天性の直感を持つ少女

さーしゅー

天性の直感を持つ少女【KAC20213】

 私の頬を掠るひんやりとした風が心地よくて、朝のツンっとした空気は鼻を赤く染めます。そして、まぶしいばかりの朝日は、眠たさの残るしょぼしょぼとした目をくすぐります……



 私は今。朝の爽やかな通学路を、自転車でグングンと駆け抜けています。



 すぐ左隣の道路には、車がひしめき合っていて、そのエンジン音は、信号待ちにイライラしているようにも見えます。私は、その車たちに、心の中で「おっさきぃ〜」とあやまりながら、ごぼう抜きにします。



 そして、しばらく進んだところで、私の“天性の直感”はピンと閃きました!




「このままいけば、長い信号は青になっている!!」




 「長い信号」というのは、前方の古ぼけたビルを、右に曲がると顔を覗かせる、大きな十字の交差点のことです。ちょうど隣を並走している、あふれんばかりの車たちも、吸い込まれるようにその交差点へと向かい、その十字はいつも大渋滞を引き起こします。


 渋滞が多い十字の交差点では、歩車分離式の信号が採用されています。この方式では、歩道の信号が一度赤になってしまうと、青になるまでがうんざりするほど長くて、できれば引っかかりたくないのが本音です。だけどこの交差点を迂回するにもまあまあな距離の遠回りになるので、それも避けたいところです。


 もし、青になるとわかっていれば、間違いなく交差点を使うのですが、普段は待ち時間が嫌なので迂回しています。



 そこで、私の直感です。


 私の直感は、信号が青だと伝えてくれました。  


 私は直感を信じて、交差点に向かって軽快に自転車を飛ばしました。 

 

 

* * *



 なぜ私が、ひどく非科学的な、なんの根拠もない、この直感を信じているのか、理由は、二つあります。



 一つ目の理由は、私は“天性の直感”を持っているからです。


 私は時々、脳内に言葉にはできないような意思が閃きます。そして、それが現実になることが多いのです。


 たしかに、友達に直感のことを言うと、「何言ってるの」と笑われますし、話を聞いてくれたとしても、「どうせ、たまたま当たっただよ」とか「運が良かったんだろう」とか言われてしまいます。

 

 でも、脳内に突如として閃く感覚を、私は簡単に否定することができません。


 今朝だって、普段ならありえないことを天性の直感でぴたりと当てましたから。



 状況はこうです。

 

 まず、朝食の場面を想像して欲しいのですが、普段であれば、パン派である我が家では、四人がけのテーブルの各席に、一枚ずつ焼きたてのトーストが並び。付け合わせの野菜とスープ、それにコーヒが並んでいます。そして、家族と一緒に手を合わせて、それぞれかじりつく……


 だけど、私の直感はいつもの朝食の光景を否定しました。そして、とんでもないことを言うのです。



「今日の朝ごはんは、生の食パン1枚だ!」



 花も恥じらう十七歳、そんな私の朝食がたったの生の食パン一枚。そんなの、ありえなくないですか?

 

 もはや虐待レベルの事態は、とても信じ難くて、信じたくもなかったのですが……


 リビングのドアを開けてみると、食卓に乗っていたのはたった一枚の生食パンでした。


 私は、その直感の鋭さと、朝食の質素さに驚きを隠せませんでした。

 

 誰が、この生食パン一枚という、普段の光景とはかけ離れた、モーニングタイムを想像できますか?  

 

 これは、間違いなく直感が当たったのだと信じています。




 そして、この直感を信じる、二つ目の理由は、今日の運勢が非常にいいことです。


 今朝は、普段は見ることがないニュースの星座占いを見ました。すると、なんてことでしょう。私の星座、天秤座がなんと一位でした。さらに、ラッキーアイテムは青いものと出ていて、これはまさしく信号機の青で間違いありません!


 さらにさらに、運勢を上げる行動として、朝日を浴びるとより運気が上がるとも出ていました。


 もちろん眩しい朝日は、たっぷり浴びていますし、さらに、今朝は普段拝むことのできない朝日だってたっぷり拝むことができました。


 


 ここまで条件が揃っていれば、私の直観が外れる心配なんて一切ありません。


 私の直感はとても素晴らしい、そうつくづく思います。

 

 だから、私は、直感を疑うことなく、交差点に向かったのです。

 

* * *



















「遅刻確定じゃあぁああああああああああああぁああん!!!!!」



「赤とかありえないぃいいいいいいいぃいいい!!!!!!」





 その信号が赤色であると確認した私は、絶叫どころなんてもんじゃない!



「この信号が青だったら、ギリギリ間に合ってたのにぃぃ!!!!!!!!!」



 目覚ましのアラームを仕掛け忘れて、あわてて飛び起きた私は、家族に睨まれつつ、焼いてくれなかった生食パンを食べて、普段見ることのできない、占いコーナーが終わってしまうのを、冷や汗をかきながら見て、この寒い時期には普段顔をのぞかせていない、太陽さんに焦りまくって、自転車をぶっ飛ばしていて……


 『このままいけば、長い信号は青になっている!』なんて、願望たっぷりに願ってみたけど……


 結果は普通に赤でしたー!!! ほんっとあり得ない!!!!!!!


「私の直感って天性のものじゃなかったのぉぉ???」



 私の直観が外れるなんて、ありえない! ありえませんよね!!




 ……………………で、でも、ま、まあ、よく考えれば、一つ当たっていた所もありました。




 目を覚ました瞬間に、時計を見て、たしかに直感しては、いたんですよね……




「私は間違いなく遅刻する!」


と。


 だ、だから、やっぱり私の直感ってすごいですよね………………



 へへ、えへへ…………




 そして、私は無事に遅刻し、案の定、先生にこっぴどく叱られましたさ。


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