僕の世界

@mikuikasane

第1話 私は生まれた時からずっと"女の子"だった



私は生まれた時からずっと "女の子" だった



小さい頃はおままごとが好きで、リボンの髪飾りをつけて、くまのぬいぐるみを抱いて、プリキュアに憧れていた。


何歳になっても男の子が好きだった 何歳になってもかわいいものに溢れた部屋。長い髪。毎日学習し続ける美容法・メイク。マウントの取り方や機嫌の取り方まで。 私はずっと女の子なのだ。


でも最近、少しおかしいのである

私は女の子が好きなわけでもない。男の子になりたいわけでもない。でも、私は、男の子に女の子として見られることが嫌になっていた


少し前に遡ってみる


中学生の頃、女の子だけが集められてある話をされた。

生理の話である(男子はきっと気になっていた女子だけの集会の真実をこんな形でお知らせして申し訳ない先に謝罪しておく)。

私はまだ該当ではなかったが、へえそんな風になるのか。と新しい知識を蓄えたような気になっていた。

しかし問題はその後だった。先生は続けて、妊娠の話をした。

『生理というのは、赤ちゃんを作る準備ができたことを知らせる合図なのです。みなさんは生理がきたら子供を作ることができるようになります。』

意味がわからなかった。

当時の私にはあまりにも衝撃的だった。

赤ちゃんというのはどのようにしてできるのだろう

単純な疑問だった。それが全ての始まりとなってしまった


私の中学時代は、すでにインターネットが普及していた。妊娠の方法について調べることなど容易だった。


性交渉、精子、受精、sex.... 知らない言葉に溢れた検索画面に思考を停止させてしまったあの日をよく覚えている


中学に上がり学年が上がるたびに男子がにやにやと話をしていたのはこんなことだったのかと納得がいったようなとても気持ちの悪いような変な気分だった。


ある記事が目についた


『赤ちゃんはどうやってできるの?』


見出しにはそう書かれていた


私の知りたいことはこれだ!と勢いよく開いた


読み終えた私はただ "気持ちが悪い"という感情だけに覆われた。


自分の身体に別の身体が出来上がり膨れ上がり最後には母の身体を裂いて出てこようとするなど考えるだけで恐ろしい。こんなに恐ろしいことを世の中では"おめでたい"としている現実にすら気持ち悪さを感じた。

それだけではない。その過程に至るまでに人間は性交渉を行うという事実を初めて知った。


日本は性教育が本当に進んでいない。そのせいなのか、私の特性なのか、こんな中途半端な知識と理解で私は、自分が女に生まれたことを後悔し、死にたいという考えを持つようになった。男の子になったら何かが変わるかもしれないと髪を切り着飾ることをやめユニセックスな服装を心がけ声を低く出して…いろいろ努力してみたが、その努力と反比例するように胸は膨らみ身体はどんどん丸みを帯び、毎月生理に襲われ、男の子を好きになるばかりだった。


私には普通に生きる資格がなくなってしまった

そんな絶望に襲われた


高校生で初めて行為をした

興味本位だった。死ぬ理由を、妊娠をしたからという立派な理由を、作りたい。

もしかしたら実際に行為を行うことで何かが変わるかもしれないという期待も少しはあった。現実にはとことん裏切られるわけだが、この時はまだ少しの希望があったのである。



ネットで相手を探し初めて会った名前も住んでいる場所も年齢も全てが不確かなその男に私はすべてを委ねた。


感想? それはもう本当に 気持ちの悪い気味の悪い後味の最悪なものだった。


ただひたすら相手がしたいようにしているのを眺めているだけの時間を誰が幸せと捉えるのだろうか


申し訳程度の前戯と永遠に続く自己快楽のための行為

あーこんなにくだらないもので人は命を授かるというのか。馬鹿馬鹿しい。人類皆滅びてしまえばいいのに

とまで考えたほどだ


その馬鹿馬鹿しい行為は2時間に及んだ

私は何もしていないというのに満足げなあの顔を一生覚えている。生物が生み出した変態という名の生き物の顔だった。

私の出血に歓喜し痛がる姿を笑顔で傍観していた

悪魔と言っても過言ではないだろう

こういう男は絶対に人を殺せない

こいつに託す必要性などなく私は勝手に死ぬことは出来るが、出来れば自殺より他殺の方が良かったので人を殺すことのできそうな男であればと思っていたが計画は失敗に終わった

こういう中途半端なクズは永遠に中途半端なのである


今だから言えるが、こいつは犯罪者である

20を超えて高校生に手を出した立派な犯罪者だ


自慢げに今までの経歴を語る姿がより低能さを感じさせた。これで私が死ぬ理由を与えられなかったらお前など存在意義のない無価値な人間だというのに。


少し言いすぎてしまったが今も尚この男の顔を思い出す度吐き気がするので許して欲しい


私にとって性交渉は穢れの象徴であった

イメージではない。個人の感覚が確かにそう感じた


行為をするたび私の中の何かが崩れ落ち泣くほどに嫌 という感情に支配された。気持ちが悪い、汚い、最悪だ、死んでしまいたい そんな気持ちしかなかった。気持ちが良くて気分が良くて幸せになれるはずではなかったのか。つくづく私は世間一般の幸せを理解することが出来ないらしい。

