「女がいる…」
低迷アクション
第1話
「オイッ、ありゃ、どーゆう事だ?」
不動産業の“K”の事務所に友人“Y”が血相を変えて、怒鳴り込んできた。
こちらを見たKは可笑しそうに頷く。
Yは有名な“遊び人”であり、仕事や女性関係で誰かしらに迷惑をかけていた。
そんな彼が失業した。貯金もなく、アパートも追い出されたYは、Kに彼らしい提案をする。
「最近はさ。何か曰くありげな事故物件とかに住む奴いるらしいじゃん。
家賃安いからってさ。俺怖いの平気だから!
オメーんとこのヤバい物件紹介しろよ?ほら、昔、いい女紹介してやった恩返し…」
他の客を気にする事なく喋るYに、Kは大人の対応で“非常に効率の良い仕返し”を
実行した。
「ウチの店じゃなく、業界で有名な“曰く付き”を紹介してやったよ。
アイツにさ」
障りがある事が重要じゃない。ただ、今まで威張り散らしていたYが
事故物件に住む程、余裕の無くなった様を嘲ってやる企み…
だから、こちらの予想以上に怯える彼に笑いが止まらない。
「どした?オイッ、てか、明日、早出だろ?派遣の工場…いいのか?」
煽るKに、Yは全く反応せず、言葉を続ける。
「遅番で、部屋に戻ると…女がいるんだよ。最初は…部屋間違えたとか、誰か来てたのを
度忘れしたかって思ったけど、俺の住んでる所知ってるの、お前達だけだし(“俺のせいか?”と口を曲げるK)そうじゃない。
とにかく、その女が。俺の前で、手ぇ切るんだ。腕から血流して、俺見て、
ニヤッと笑って消えてさ。流した血とな。生臭いのは残ってたがな。
そんで、また次の遅番だよ。今度は首だ。目の前で切るんだ。ほっそい首に
赤線入って、ぶわぁっと俺に…逃げたくても駄目だ。体動かねえ。
次の時は顔だ。刃物でいくつもキレ目入れて、ボトボト落ちた崩れかけで“ニチャッ”て
笑うんだ。どうなってる?あんなの出るなんて聞いてねぇっ、俺、明日遅番なんだ。
どうすりゃ…」
目を血走らせて、吠えるYの真に迫った様子が、実に可笑しい。
もしかしてコイツとKがグルで自分を嵌めてるのか?
隣を見る。
Kは笑っていない。それ所か震えている。震えたまま…
「なぁっ、Y、覚えはないのか?」
と尋ねる。
「あっ?何言って」
訝しむYに
「覚えないのか?」
とKは畳みかける。
「覚え…!?…」
Yが開いた口に手を当て、外に飛び出していく。怖気を覚える自身の耳にKの声が響く。
「紹介した物件で自殺したのは男だ。だから…アイツ、
一体何をしてきたんだ?その女に…」…(終)
「女がいる…」 低迷アクション @0516001a
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