【短編版】一撃殺~最高級の素材集めと彫刻技巧を誇った王宮魔石彫金師、聖戦終了で素材が手に入らないからと左遷され、天然記念魔獣の特別保護官になる~保護区の住人、村ぐるみで密猟ってそれ犯罪でしょ!?

和泉鷹央

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「ロニー・アトキンス。移動辞令が出ている、移動(クビ)だ。明日からは魔石などの素材集めの実績を活かし、活躍してくれることを祈っているよ。魔獣どもの特別保護管としてな?」

「は……? 魔獣の特別保護官? なんですか、それ――」


 王宮に仕える宝石職人ギルドのボス、ガレット子爵は見事に禿げ上がった頭を撫でながら、陽光のまぶしい西側の窓のそばに陣取ってふんぜんとイスに座っていた。

 もうそろそろお昼休みも終わり太陽は天頂から西へと傾き始めるころだ。

 素晴らしい後光を拝む――もとい、照り返しの凄まじいボスの頭からなるべく視線をずらすようにして、弱冠十四歳で史上最年少の王宮魔石彫金師の座に登り詰めた天才技工士、少女ロニーは目を細めていた。


「保護官は保護官だ。良かったな、お前がこれまで素材集めに利用してきた狩り場が、そのまま天然魔獣保護区になるらしいぞ?」

「はっ!? ええっ、なんですかそれ!? 僕の家は? あの狩り場の中に自宅とか、他の魔猟ハンターの仲間たちの村もあるんですよっ!! そんないきなりの決定なんて迷惑です……」

「国王陛下からの御命令だ。何か文句があるのか?」


 悪魔の魚(タコ)、と揶揄されるガレットはそのぎょろりとした目をひんむいてロニーをにらみつけた。

 地獄の底にいるという番犬のごとく、腹の底から捻りだされるダミ声は強力だ。

 うっ、と自己主張が激しくない、僕と一人称で名乗る少女は、その圧についつい気おされてしまう。

 さらに西日の後光がいい感じに威厳というものを加えていて、ロニーはただ黙るしかなかった。

 

「文句はないようだな? え? どうなんだ! ロニー・ワトキンス一級王宮魔石彫金師!!」

「ひっ……そ、それはその……。どうして、魔獣の保護区なんて決まったんですか……」

「魔王と国王様が和解した。聖戦は終わりだ。これからは平和が訪れる。そういうことだ」

「まおう、と和解……。マジですか……」

「陛下の偉大さにひれ伏すんだな。これまで四百年にわたり続いてきた竜族と人族、魔族の三つ巴の戦いをたった数年で――終結させたのだから。そうなると理解できるよな?」


 つまり、希少種である魔物は狩ることを禁じられた。

 そういうことなの? 、とロニーは心で唖然とする。これまで魔族側との協定のようなもので頭数が決まっていたのだ。それがいきなり禁止になるなんて――魔族の友人たちからロニーは何も聞いていなかった。

 無口になり、顔をうつむいてしまうロニーに背を向け、イスを窓の外にくるりっと回して移動したギルマスは少女を追い詰めるように言葉を放つ。


「お前は優秀だ。その極上の彫金技術たるや……さすが最年少で王宮魔石彫金師になっただけのことはある」

「ならーーっ!?」


 もしかしたら、残留を認めてくれるかもしれない。

 さっきの移動辞令は自分を脅かすための単なるハッタリだったのかも……しかし、ギルマスの次の言葉でロニーの期待はあえなく打ち砕かれた。


「まあ、優秀だが……お前、殺りすぎたんだよ。アトキンス君」

「ヤリ、や……なんですか、それ」

「素材集めを生まれ育った土地でやるのは構わん。効率もいいだろうからな。しかし、だ。その魔獣を仕留める腕前を披露したのは、それだけじゃないだろ?? あちらの戦場で手ごわいレッドドラゴンを退治してくれだの、こちらのダンジョンを占拠している死霊を狩ってくれだの、この前は魔王軍の四天王の一人とやりあって撃退したそうじゃないか……なあ? 一撃殺(ワンショット)のロニー?」

「えっ……!? それって、ギルマスが推薦してくれたいろいろな戦場で、更に希少な魔獣や敵将を狩っただけ……ですよね?」

「それだっ!!!」

「ひいっ、大声出さないでくださいよ、本当に怖い――いいえ、耳が痛いので」

「ふんっ。それは俺の指示ではない」

「だって、ギルマスが辞令出したじゃないですか」

「内務大臣のサギール侯爵閣下が出されたものだ。とにかくだ、お前。ロニーよ……」


 ごくり、とロニーの喉が鳴る。

 これはもう変わらない確定されたものだと頭の片隅で理解して、ロニーは信じられないと現実を呪っていた。

 まだ、家のローンもあるし、相棒の食費だって毎月かなり必要だし、これまで自分が彫金した魔石は、王宮魔石彫金師だから一般の市内に店を出すことが認められていた。

 その特権すらも奪われていくようだ。

 人生の終わりだ、もう逃げ場がない……まだ、三店舗目を出店したばかりであの店の開店資金だってこの宝石職人ギルドからローンを組んで借りたものなのにっ!!


