グランブルー

鹿島 茜

心の風景

幼い頃の思い出か それとも既視感か 

紺碧の海の底に音もなく 意識が吸い込まれていく

海の青に似た黒い瞳に 吸い込まれて身体が震えた

目を閉じれば 自分もその目になることができた


黒い瞳にはいつも そよ風が吹いているみたいで

目の前に立つと 心が掃き清められる思いがする

よこしまな心など持ち合わせない 聖人君子にも見えて

恥ずかしくなった


好きとか

嫌いとか

感情なんかどこかに置き忘れてしまって

ただ 同じことをして同じ時を過ごして

気づいたのは 手に触れた瞬間


この世に生まれ落ちて 初めて顔を見た人がこの人だった

ひな鳥の刷り込み ただついて行く

憧れとか

目標とか

表現なんかうまくできなくて

ただ追い掛け回して 夢中になった


口をついて出る言葉はつたなくて ふざけたことしか言えなくて

無我夢中で 五里霧中で ジェットコースターの日々


止まらないジェットコースター 止まらないコーヒーカップ

止まらない観覧車と 止まらないメリーゴーラウンド

夕暮れが近付いても止まらずに

自分自身が同じところを回り続けていることに気づいた


くるくると回っているのは ジェットコースターではなく

コーヒーカップでもなく 何でもなく

私だった


オルゴールの中に隠れている 小さなバレリーナのように



オルゴールのバレリーナが ゆっくりと止まる

螺子が切れた 緊張の糸が切れるように

ゆるやかに

止まる きりきりきりと音を立てて


自分が止まる 私が止まる

巡り巡る銀河におとずれる 生涯一度の点検期間


日本海溝よりも マリアナ海溝よりも

深く沈み込んでいく 黒い黒い瞳

吸い込まれて 意識も薄く 呼吸も薄く

鮮やかな恐怖に 頬を撫でられて


手を差し出せば 再び銀河は回り始める

今 この両手の中に

ビッグバンが起こった


螺子が回る 回る 回る

きりきりと音を立てて 螺子が回される

蓋を開けば バレリーナが躍るだろう

ゆっくりと 小さな旋回を繰り返す


オルゴールも回り 銀河も回り 遊園地は動き出す

全ては動き出す

海の底からしなやかに浮かび上がる ジャック・マイヨール


沈まないで

沈まないで

止まらないで


動け


バレリーナが回る 観覧車が回る

銀河系が止まることなく動き出す


心は沈んでいく

静かに深く音もなく 紺碧の海溝へ



(2009年1月1日初出)


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