「分かれ道の選択…」

低迷アクション

第1話

「参ったな…」


夕暮れ時の山中で自転車旅行中の友人は呟いた。目の前には、畑や作業小屋が朽ち果てた様子で広がっている。


スマホのマップでは現在位置は一般道から外れ、何処にも繋がっていない山の中とある。

目的地に繫がる道を出るには、一度下山する必要がある。それが一番早いし、的確だろう。


だが、正直な所、暗くなってからの移動は避けたい。そのための近道として、この

山道を登ったのだった。徐々に暗くなる山道は人気が一向にない。

目の前の作業小屋は妙な雰囲気を醸し出しており、非常に不気味だ。


(仕方ない、山を降りるか…)


そう思う彼の目に、少し離れた小屋から出てきた老人の姿が映った。

友人はほっとして、その人物に近づき、声をかけた。


「あの、すいません。この山を登って、隣の〇〇町に繫がる道とかに出ますか?」


作業着を着た老人は耳に片手を当て、申し訳ないという風に、片方の手を上げる。

友人は大きな声で先程の言葉を復唱した。


「あーっ、〇〇の道ね。ある、あるよ!」


不幸中の幸いとは、この事だ。やはり、自分の予想は間違ってなかった。これでも、伊達に自転車を漕いできた訳ではないと少し、鼻が高くなる。


「ほんとですかっ!?」


友人の声に、老人も顔を綻ばせ、言葉を続ける。


「この道を登っていくと、細い道に出るんだぁ。そこを150メートル程行ったら、

別の農道に繫がるからの。そこを右折して、行けば大きな道路に出る。後は道なりに行けば、〇〇町だよ」


「ありがとうございます!助かりました」


答える友人に老人は片手を上げ、にこやかに顔を綻ばす。

そのまま横を通過する彼に、もう一度声がかかった。


「右に行くんだよ!右、左はいっちゃいかんぞ!」


「はい!」


老人の言葉に、友人は返事をして、自転車を漕ぎ始めた。老人の言った道は正直獣道に近いモノで、全身が蜘蛛の巣だらけ、ぬかるみだらけで、いつ落ちても可笑しくなかった。


しかし、老人の言葉を信じ、自転車のペダルに力を込め、時には自転車から降り、

どうにか進んでいくと、先程は違う農道が現れる。ほっと安心した友人は頭の中で先程教えてもらった道を復唱する。


(後はここを右に…)


と思う彼は少し左側の道が気になった。木々の間から電柱や住居のような建物がチラチラと見える。右側は更に上へ登る道。左は下り道、スマホの地図の向きも左の方が近道の様子だ。


(住居があるなら、道路に繫がる道だって近い筈だし、方角的にも合ってるんだけど…)


自分の直感はそう告げている。だが、老人の言葉を思い出し、結局、友人は右の道を…教えられた通りの道を進む事にした。


山を沿うように曲がりくねった道を登ると、視界が開け、先程の左側の道を進んだ先が見えた。点々とした住居がいくつも並び、かつては村だった事がわかる。


その家々の窓枠が抜け、暗い穴のようになった窓から“何かが”こちらを見ていた。

一つではない。全ての家の窓跡から同じ視線を感じ、友人は老人の言葉に従って

良かったと心の底から思った…(終)





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「分かれ道の選択…」 低迷アクション @0516001a

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