「あああああっ。人生終わった……まだ十四歳なのに! ローン、あと二十年もある……僕は生涯、ギルドに飼い殺しじゃないかあっ―――!!!」

「ロニーっ!!! 聞いとるのか!?」

「はっ!? ひゃいっ……ギルマス……」

「お前大丈夫か? まだうちのギルドから貸し付けている開店資金あったよな? どうするつもりだ?」

「ひいっ、それを今……考えて……」


 ふんっ、無計画なやつめ。

 ギルマスーーガレット子爵は呆れたように目を細めると、机の向こうで意気消沈している元部下に哀れな奴だなという感じの視線をやる。

 こいつも、もう少し世渡りが上手なら、俺も助けてやれたのに。

 お前はやり過ぎたんだよ、ロニー。狩り過ぎたんだ。何事にも潮時ってもんがある。ここは引退するべきだろ、ロニー。そうギルマスは静かに語っていた。


「考えてもこの辞令は変わらんぞ。さっさと出ていけ。もう今からお前の居場所はここにはない。実家をそのまま保護管事務所にするんだな、それがいい」

「実家、ですか……もう六年も誰も住んでいませんけど。ああ、いえ……そうですね」

「そうだ。行け」


 はい、と肩を落としてロニーはギルマスの専用オフィスをあとにしようとする。

 扉のところでふと足が止まり、振り返るとなんだ、とギルマスは片頬を挙げた。


「あの、ギルマス。道具は? この工房には、ここ六年で僕が買いそろえた道具があるんですけど、あれは持って行っていいんですよね? 専門の台とかあるから、それこそ大掛かりな――」

「ばかか、お前?」

「あ、え……?」

「言っただろう、お前のデスクはもうない、と。あれはすべてギルドで接収する!!!」

「そんなっ、じゃあ、これからの魔石の彫金は!? どうすればいいの!? 借金返済は……」


 まだ理解しとらんな、こいつ。そう思うと、ギルマスは呆れ顔で教えてやった。


「お前はもう、王宮魔石彫金師じゃない。これからは魔獣の特別保護官なんだ。魔石を加工する道具などいらんだろ?」

「いりますよっ!! あの道具には父たちの代から伝わるものだってあるんだからっ! ギルドはやめていく人間の私物まで盗むんですかっ!????」

「なら――思うだけ持って行けよ。お前が持てるだけ、な?」

「良いんですね? 持てるだけ、持って行っても!?」

「できるもんならな」


 そう、ギルマスはせせら笑うとロニーを追い出した。

 たかだか十四歳の少女一人、両手に抱えてもどれほどのものを持っていけるものか、と。

 ロニーの背中を見送って、ギルマスはふっとほくそ笑んだ。

 彼女の腕前はこのギルド随一と言ってもいいほどで、ロニーが彫金を施した魔石は各国の王侯貴族やコレクター垂涎の的。

 マーケットでは常に高値がつき、オークションではプレミアがつく品が続出するほどだった。

 おまけに、あの腕前だ……当人は世間に疎いから気づいていないかもしれないが、ロニーの給料は明らかにギルドの運営を圧迫していた。

 これで経費削減ができる、とギルマスは心の中で安堵のため息をついた。



「よう、ロニー。出ていくんだってな?」

「マルビン……、それにアイディ、グレックも。何か御用ですか、兄弟子たち?」

「いやいや、これから出ていくって聞いたからよ。お前の専用工房、鍵開けとけよな? 次はこのマルビン様が頂くからよ」

「……そうですか。じゃあ、掃除して出ていきますので。しばらく誰も来ないでください」

「お? 感心だな、お前。わかった、いいぞ。せいぜい、綺麗にしておけよ?」


 兄弟子たちはギルマスの部屋から戻って来たロニーを待ち伏せておいて、嫌味を言うと去っていった。ロニーはなんだか虚しくなって、つい独り言を言ってしまう。


「六年を共に過ごした仲間が辞めるっていうのに、誰も手伝おうとしないんだね……。僕が女で後から来たのに宝石職人ギルドの最高職人である王宮魔石彫金師になって素材集めもできる魔猟ハンターだから? 実力も伴わない癖に、群れて後輩をいびるだけの男って醜い」


 そう思うと、ロニーは自分の工房の扉を開けると中に入り、扉を閉めて鍵をかけた。

 中には幼い頃から一緒に育ってきた白狼という、魔狼のルガーがいた。


「ルガー。お待たせ。出ていくから」


 物静かな彼女はロニーの戻り頭の一言で何かを察したらしい。

 足元に引いていたお気に入りの絨毯の端を咥えると、器用に丸め始めた。

 魔狼は部屋のなかをぐるりと見渡すと、ロニーに質問する。


「道具は? どうするの、ロニー」

「ああ、持って帰るよ。大事なものばかりだしこれからは地元の狩り場がそのまま天然記念魔獣の住む公園になるんだって。密猟者を監視するのも――仕事になりそう」

「密猟? 魔獣が保護されるほど弱いとでも思っているの? 妙な話だ、お前は素材集め以外にもさまざまな戦場で魔族相手に活躍したからな。目をつけられたのかもしれん」

 

