キミの直観力を磨いた方がいい理由について

鱗青

キミの直観力を磨いた方がいい理由について

「あダメ、こっちのカウンター席に来て。真ん中に二つ席取ってあるから」

「なんでだ?窓際あっちぃし、こっちのが隅っこで静かで落ち着くぜ。そこカウンターの角席でもねえし対面トイメンじゃねえから話しづれえって」

「いいから!で、こっちに座るの!」

「はあ?お前右利きだし俺左利きだし、俺が左の方が互いの肘が邪魔にならねえだろが」

「い・い・か・ら‼︎」

「お、おう…たく何だってんだよ…」

「あーっ⁉︎」

「っんだよ今度は?」

「どうしてモカピーチフラペチーノじゃないの⁉︎ちゃんと僕モカピ二人分注文したよね?え、お店のミス?」

「あー、俺あんま冷てぇ飲物のみもの大量に飲むと腹ぁ下すからよ。それに元々甘ぇの苦手だし。お前が席取りに行ってる間に店員さんに頼んで注文内容チェンジしといた。どうせおごられるなら好きなモン飲みてえしな」

「はー…信じらんない…なんていう我儘わがまま…」

「小せえ事気にすんなって。ホレ、お釣り。──で?相談って何だよ」

「小さい事じゃないよ。僕には大事なポイントだったのに…」

「ふっ。クヘッヘッヘッヘ」

「何?思い出し笑いなんかして」

「いやレジのとこでお前さ…『お持ち帰りですか』っわれたのに『お持ち帰りません、テイクオフです!』ってでけえ声で答えたから。爆笑されてただろ店員に」

「あ、あれは緊張してたからだもん」

「にしたってキョドりすぎだ。中坊でもあるめえし、高校生にもなってたかがスタバの注文如きで何ビビってんだよ?いつもみてえにユルユルのほほんとしてりゃいい。今日に限ってどしてガチガチしてんだ?」

「ま、まあそれは…すぐに分かるよ…」

「ふうん?」

「…」

「…」

「…美味しいの?それ」

「アメリカンだぜ?その辺の茶店の珈琲と変わんねえんじゃねえの?知らんがよ」

「ふーん。他の喫茶店とかもよく行くんだね」

「まあ部活仲間ツレと一緒にな…っつぅかお前はこの店初めてなのか?俺を連れてきたくせに」

「…なんていうかさ」

「おう」

「高校に入学しはいってから僕ら、距離ができちゃったよね?」

「別のクラスになっちまったしな。二年にクラス替えがあるから同じになれるよう期待しようぜ」

「物理的な意味じゃないんだけど…」

「部活もなあ。お前も吹奏楽部じゃなくて俺とヨット部に入部はいればよかったのによ」

「僕は小学生から金管楽器続けてるもん。ウチ部活必須だけど他に行けそうな文化系も限られるし。君んところはもの凄い体育系だって聞いてるよ」

「あー、ロープの結び方がちょっとでも間違ってたり部品の組み立てが遅かったりすると腕立て百回だからな。毎日平均で五百回はやらされてる気がするぜ。お陰でホレ」

「うん、すごい上腕二頭筋になっちゃったよね。僕と比べると三倍ぐらいありそう。…それに顔も体も…」

なまちろいお前と違って外でかれてるからな!輝く小麦色だぜ!」

「どうせ僕は君みたくマッチョじゃ無いし背も低いよ」

「手足も細ぇし童顔だしな。でも可愛いからいいじゃねえか」

「…そういう事迂闊うかつに言わないでよ」

「あ待て。動くなよ…んっ」

「なっなっなっ何してんの⁉︎」

「クリーム思っきし付いてたし、こっちの頬」

「分かってるよ!ティッシュくらい持ってるし!なっなっなんで直接」

「ん?直接くちで吸う方が早えだろ」

「だっ…」

「お前すぐ赤くなんのな。構うなよ男同士なんだし」

「と、とにかくこれ!林間学校の写真ができてきたから!はい‼︎」

「おーサンキュ!よくれてんじゃん。やっぱ俺現像された写真って好きだな。LINEでもいっぱい交換したけど、こういう特別感っつうか旅行した記念の感じがしていいよな」

「結構はっちゃけてたよね先生達も。…プッ、キャンプファイヤーのときの担任のリンボーダンス!あれ凄かったあ」 

「そういえば最終日の夜にお前が俺の布団に潜り込んできて仰天したっけな」

「あ、あれはさ!何度も言うけど罰ゲームだったんだよ?…気持ち悪くなかった?」

「あー、正直言おうか?」

「…」

「嬉しかった!なんか小坊の頃に戻ったみてえでよ。俺の部屋でしょっちゅうゲームして夜更かしして、ベッドで一緒に寝てただろ?だから懐かしくてさ。へへっ、また前みたいに泊まりに来いよ。俺の家族も喜ぶし」

