学校行って、バイトきて、寝て。それでまた起きての繰り返しじゃないですか。そんな時にスパイスとなる刺激的なことがあればな〜なんて」と全国の多くの堕落学生どもが言いそうなセリフを私は放った。

「ん〜まぁ使い古されたフレーズを使うけど、なんでもないようなことが幸せだったと思う〜♪って言うでしょ?ぐるぐると同じ日が巡ってくることも乙なことじゃないか。」

「そうですよね〜・・・まぁこれといって悩ましいこともありませんし、贅沢病なんでしょうね、私。」

「結局、どの環境に居ても不満は少なからずあるからね。今を楽しむしかないよね!」とニカっと累子先輩は笑った。

「そうですね!さて、私ちょっと漫画の回収に行ってきますね!」と私はお客さんが読み終わった後に置かれる棚に向かった。

 棚にたどり着くと返却された漫画や雑誌やらが溜まっていた。

「ん・・・これは?」とつい声が漏れてしまった。


漫画を元に戻し終え、受付の所へ戻った。

「累子さん!こういうの懐かしくないですか!?」

「また、こういうの持ってくる・・・」と呆れ顔になった。

私が手に持っていたのは懐かしの様々な都市伝説が載っている漫画であった。

「累子さんも世代ですよね?懐かしいな〜」とパラパラとめくっていると口裂け女も載っていた。

「うわ〜・・・怖いけど見てしまう・・・」と私は半目状態で見入っていた。

「確かに懐かしいはね。私が小学生の時に流行っていたかしら?口裂け女ってべっこう飴が効くんだっけ?当時は信じてたからお母さんにべっこう飴を買ってって駄々捏ねてたわね。相手にされなかったけど。」

「今思うと、全く意味不明な事ばかりですよね。そもそもなんでべっこう飴が効くのかも誰が確かめたの?って感じですし。どうやって都市伝説って流行ったんですかね。あの時はスマホなんてなかったのに。」と私は頭にクエスチョンマークを掲げている顔で言った。

「きっとさっきの貴方みたいに退屈で、もがいていた人が広めたんじゃないかしら。」

「別に私はもがいていませんよ!こういうの考えるのは楽しいそうですけどね。」


一通り都市伝説での話で盛り上がってふと時計を見ると時刻は22時になろうとしていた。

「では、お先に失礼します!」と累子先輩に元気に別れを告げた。

退屈していたけども、都市伝説の話で盛り上がったおかげで気が紛れた。

(お腹減ったな。ハンバーガーでも食べようかな。)

と最寄り駅の近辺にあるファーストフード店へと行った。

(う〜ん。悩ましい。全部美味しそう。でもこの時間から食べると太るよね・・・?いや、今日だけだから大丈夫!)と自分に言い聞かせてセットメニューを注文してしまった。明日の朝あたりに後悔してるだろうな。

キョロキョロと席を良さそうな席を探す。仕事終わりのサラリーマン。大学生のサークルの集団。強面なヤンキー。うん。この時間帯ならでは客の層だな。

(おっ、女子大生2人組みの横なら安全そうだ)と私はまっすぐその席に向かって腰を下ろした。

プハーっと炭酸水を飲み、立ち仕事で疲れ切った体を労った。ほとんど話して終わったけど。ハンバーガーうま、ポテトうまっと心の中で歓喜している中、隣の女子大生での会話が何も聞こえてこない。

はてと横目で女性大生をチラリと見やる。

二人ともポテトをもしゃもしゃ食べながら無言でスマホをいじり倒している。

あー行儀の悪いこと。スマホについているバイ菌凄いよ?トイレと同じ汚さだって聞いたよ?と言うことはあなた方は今便器食べてるのと一緒だよ?

「あっ」と突然女性大生の一人がスマホから顔を上げて言った。

心読まれた?

「あった、これこれ。最近うちの大学で噂になっている都市伝説。」と相手の女の子へとスマホを見せていた。

「え〜、何々。戻り砂時計?砂時計を逆さにすると時間が戻せるようね。戻せる時間は5分?何これ、短っ!どんな時に使うのよ。」

「う〜ん。確かに5分だと使い方限られてくるよね。何が出来るんだろ。」

二人の女子大生が頭をうんうんと唸らせながら5分戻せた時に何が出来るか一生懸命考え込んでいた。

(今も都市伝説的な噂はあるもんなんだ。話聞く限りだと結構てきとうな内容なのね。)と思い、私も心の中で一緒に参加してどんな時に5分間戻したくなるか考え込む。

食べ終えて寂しくなったトレーを見て思った。

今だな。



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猟奇的な砂時計 陳:腐意 @tinpui2021

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