 人語を介する魔狼はそういうと、さっさと身支度をまとめてしまった。

 持てるだけなら、どれだけでもいい、か。

 なら、貴重な燃料鉱石とか、移動式の溶鉱炉も持って帰ろう。全部自分の稼ぎで得たものだ。

 あれだけ採取し、加工した魔石の売り上げのほとんどはこの悪徳ギルドに吸い取られたなあ……収入になったのは王都ほかに出した三店舗の宝飾店の売り上げだけだった。


「さて、やりますかねー」


 そう言うと、ロニーは左眼にぐっと力を入れる。

 彼女のそれは一度ぐるんっと不気味に回転すると、朱色の閃光に辺りは包まれる。

 それがおさまった後、ロニーの工房からは主要な魔石加工用の道具と、燃料などの一切合切が消え去っていた。」

 兄弟子のマルビンがギルマスのオフィスに駆け込んだのは、ロニーが王宮を去ってすぐのことだった。彼は、新たに与えられた工房を見て、何かを発見したらしい。

 

「たっ、大変ですッ!!」

「どうした、マルビン。お前にはロニーの工房をやっただろう?」

「だって、大変だよ、ギルマスっ!! あらかじめ備え付けていたもの以外……何にもねーよ……」

「ほう。それは面白いな。いいじゃないか、お前との約束は工房をやる、それだけだ。内務大臣様とうまくやったんだろ? 妹弟子を追い出してこれからはこのギルド一の職人だ。せいぜい、励めよ、マルビン」

「……っ!? まさか、あんた――知ってて……」

「いいや、何も知らんさ。ああ、そうだマルビン」

「なんだよ、まだ何かあるのかよ!?」

「気を付けることだ。ロニーの異名を知っているか?」


 マルビンはなんだそりゃ、と首を傾げた。

 追い出した女になんて、興味を持てなかったからだ。

 ギルマスは不敵に笑って教えてやる。


「一撃殺。ワンショットだそうだ。どんな魔族も魔物も、たった一撃で仕留めてきた凄腕の魔物ハンター。それが、ロニーの実家、アトキンス一族の生業だ。気を付けるんだな? お前、素材集めの時に狙われても俺は知らんぞ?」

「ひっ!? いっ、いちげき……」


 真っ青な顔になり、部屋から逃げ出していったマルビンの臆病さにギルマスは大笑いするのだった。

 ロニーの馬鹿め、最後の最後で兄弟子たちをやり返してやったな、と無口な癖に最高の腕を持つ魔石彫金師の少女の顔を思い出しながら。



 ☆



 数か月後。

 ロニーは実家を改装し、魔獣の保護区となったかつての狩り場の管理にせいを出していた。


 季節は夏。

 ここ、西の大陸の東地方に位置するタレス王国の夏は暑い。

 過去には希少種の魔物が住む狩り場として。

 いまは岩山と草原に、絶滅危惧種や天然記念に指定された魔獣や魔物が住む保護区として。

 与えられた土地の一角、緑豊かなオアシスの中に、新任の保護区管理官ロニー・アトキンスの事務所がある。

 管理官のロニー。

 それに魔獣一匹と近所の村から交代で来てくれる手伝いの人が数人。

 これが、この事務所の全員だった


「また騒いでいるな」

「なあに? 何にも消えないよ、ルガー……」

「外が騒がしいぞ、ロニー。いいのか、助けなくても?」


 助ける?

 その一言に、デスクで書き物をしていたロニーの肩がピクンっと反応する。

 それはできないのだ。

 いかにかつての仲間であっても――しかし、声は近づいてきた。


「ロニーっい、ロォおにいいい一―――――っ!!??」


 ……何か聞こえた気がする。

 そう思いながら視界の端にある暑いからと開け放していた事務所の入り口に駆け寄ってくる人影がひとつ。

 まだ若い亜麻色の長髪を後ろで三つ編みにしてまとめた少女は、素知らぬふりをして扉を壁際にとめていた重しを蹴飛ばした。

 バタンっ、と無慈悲にもいくばくかの傾斜をつけて設置された扉は、意志あるもののように閉じてしまう。

 その駆け寄ってきた来訪者など通してやらん、とばかりに重苦しい音を立てて樫制の鉄の薄い板で補強されたそれは、今まさに悲鳴を上げて逃げてくる人物を追いかけてきた石竜の突進でも壊れないように魔法の保護すら施してある。


「おいっ、ロニーっいいいッ!? それはないだろっ!? 俺たちの仲じゃないか、助けてくれよおおお――――っ!!!」


 ドンドンガシガシ、ゴンゴンっ、と絶え間なく続けられるドアへの打撃……もとい、かつての魔物狩人仲間、ケビンが助けを求めるそれは止むところを知らない。


「あーもうっ、うるさいなあ……」


 仕方なく自分が座っている椅子の隣に寝そべっていた相棒のルガーに、お願いできる? とロニーは声をかけた。

 開けるの、あれ?? いいの?