「えと…だ、抱きついたりした、じゃん…?」

「あー、あれな。あれも良かったぞ?久しぶりにくっつけたし、お前の体ポカポカしてあったまるし。丁度こー、サイズ感もピッタシっつーか抱いた感じも気持ち良かったし」

「そ、そう?」

「一つだけ注意しとく。ああいうのは俺以外に絶対するなよ。惚れてるって勘違いされるぞ?」

「君以外にするもんか!」

「お、おお⁉︎どうしたよいきなり?店ん中だぞ?でけえ声出すなよ」

「だって、君があんまり鈍いから…」

「今度は声ちっさ!何だって?」

「何でもないよ」

「変な奴。てか今日特に変だぞ?」

「…そう?」

「ああ」

「…」

「…」

「惚れるとかいえば、キミこそそういうのないの?…こないだ校門のところで他のクラスの奴にぶつかられてたじゃん」

「そんな事もあったな。なんか背の低い目のでけえ奴だったぜ。ちょっとお前にも似た感じだった」

「それで手紙とか渡されてたでしょ?中身読んだの?」

「勿論。なんかハートの形のシールしてあったな。でもありゃ他人宛の郵便物だった」

「───は?」

「えーと…〝朗らかで真っ直ぐな性格の貴方は僕の理想です。初めて見た時から好きでした。恋人にして下さい〟…だったかな」

「え、ええと?それで何で他人宛って?」

「そりゃそうだろ。あんなラブレター俺にくれるわけねえじゃん。自分よりでかくて迫力ある相手にぶつかって混乱してたんだ。切手も貼ってなかったしな」

「それで⁉︎」

「あの翌日、ぶつかってきた奴を下駄箱んとこで見つけたから返した。なんか逃げるみてえに走ってった。だからやっぱ違う奴宛てだって」

「キッカケが欲しくて、わざとぶつかってきたとは思わないの?」

「単なる交通事故だろ。向こうがスミマセン!て謝ってたし。喧嘩売るなら上等だけどよ。誰にでもミスはあるもんだってワッハッハ」

「鈍い…鈍すぎる…」

「なんだよため息吐いて」

「…じゃあこんな話しても無駄かな…」

「なんだ?ゲームか?カラオケか?」

「ううん。ウチの学校に伝わるジンクスの話」

「なんか面白そうだな!聞かせろ!」

「なんて事ない恋愛のおまじないさ。駅前のスタバの窓際のカウンター席。の、真ん中二つの右側に好きな人を座らせて」

「ふんふん」

「モカピーチフラペチーノを飲ませるの」

「ほーほー」

「すると…その…両想いになるんだって、さ…」

「…」

「…」

「そうなんだ。知らなかった」

「…ダメだこりゃ」

「え?もう誰かに試したのか?失敗か?落ち込むなよ」

「あのね。ウチ男子校なんだけど」

「いや知ってるし」 

「…」

「どうしたんだよ。本当に調子でも悪いのか?」

「…あのさ」

「うん」

「君は誰か好きになった事ある?」

「いや。無えな」

「そう…」

「ん?」

「…じゃあいいか。もう…」

「何がもういいんだ?しょんぼりしてよ」

「ふー…あのさ。昨日なんだけどさ。僕、告白されたんだよ。部活の先輩から。優しくて世話好きで、頼り甲斐のある人だよ。その人が僕の事を好きだ、付き合いたいって。──だから、君が誰の事も…僕の事も…好きでもなんでもないんなら、暫く会わずに…ううん、未練を断ち切るためにも、絶交した方がいいのかもしれない…」

「…」

「…それじゃ」

「おい、行くな」

「痛っ!ちょっと、力強いって!」

「座れ。いいから」

「…なんなの」

「そんなのダメだ」

「ダメって…?何それ。何がダメなの?そんなの君の都合でしょ?都合が悪いから、ただ寂しいから僕が誰かと付き合うのがダメって言うんなら、そんなの酷いよ。だって僕は」

「黙れ」

「…」

「…」

「…」

「…」

「…」

「…うまく…言えねえんだけどよ…」

「…うん」

「この、さ。ガラスに映ってるだろ、俺らはさ」

「…それが何」

「お前と、俺。並んでるだろ。小坊の頃からさ。これが当たり前なんだよ。これがいいんだ。だからお前が俺の隣に居ねえのは変だぜ」

「…よく分からないよ」

「うん。俺もよく分からん。けど、お前が他の奴と付き合ってそいつと並ぶ姿も、お前が居なくて俺だけが映ってる姿も、どっちも見たくねえんだ」

「…子供みたいな独占欲だね」

「…あのよ!さっき誰か好きな奴いるかって訊いただろ」

「うん…」

「俺さ。お前以外に好きな奴なんか居ねえしよ。誰かって訊かれても答えようがねえんだよ。他に誰かって?そういうの無理ってもんだぜ。あー畜生、ほんっとにうまく言えねえや」

「…」

「…まだ怒ってるか?」

「…」

「ん?あれ?なんだよもしかして笑ってやがるのか?」

「も・いいよ。──よーく分かったから!」

「そうなのか?まあそういうわけで、俺、お前と別れるつもりさらさら無えからな。お前も誰かと付き合ったりするなよ。ンな事しやがったら俺がその相手ぶん殴りに行くからな。あと、お前は俺のモンだ、金輪際ちょっかい出すなってしっかりその先輩にも伝えとけ」

「──だから!いいってばもう…」

「本当かー?約束しろよ?…あれ?赤くなってね?お前また」

「ゴホン。それがどうしてだか当てられる?」

「えーと…」

「…」

「…何でそんなにじっと俺を見るんだ?」

「それも含めて」

「それに凄え嬉しそうだな。んー?…ああ、そういう事か!」

「おっ、言ってみて」

「最初のは飲物で腹具合悪くなってた。んで、今ちょっと持ち直した!…どうだ?正解か⁉︎」

「ブブブー!大外れ。お前の直観力は既に死んでいる」

「あっそれ聞いた事あるぞ。なんか昔の拳法のアニメだろ、北斗なんちゃらとかいう」

「そういうのだけは分かるんだ。ま、いいや。今日は帰ろ。…今度、泊まりに行ってもいい?久し振りにゲームしよ、一緒に」

「一晩中な!」

「うん。…君の直観力を磨くのは、これから長くなりそうだし。僕がしっかりフォローしてあげるよ」

「──おう!頼んだぜ‼︎」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

キミの直観力を磨いた方がいい理由について 鱗青 @ringsei

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画