第二章 

第11話 はじまり

『小説好きが集まる場』

 謳い文句に心を踊らせた。

 歓迎されたのだと思ったけれど、七星は傷ついていた。


「男なんだな」


 えりにでさえも拒否する眼差しを送られ、


「追い出します」


 と、毎日のように三桜に言われた。


 それでも認められたくて、人一倍働いたつもりである。

 

 もちろん、反対せずに送り出してくれた両親へ裏切るような形になりたくないという思いもあるし、自分との戦いだと、気持ちを震わせた。


 努力が実るとは思っている。

 そして現在に至るわけだし。


「ほほう、寝落ちはよくないぞぉ」


 美佐穂が七星の部屋を開けて飛び込んできた。どうして鍵が開くか。真相は闇に包まれている。

 パジャマをしっかり着ているだけで安心するのも変だけど、仕方ない美佐穂だし。


「朝からびっくりブラッキーなのよ、やめとくれ」


「いやはや、今日は違うよお、今の私はブラッキーじゃない」


「分かった、脱ぎ始めるな」


 ブラッキーとは黒枝美佐穂のペンネームである。それこそ、ここに来た日に教えてもらい、七星がペンネームというものにこだわりを持ったきっかけでもある。

 ちなみに美佐穂曰く、ブラッキーとは黒枝からとったものではない、身につけているものであるらしい。


「とりあえず、人生ゲームしよ」


「とりあえず、人生をしてくれ」


 七星は腕を引っ張られたまま、リビングまで連れて行かれた。セットは万端でいつでも遊べそうだ。


「今日、学校だぞ」


「何言ってるの、今日は祝日でしょ」


「あ、そっか」


 美佐穂はさっきまでの人外的態度から一転して、本職である女子高生の声を出した。何よりこいつが学級委員という肩書きなのはびっくりだがそうだ。


 休日はずっとWEB小説へと向き合っていたからか、七星の記憶からカレンダーがはみだしていたようだ。


「混ぜてください、美佐姉」


「いいぜ」


「姫路のレストランは、部屋でレスト(休憩)しとけばいいだろ」


「おお、少し優しくなったな。でも人生ゲームは人数多いほうが楽しいぞ」


 「姫路のななつ星レストラン」という見事にダサい路線を決め込んだ名前は、七星のペンネームだった。七星を省こうとする三桜もよく七星を殺そうとするからこの発言はまだ優しい。


「まぁ、その後は太平洋越え、二十四時間マラソンですけど」


「水泳か、最近暑いし良いかもな。たぶん、ゴールにたどり着けないけどな」


 レスト&ランというわけですね分かります。殺したいから海なのも分かります。


「でも、水泳は身体に効くぞ」


 そうして、座り込んだのはえりだ。

 一つ上の先輩で、体育会系作家という異名。


「程度が良ければなぁ」


 ピンポーン

 インターホンが鳴った。

 三人の視線は見事に七星に集まって渋々立ち上がったのだが、玄関から鍵の解除音が聞こえてくる。


「はーい」


「失礼致します」


 このシェアハウスの管理人である常磐乙春が招き入れたらしい。

 その人影がリビングまでやってくると、深々お辞儀した。


「わたくし、常磐乙春さんの担当編集の霜月ののかと申します」


 四人共々口を開けて固まっていた。

 七星はその女性の胸の迫力だったけど、他三人の理由は分からない。


「……大きい」


 ぼそっと美佐穂が言った気がする。でも美佐穂は人より動物のほうが好きなはずだ。

 えりや三桜は口を噤んでいた。


「たしか常磐さん、ここは小説家さんの集まるシェアハウスなんですよね」


「ええ。この子達は少なくとも小説という共通のネタで盛り上がってますよ」


 おいおい、いつから話題が噛み合っているんだよ。嘘も方便だ。


「よ、よろしくお願いします、……で合ってますか」


「そうですね。あながち間違いではないかもしれませんけれど……」


 霜月はこめかみに指を当てて、渋い顔をしていた。その間もバッグを丁寧に持ったままである。


「あなた方のような不躾が作家志望とは中々ですね」


 随分と、心外なことを言い放った。

 それにはさすがの七星も動揺する。


「た、たしかに人生ゲームを出しっぱなしで、片付けずなのは問題あったかもしれないですけれど」


「別にわたくしはそんなこと言っておりません、あなた達の雰囲気が、馬鹿っぽいといいますか──」


「やめてください、霜月さん、この子たちは悪くないから」


「ガキです、所詮」


 霜月さんがそこまで言うと、えりは自分の部屋へと戻って行ってしまった。


「それに、えりは、実際作家で……」


「わたくしは常磐さんの専属です。それ以外に興味ありませんので」


「ですけど」


 反論しようとしても言い訳が出来ない。乙春はじっとやり取りを見守っている様子だった。

 そして霜月は、


「クリエイターとして、頑張りたい気持ちをサポートしたいのです。少しでも刺激になればということからお招きいただきましたが……」


 目をかっと見開く。


「少々、刺激が強すぎたようですね」


 そのあからさまに見下している態度に対して強い憎悪を感じる、七星だった。

 そして、美佐穂も三桜も自分の部屋に戻って行ってしまった。


 なんで今だけ弱メンタルなん?


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ラブコメ小説家(志望)の俺は女子だらけのシェアハウスでモテるのか? ──答えは「はい」であれよくそが 猫月笑 @keraneko_sho

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