 そんな瞳で自分を見上げる白狼を見て、仕方ないよとロニーは肩をすくめた。

 一つ鼻息荒く返事をすると、ルガーは後足で立って壁際の一部を前足で押し出した。

 それはそのまま、ドアの開閉装置であり――今まさに渾身の一撃を繰り出そうとしていたケビンの右足は盛大に空を蹴った。


「あっ、嘘だろ!?」


 その一撃はあまりにも早く空いた扉の前で待ち構えていた白狼ルガーにパクリっと咥えられたことで自分の足が無くなることを予期したケビンの悲鳴でもあった。


「ルガー、だめだよ。そんなの食べたらお腹壊すから」

「フンッ」


 とまた鼻息一つ。

 ルガーは器用にケビンの足首を覆うブーツごと咥えると中に彼を引き込んだ。

 いでっ、としたたかに腰を打ったケビンの悲鳴がロニーの耳を打つ。そして、彼はルガーに上から覆い被さられて顔面は蒼白になっていた。


「ケビン、助かったな、この恩知らずが……ロニーに礼を言うがいい」

「って、ええっと、ルガー。許してくれよ、はは……っ」

「何が許してくれだ、この恩知らずめ。また密猟をしていたな、貴様。しかも、こんな昼日中から……」

「あっ、いやそれは……。おい、ロニーっ……」


 枯草色の短髪に黒色の瞳の少年は、ロニーと年齢があまり変わらない。

 兄の親友だった彼――ケビンはこの魔狼を何とかしてくれとロニー助けを求めた。


「あのさあ、ケビン? どうしてあれが追っかけてきたのか。その説明がまず先じゃない?」

「あれ? ああ、あのドレイクか……」

「そう、ドレイク。この国ではドラゴンとは呼ばないけど。石竜(アークドラゴン)が追いかけてくるなんて余程だよね? 彼らは普段は物静かな草を食べたりするだけの草食魔獣なのに。どうしてあんなに怒っているの? あなた、まだ懲りてないの? ついこの前も、翼竜たちの群れを襲って失敗し、襲撃されたばかりよね? 魔獣だって人間並みの知性があるってどうして、理解してくれないのよ?」


 何をしたか言わないとそのままルガーに頼んで外に放り出すからね?

 少女の苔色にも淡いグリーンにも見える、燃えるような意思の強い瞳に見据えらえて、ケビンはすまん……っ、と小さく謝罪を述べた。


「足りないんだ、今年の税金を納めるのにまだ金貨十枚ほど足りなくてさ。あれを――石竜の魔石を売ればどうにかなるかな、と……。そう思ってさ……すまない、お前の仕事に対する嫌味じゃないんだ。本当に済まない……」

「ふうん、僕の仕事に対する嫌味じゃないか、それ。ねえ。ここはどこで、僕は誰だっけ?」

「そっそれは――お前は、その、魔獣の管理官で……ここはその事務所で……」

「そうだねえ、で、その前。僕は何の仕事をしていたのかな? 言えたらとりあえずあの扉は閉じてあげるよ? 賢い石竜はここまでは来ないからさ、ケビンみたいに勝てない相手に挑むような間抜けじゃないから」

「お前、それは嫌味かっ!? 俺たちだってこんな真似したくないんだぞ?」

「だから何? 前はもっと賢く猟をしていたでしょ? 昼日中の魔獣が起きている時にするとか、馬鹿みたいで笑ってしまうよ。優秀な魔猟ハンターたちはどこにいったんだい?」

「そう言うなよ。腕が立つ連中はみんな、隣国のまだ狩りが禁止されていない地方に出稼ぎに行ったんだ。まともな狩りができるはずがないだろ。……お前はここに来る以前は――王都で王侯貴族様御用達の店すら構える、一級の魔石職人。王宮魔石彫金師だったよ。史上最年少の天才……だった」

