第2話 無田 創


なぜあなたは彼女をあそこまで殴りつけたんですか?



刑事が僕に聞いた

わかるわけがなかった。そんなの。


わかるならばお答えしています わかりません


そう答えると耳がキーンとなる怒鳴り声が響いた







僕が彼女に出会ったのは今から3ヶ月と少し前だった。

彼女はとても不思議な雰囲気を持つ女の子で、不覚にも一目惚れだった


たまたま趣味が同じで たまたま友達の友達で たまたま話しただけ


というのは建前で、本当は僕が友人に頼み込みライブへ連れて行ってもらい、偶然を装って知り合った


だが、僕らは波長が合うらしく、意気投合するのに時間はいらなかった


2人で遊び、その勢いで告白をした

断られることを覚悟していたが、意外にもあっさりと承諾を貰った。


彼女との時間はあっという間で、あまりに儚くて今にも消えてしまいそうな彼女を手放したくなくて、毎回家まで送り届けるようにしていた。


片道1時間半。毎回終電で帰るので、電車で寝ることは許されなかった。

それでも僕はその時間が好きだった。世界で一番の幸せ者になったような気分だった。



いつもニコニコしているのに、なぜか寂しそうで苦しそうな彼女が何を抱えているのか、何を抱えていたのか、僕は聞くことができなかった


喧嘩はしたことがなかったが、たまに僕の発言や行為で顔色が曇る時があった。


あのとき、気づけていたら


何度思ってもあの日に戻ることはない





あの日の話をしよう


その日はクリスマスだった

24日と25日どちらも会うのなら泊まりにしない?という彼女の提案で僕の家でのお泊まりが決まった。

僕は 時期も時期だし、彼女からの誘いなのだから、当然そういうことがあっても不思議でないのだろうと考えてはいた。

だがもし、彼女が少しでも嫌な思いをするならば絶対に進むべきではないと考えていた。



当日、いつもより少し露出の多い服で彼女が現れた。


おはよ


そう言って笑顔を見せた彼女が天使に見えた


露出の多さを少し注意し僕の上着をかけた

街を歩く人々がみんな僕の彼女を見ている


彼女はかなりスタイルがいい

いつもはあまり露出のない服装だが、今日のような体のラインが出る服を着ると、正直街ですれ違うには刺激が強いレベルだ。


はあ。なんでこんな気苦労をしなければいけないのだろう。少しイライラしながらイルミネーションを見ていた


彼女が泣きそうになっていることに気づかないまま大股で歩いていると、彼女が小さな声で言った


かえるね


僕は急いで引き止めた


あとから考えると、僕の理性はこの時点で無くなっていたのかもしれない


僕のイラつきや朝から気になっていたことを正直に話し、彼女を家に持ち帰った。


彼女なので"持ち帰る"というのはそぐわない表現だが、もはやそんなことはどうでもいい


というより、"持ち帰った“という方が正しいのである





シャワーを浴び、ベットに入った

僕はとりあえず眠りにつくふりをした

すると彼女は言った


しないの?


その一言で僕の理性は崩れ去った


可愛くて大好きな僕の彼女を僕だけのものにできる幸せに胸がいっぱいになり、

彼女が気持ち良くなるように 彼女との初めてを大切にしたい 彼女を僕のものにしたい…


自分はこんなにも彼女にどっぷりと浸かっていたのかと気づいた瞬間でもあった



問題は次の日だった


朝、唸り声のような鳴き声のような叫び声のような、そんな音で目を覚ました


その後の正体は彼女の声だった


ど、どうしたの?


僕が聞くと、彼女の矛先はまっすぐに僕に向いた




何も変わらなかった 何も変わらないどころか全部無くなっちゃった 私を返して!

私の全部返してよ 私が私じゃなくなったのはあんたのせいだ、あんたに奪われた


痛いも不快も破壊も全部飲み込んでやったのになんなんだよ お前ばっか楽しんで


あの日の変態と一緒だ

クソ変態が あー消えてよ お願いだから消えてよ


僕は困惑した

こんなにも怒った彼女を見たのは初めてだった。


なんとかなだめようと、抱きしめたが逆効果だったらしく、彼女はスマホとスイカを持って家を飛び出してしまった。



たしかに昨日の僕は自分勝手だった

彼女は、しないの?と聞いただけなのに

襲うような態度を取ってしまった

もしかしたら過去にトラウマがあったのかもしれない。そうでなくても襲われるというのは怖いはずだ。


失敗した 彼女が僕のものじゃなくなってしまう そんなの嫌だ


僕のものなんだ ずっとこの先も 彼女は僕の





1ヶ月が経った


彼女から突然電話が来た

電話に出ると彼女はこう言った


生理、こないの 妊娠したかも


僕は正直嬉しかった

彼女はまだ未成年で子供を産む適正年齢というには少し早かったが、僕の好きな彼女と自分が混ざり合った、子供 ができるということは、彼女の中に僕が入り込んだということでもあるからだ。彼女の中で僕と彼女の融合体が作られる。生まれる前も生まれた後も僕にとっては天国そのものだった。


中に出した覚えは無かったが、あの時、理性はどこかに置いてきていたのでそういうこともあったのかもしれない。


彼女には

結婚しよう。責任を取らなきゃいけない

僕たちの子供のことだ。堕ろすとしても僕も一緒じゃなくちゃ

と伝えた。


すると彼女は

ごめん、別れて欲しい


とだけ言って電話を切った




彼女を理解できない悔しさと、彼女と子供が自分のものでなくなる恐怖から、僕はなるべく自分のこれらの感情が伝わらないように丁寧に文章を綴った


別れるとしてもこのまま会わずには嫌だ

話し合いたいから、一度会えないかな?

もしあれだったらそっちに行くよ



絶対に理解して 取り戻す

僕のもの 僕の彼女だから





当日 彼女はいつもの服装だった

少し安心し、家にあげた


今日は何もしないから安心して


そう言うと彼女は


知ってる 


と言った




僕は少しずつ少しずつ弁解し、

彼女の本心を引き出そうとした。


しかしどんなに頑張っても彼女の言いたいことはわからなかった。


沈黙が続いた後、彼女はこう言った



じゃあ、私を殴って死ぬギリギリで止められたら結婚して子供産むよ


どうかな?



いつも不思議な彼女が、この時だけは不気味に見えた


いつもの笑顔なのに、彼女じゃない

いつもと同じ不思議な彼女のはずなのに、不気味だ




おかしい おかしい おかしい おかしい


僕の彼女はどこにいったの?


気づくと僕は彼女を血で染め上げていた


それでも彼女は笑っていた


気持ちよさそうな顔をしていた


SEXをした時の何十倍もいい顔をしていた


ああ 彼女の言っていたことは本当だったんだ。


僕が彼女を奪ってしまった

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