「そうだねえ、そしてここは僕と師匠でもある父と兄との狩りで利用する小屋だった。今は魔獣特別管理区の管理事務所。僕は特別管理官」

「あの石竜とは話をつけておくから、君は地下牢に入るんだね」

「えっ!? そんなロニーっ、おいっ! 嘘だろ!?」


 助手のアンソニーさんがやれやれと首を振りながら、ケビンの肩に手をかけた。

 その肩に担いだ猟銃を見て、ケビンは抵抗をあきらめると地下牢に留置されてしまう。

 はあ、とロニーの口からため息が漏れる。

 かつての仲間たちが魔猟ハンターの職を失い、村ぐるみで苦しんでいるのは痛いほどによくわかる。

 でも、彼らを密猟しなければならないほどに追い込んだのは――王国なのだ。

 ケビンを解放したルガーが悲しそうにキュウンっと鳴いて、ロニーを慰めていた。



 ☆


「どうするつもりだ、ロニー。ケビンの他にもう三名も密猟の容疑で牢にぶち込んでいるぞ?」

「アンソニーさん。困りましたね……王国に引き渡したら絞首刑ですよ」

「そういう決まりだ。明日、騎士団がやってくるだろう? それまでに決めるんだな」


 はあ……幼馴染の少年は相変わらず地下でわめいていた。それはこの事務所に寝泊まりしているロニーにはまるで死んだ魔獣たちの呪いの叫び声のようにも聞こえているのだ。


「そうですね。アンソニーさんの村ではどうやって統制しているんですか……」

「うちか? うちはほら、元々、大河沿いだからな。川魚の漁でもなんでも、生きていくことはできるのさ。ああ、そういえばあの石竜だが」

「へ? あの石竜(アークドラゴン)が何か?」

「大人しく戻っていったのか? あんなに憤慨していたのに?」

「あー……」


 ロニーの記憶はあの時に巻き戻る。

 恐る恐る、反撃されたらどうしようと思いながら事務所から出て応対したロニーの前に、草色の巨大な亀がいた。

 そう、まさしく巨大な亀。

 見上げるだけでロニーの背丈を軽く凌駕し、近づけてきた顔は一口でロニーを飲み込めそうなほどにでかかったのを覚えている。

 

「ルガーどう思う? 不機嫌そうね??」

「ああ、本当だね。どうしたらいいかな、石竜って頭まで硬いんだよねー」


 一人と一匹の目の前には、ご丁寧にも魔族と人族の協定を守り、境界線と呼ばれるそのラインを越えずに憤慨してやまない緑色の小山が鎮座していた……


「あのー……石竜、さん……?」

「ぬう?」


 それは手足を引っ込めて、まるで本物の亀のようにそこに座していた。

 違いと言えば、二、三メートルはある巨体を火薬銃の一撃程度なら軽くはじいてしまう甲羅の中に引っ込めたまま、四肢から炎を吹きだして回転しながら空を飛べることと、人など簡単に死ぬ量の瘴気をばらまけること、まがりなりにも竜の名に恥じず、人の言葉を理解できるという点だった。あと、解体して焼くと身が美味しい――これは秘密だけど。

 そんなことを思いながらロニーが声をかけると、彼? は見た目には思ったよりも怒ってはいないようにロニーには見えた。


「ルガー?」

「大丈夫だ、まだそれほど怒ってはいない。会話はできるだろう」

「ありがとう……」


 会話だけで退去してくれたら嬉しい限りなんだけど……大きな丸い目をニンマリと細めてこちらに向いた石竜はどこかいやらしく笑っているようにも感じれてしまう。


「僕、ここの管理官のロニーと言います、初めまして」

「かんり、かん? 保護官、というやつか? 人間」

「そう、です……ね。その、保護官というかもしれません。彼は捕縛しましたから、その――」

「彼、とは? あの我を卑怯にも不意打ちしようとした小僧か? あの仲間か?」

「いえっ、違います。ですから、あれは――その……人族の法律によって捕らえました。ですので、どうか穏便にお帰り願えませんか??」

「ほ、ばく? とは何だ?」


(捕縛とは、捕らえることだよ、同胞)

(そうなのか……白い魔狼の子供)

(ああ、そうだ)

(ほう……)


 不思議そうな顔をする石竜に向かい、ルガーが魔族の言葉で話しかける。

 その内容はロニーには片言しか理解できなかったが、どうにか穏便に話がつきそうな雰囲気になったことだけは理解できた。

 石竜はロニーを見ると、ニュっ、と首を伸ばして目の前まで頭を下ろしてきた。

 異様な腐臭がするその口で、竜はロニーに問いかける。

 少女はそれが長年水の中で育った藻が放つ臭いに似ていると何となく思った。


「人は人の法でさばく、のか? 少年?」

「あのー僕、女です。少年ではなく、少女です。ロニーです。ロニー特別管理官」

「少女ろにー? 特別管理官……難しい言葉だな。覚えておこう」

「あっ、え? その、どうする――の? あれ、ケビンは……おーい、石竜さーん???」


 何かを納得したのか、石竜はその巨体を一度持ち上げると、「離れていろ、少女ロニー」、と声を上げた。


「いっ!? 嘘っ、本気っ!?」


 その警告を受けてルガーはロニーの背中のジャケットを咥えらえてその場から引き離す。

 あっという間の出来事に、ロニーはついていけないでいた。

 そして――竜ってああやって飛ぶんだ……自分、よく撃ち落とせたな。

 ……目前にいた石竜は天高く飛び上がっていた。


 これまで、魔石彫金師だったころに素材集めと称して天を行くあれを数匹、狙撃したことがあった。

 しかしそれはあくまで遠距離からの攻撃であり――四肢を甲羅に収めると、そのまま火薬が爆発したような音とともに四方から途方もない量の火花が放出される。

 鼓膜が痛くなるような轟音と熱波が辺り一面を焼き切り、付近を焦土と化しながらそれ――石竜の甲羅は空高くに舞い上がった。そのままいったん停止すると、勢いを増し、急加速でその場から飛び去って行く。それはまるで東洋から入って来た一本の長ぼそい花火を丸めたやつのようで。シュルシュルシューっと聞いていて小気味良い音と共に岩山の向こうへと消えてしまう。


「何なんだよ、あれ……守護魔法に長けた魔法使いを数人用意しないと討伐出来なかったって話、あながち嘘じゃなかったんだね……」

「そうだな、ロニー。あのバカめ。そこいらに火をまき散らしていったぞ。これではいつ野火が出てもおかしくないではないか」

「また降雨魔法で雨を降らさなきゃだめかな……ルガー。とりあえずは納得してどっか行ってくれたし。報復とかはないと思っていいのかな?」

「納得をしたのなら、な。しかし、竜族はあれだ、ロニー」

「なに、ルガー?」

「……やつらは蛇並みに執念深いぞ」

「ああ……そうだね」


 本当にこれで石竜は納得してくれたのか。

 今一つ自信が持てなかったことをロニーは思い出していた。


「さて、と。ケビンを村に戻さないとね。どうしようかなあ、石竜の発言した感じだとケビン一人の犯行のようだし。今回は警告と武器を押収する、でいけるか?」

「騎士団は小うるさいからな。名前が再び上がるようであれば、次は容赦しないだろう。彼らも密猟者には目を光らせている」

「そうなんだよねえ。本当にもう嫌だ、この仕事。昔みたいにただ黙って彫金して、魔石の声だけ聞いていたいのに」

「頑張れ、ロニー」

「……うん。ケビンを釈放してくる」


 そう言い、ロニーが地下牢に向かった時。

 暴言のようなものから、もし、妹が売られたらお前を始末してやるなど……、幼馴染の少年の言葉は荒く、筆舌に尽くしがたいものがあった。ロニーがたまりかねて彼の頬をぶとうとした時、アンソニーがそれを止め、自分が村に護送すると言ってくれたのを聞いて、ロニーの心はいくばくか救われたのだった。


 翌日。

 予定通り、西方教会の騎士団がやって来た。

 十数頭の騎馬たちから降りた二人の男。この炎天下に熱中症にでもなるんじゃないかと思うほど、重装備に身を固めたうちの片方が事務所の扉をくぐる。

 ルガーは彼らとの相性が悪い。

 いまは会いたくないと言い、自ら地下に降りていた。


「暑いな。貴方は平気なのか、アトキンス管理官」

「べつに、慣れたものですからテイラー聖騎士」

「そうか。われらもこの鎧を脱ぎたいときもあったりするのだよ?」


 知っていたかね、とまだ若い黒髪の聖騎士はいたずらをするような目でロニーに語り掛ける。

 それはいつか見た光景で――ロニーにはどこか懐かしいものだった。

 兄に似ている……ロニーはテイラーのことが好きだった。

 テイラーは手甲を収めると、むき出しになった指先で報告書の束をめくっていく。と、その手があるところで止まったのをロニーは見逃さなかった。

 ケビンの項目だ……

 何か問題がみつかったのか、それともこれまで数度、報告書に記載してきたケビンの名前に見覚えがあるのか。

 そんなことを心配していると、聖騎士から出て来た言葉は意外なものだった。


「石竜……最近、この辺りで目撃情報が増えているな」

「ヴぇっ?」


 我ながら間抜けな声を出したものだと思う。

 ロニーはなんでもありません、と取り繕いながら聖騎士の報告に耳を傾けた。


「石竜はここからまだ北側にある大河の支流沿いに住んでいるはずだ」

「そっ、そうです、ね。テイラー聖騎士」

「不思議なものだが……石竜とは空を長く飛ぶものなのかね、管理官」

「空を飛ぶ? いえ、彼らが飛行するときはよほどの時だと聞いていますけど。天敵である金鷲に出くわした時とか、密猟者の集団に襲われた時とか……」

「しかし、密猟者の集団化した組織は、そのほどんどが解散したか、われらが捕縛したはず。金鷲はいまの時期は北方の火山で産卵していると思うが?」

「その石竜、集団ですか?」


 うーむ、とテイラー聖騎士は黙ってしまう。

 数匹の報告はない、ないが、あり得ないことでもない。

 それが、彼の返事だった。


「もうすぐ納税の季節だ。また、奴隷商人に身を売る村人が出るのだろうか?」

「……あり得ると思います。今では密猟となった魔物狩りで、これまで生計を立ててきた村がほとんどですから。作物もなかなか育たないし、魔獣が牛や馬なんてあっさりと食べてしまう。村でも襲ってくれたらまだ――」

「君の腕の見せ所だな、一撃殺(ワンショット)。聖騎士たる俺が未だ見たことがない、君の秘技だと聞く。どのような硬いドラゴンの鱗も装甲も打ち抜き、しかし、その心臓部にある魔石は傷つけることなく回収する。元一級王国魔石彫金師にして一流の素材を確保する魔猟師。管理官にしておくには、惜しい逸材だ」


 俺のもとに来ないか?

 そう誘われるもロニーはあっさりと首を振って拒絶した。


「待っている人が……いますから。ここを離れるわけにはいかないんです」

「そうか。まあ、無理にとは言わない。また考えてみてくれ。君はまだ若い」

「ありがとうございます」

「村人の納税の件、俺から司教様に口添えしておこう。王国の税金を教会が徴税するというのも――おかしな話だからな」

 

 石竜は執念深い……聖騎士との会話の中で浮かび上がった石竜による、ケビンの村への報復。  

 その思いがが暗雲となってロニーの脳裏に渦巻いていた。


 深夜。

 砂漠を走る抜ける影が二つ。ロニーとルガーの二人だった。


「報復、か。石竜め、しぶといものだ」

「うん、それを確かめたくてさ。付き合ってよ」

「もうそうしているがな?」

「一匹じゃないかもしれないね……」


 そんな会話をしながら、ルガーは白い毛を月明かりに反射させないように魔法で光をはじき砂漠の中を疾走する。

 人間では追いつけないはずのその速度に、追従するもう一つの影がロニーだ。


「お前に恐れを成したのだろう。それに密猟者が束になって待ち構えているかもしれないという恐怖が彼らにそうさせたのかもしれない」

「困ったものね。魔物も反撃するときは群れるんだ。勉強になるわ……」


 ルガーの影の上に沿うようにして、ロニーは中空にただ立っていた。

 猟に出るときの正装。

 魔猟師としての時に着るそれは、白いロニーの肌が時折透き通るようにも見える不思議な素材で作られていた。

 墨色に染まり、闇に溶けるようにして全身を覆うドレスのように風にはためいている。頭にかぶった帽子も、口元を隠す布も、昼間は短い革の短パンだったそれは黒いズボンに代わり、腰から妙に長い、それでいて銃でも剣でもない。

 いうなれば杖のようなものを突きだしていた。


「これからは、こういうことが増えるかもしれない。調停できるのか?」

「さあ? いい迷惑だよ、石竜にとっても、ケビンにとっても、あの村にとってもさ」

「お前にとっても、だろ? まさか、また魔猟に手を下すことがあるとはな……」

「驚きなのは、ケビンが石竜に群れを成してまで報復させるくらい、腕を上げたってこと……」

「妹のことも気になるのか?」


 ふとルガーはあの少年の言い残した言葉を思い出したらしい。

 そんなことをロニーに投げかけて来た。


「ナーシャのこと? どうして? 売られるから? でもそれはテイラー聖騎士が言っていたじゃない。納税は考えるって」

「そうではない。お前は彫金師の座から追われたが、財産はある方だろう?」

「僕に税金を貸してやれって言ってる?」

「友人なら、一度くらいはよかろう。兄妹ともに救ってやれる。わたしはあの少年は好かんがな」

「ルガーも年齢変わらないじゃない。それに、ナーシャは親友なの……ケビンの絞首刑も、ナーシャの奴隷も。どっちも嫌だよ」

「分かっている」


 それからしばらく白狼が駆けた先。

 あの石竜が飛び去った方角にある岩場が密集した土地にロニーたちは到着していた。

 石竜の習性はそうそう簡単には変わらない。

 四歳の頃からずっと魔猟をしてきたロニーにとって、この地域のどこに何が住んでいるか、どの季節にどこに移動するのか。頭の中にきちんとそれは地図として入っていた。


「三匹? まだいる?」

「臭いはそうだな、三匹といったところか。だが、隠蔽や遮蔽する魔法を使っていないとも限らない。私たちのようにな」

「ルガーのそれは白狼特有の技法だからいいけど……」

「お前の遮蔽技巧である隠遁者(インジビブル)は、月の満ち欠けによって範囲が変わる。人間とは不便なものだ。体内に魔石を持てばいくらでも魔力を生成できるというのに」

「ないから人間、なんだよ。仕方ないなあ、これ、使うか……」

「また、それか。いまいくつあるのだ、ロニー?」

「いまぁ? うーんと、多分、二十くらいかな?」


 ルガーはロニーが左眼に持つそれをあまり好まない。

 世界に数十種あると言われる、はるかな古代魔導帝国の天才魔導師が生み出したそれは簡素に魔眼と呼ばれる。使用すればするほど、持ち主の魔力を奪っていく諸刃の剣でもある。それに、高名な魔導師でも保有できる魔眼は――せいぜい、四種が限界だった。


「使いすぎれば死ぬぞ?」

「わかってるよお……脅かさないで。あの時みたいなことにはしないから……」

「どうする気だ? もし、襲撃をように説得できなければ、ここでヤるのか?」


 うーん、とロニーは返答に困る。この保護区の人間も、魔物も同時に保護しなければならない。

 それが自分の役目だからだ。

 ケビンたちが村ぐるみで先に手を出したとはいえ、石竜は今はまだ被害者。

 説得できるかどうかが、ロニーの腕の見せ所だった。


「探索用の魔眼。どれがいいかなー……」


 あの時と同じように、薄く朱色の光が辺りを満たす。それが終わるとロニー首を振った。 

 周囲数百メートルを探索したが、三匹以外には見当たらない。

 説得が失敗したとして、どれかが村を襲うために飛び立てばそれを狙撃することで威力を示すことはできないかな、そう思っていた。


「石竜を一夜に三匹も狩るのはまずいんじゃないかなあ。さすがに魔王側も何か気づくでしょ?」

「では――説得するのだな。あれが飛ばないことを祈って」

「でも、それはルガーの役目でしょ? 片言の魔族語で説得なんかできないよ」

「やれやれ、狼使いが荒い」


 促されて白狼が人には聞こえない咆哮を上げた。

 砂漠の闇夜にそっと響くそれは開戦の合図にして降伏を促すもの。

 それを受け、石竜たちから戻って来たのは――


「どうっ!?」

「受けるそうだ」

「受けるってどっち? 降伏!? それとも――」

「撃て」

「あ、そう……」


 では仕方ない。

 心でそうぼやきながら、ロニーは眼下に寝そべったようにして座り込んでいる石竜の一匹に目をつける。


「……動かないでねえ。補足するのこれ遅いんだから……」


 瞳から左手へ、左手から空中を伝い、見えない光の投網が目標となった石竜を幾重にも覆っていく。

 それは空間に奇妙な紋様を浮かび上がらせると、朱色の楕円形の紋様となり、魔方陣となって対象物を重さがないかのように軽々と音もなく持ち上げた。


「んっしょっと、重いなあ……さて、どれで打ち抜くかな……」


 できるならば、石竜の頑強な装甲を破壊できる魔法がいい。

 使う魔法を決めると、意識を集中しロニーは詠唱を始めた。


『宵闇の公子、蒼き天空をさまよいし賢者の知恵の泉、雷帝の美しき庭にして紅蓮の炎をまといしもの……おいで? 僕の可愛いーー紅蓮の王』

 

 瞬間、ロニーの瞳と髪色は変化する。

 ロニーは腰から例の棒を引き抜くと、その先を宙に浮かせて固定した、石竜へと向けた。それは右手に集約された朱色の光弾となり、石竜の甲羅をやすやすと貫くと闇夜に巨大な轟炎を巻き上がらせる。

 一瞬のまたたきの合間にそれは消えてなくなり、同時に貫いたはずの石竜も跡形もなく消し去っていた。


「はあ……ッ。キツい。しんどい、眠たいーーーーっ!!!」

「火元だけは消しておけよ、ロニー」

「はぁいっ―……もう、本当に人使いが荒い」


 左手から伸びていた光の魔方陣。それは周囲にロニーが拡散した魔力の残滓を一滴残さず空間から搾り取るようにどぷんっ、とうごめくとどこかに消えてしまった。


「ロニー。どうやら、残りの二匹は降伏をするようだ。終わったな?」

「一匹だけの犠牲で済んで良かったけど……」

「私は魔石を回収してくるよ、ロニー」


 相棒はそう言うと、軽々と岩肌を駆け下りて地上に転がっていたそれを咥えると、ロニーの側に戻って来た。


「ご苦労様。これでまた彫金ができる。加工したやつは販売しようかなあ……ナーシャもケビンも何とかしてあげたいし」

「慈善が良いとは限らないと思うがな、ロニー? ケビンには罪の償いをさせるべきだ」

「……」

「犠牲は片方では済まないぞ、ロニー」

「分かってる……」


 帰路を戻る時、ロニーは始終黙ったままだった。

 仲間を裁くというのは辛いものだな。白狼はそう心でぼやくと、彼女の後を追った。


 

 ☆


 翌週。

 ケビンの村に徴税の役人がやってきた時、彼は騎士団に引き渡された。

 納税分の資金はロニーが用意し、ケビンは王都で罪に服する。

 そういう条件で、彼は王都へと騎士団に鎖で束縛された。他にも数名が密猟を主導していたとして、連行された。


 兄を救ってくれないなんて、あんた最低よ!

 それが親友ナーシャの怒りの言葉だった。

 ロニーは何も言い返さない。

 事務所に戻ると、営業中の看板を室内にしまい込み、一人静かに魔石の彫金加工に取り掛かるのだった。

 


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【短編版】一撃殺~最高級の素材集めと彫刻技巧を誇った王宮魔石彫金師、聖戦終了で素材が手に入らないからと左遷され、天然記念魔獣の特別保護官になる~保護区の住人、村ぐるみで密猟ってそれ犯罪でしょ!? 和泉鷹央 @merouitadori

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