人にベタベタと全身を触れられ中に入り込まれるあの感覚をどう表すべきか。表すことすらも気持ちが悪い。


純粋(ピュア)な恋愛小説や少女漫画のように、行為や妊娠の過程を全てスキップできてしまえばいいのだが、現実はそうはいかない。最初から最後まで全ての記憶が鮮明に刻まれる。せめて記憶から抹消されてしまう運命であれば耐えることができるというのに。

世間にとってはその過程すらも幸せだというのだろうか。私には到底理解のできない範疇である。





歳を重ねた。私はある男を好きになった。


友人が言うには、好きな人との行為は素晴らしいものであり、行為自体に特別なものはないらしい。


その言葉を信じて付き合って3ヶ月、初めて好きな人と行為をした

何も、変わることは無かった

強いていえば、気持ち程度の前戯の時間が増え、好きだ 可愛い の言葉が付け足されたくらいだろうか


気まずさ故に幸せであった 気持ちよかったなどと嘘を並べたてたが内心は反吐が出るほど嫌な思いだった


その誤魔化しも虚しく私の心はすぐに崩れ落ちた

あの時の彼の焦りようは未だに忘れられない

汚い 気持ち悪い 嫌 やめたい 死にたい 苦しい 死んで欲しい 怒 全てのマイナスの感情を集結させたかのような塊に襲われそれをそのまま投げつけてしまった

妊娠をしなかったとて私にとって行為は嫌なものだったのだ。好きも嫌いも良いも悪いもない。最悪なものだったのだ。




1ヶ月後 生理が来なかった

私は終わったと思った。彼に電話をかけ、それを伝えると、彼はこういった

「結婚しよう。責任を取らなければいけない。

僕たちの子供のことだ。堕ろすとしても僕も一緒でなければいけない」


とてもまともな人だ。というのが世間一般の解釈だろう。しかし、私にとってこの言葉は別れの決め手となった。どうにもならない苛立ちをぶつけるように私を殴り半殺しにした彼は今どこで何をしているのだろう。警察に連れていかれた姿をぼんやりと眺めていたあの日のあの痛みの心地良さは忘れることが出来なかった。

行為の痛みにあんなにも嫌悪を感じたというのにこの違いはなんだ?

こんなにも生きていることを実感させられた日はない。数日間の痛みとの共存を楽しんだ後、腫れ上がった全身の皮膚を見つめながら、死ぬのは難しいなあとしみじみと余韻に浸っていた


その後妊娠の兆候は全くないまま 生きている

生理もいつだったか再開した


まだ私は女の子で 息をしていて 死ぬことを許されていない






私はある時から 結婚をしたくない女を名乗るようになった

人には散々、人と一緒に暮らすのが向いていないだの恋愛するのも嫌なのに結婚だなんてなどわがままな女を演じていたが

本当の理由としては結婚は妊娠の責任を取る儀式であり、結婚の次のステップは妊娠出産だからであった。


結婚など学生のうちに考えるのも早いという友人もいたが、私はもう既に老後まで考えていた

現代社会で老人がたった1人取り残されるというのは残酷なものである。

親が亡くなったら 友人がいなくなったら いたとしても人生の伴侶を見つけてしまったら 私は1人ぼっちだ。


1人は良くても独りは寂しい とよく言うものだが、私はこれに当てはまる人種である。

生きていくことが出来なくなれば死んでしまえば良いのだが、どうも死というのは難しいもので簡単には実践させてくれない。


過去に学校での飛び降り、家での首つり、行為中の首絞めに、別れ際の半殺し、刃物での自殺の実践など、どれも失敗した。失敗する度に周りから人がいなくなった


自殺志願者や自殺願望のある人は いわゆる精神疾患・精神障害者に位置付けられ、何も問題を抱えていない世間にとっては 異常な人間なのであった


精神科に通うことは異常者の成すことであると決めつけ、死を逃げ道とすることを許容せず、生きているこの地獄を当たり前としている。


異常者はどちらだろうか



大学生になった。入学式。まだ慣れない、という面持ちの高校生上がりの男女が列にならって座っている。あの可愛い子は何学部の○○さんだ。あのイケメンは何学部の○○くんと言うらしい。 と話をしている。顔ばかりか。と感じたが第一印象は顔か身体でしか測ることはできないので当たり前である。

外に出るとサークルの勧誘でごった返していた

中にはヤリサーと噂されているサークルや、男女みんな仲良し!を売りにしたサークルなど、いかにもなサークルが紛れ込んでおり、大学に上がるとこんなにも性がわかりやすくなるのか、と少し感心した


キラキラした学生たちが数ヶ月後には行為に溢れた性生活を送るのかと考えるとおぞましい


こんなにも性に否定的であるが故に、私の生活に性は必要不可欠であった。脳内に常に置かれている性への感情。何も知らずに過ごしていたあの日に戻りたいものだ。


私は特に何かに所属する気など起きなかったが、友人の誘いであるサークルに入ることになった


新歓という名の飲み会が開催され、当たり前のように未成年諸共飲酒大会が始まった。


無理しなくていいよ 俺が飲んであげる

と隣をキープしてくるよくわからない男に始まり


酔ってる?と明らかに私よりも酔っている男に質問され


お手洗いに席を立ち、用を足し終え扉を開けると、大丈夫?と目をバキバキにした、あの日の変態と同じ人種の男が私の肩に手を回してきた


あー噂のない清廉潔白に見せかけたサークルですらもここまでの治安か。


そう思いつつその変態のみぞおちに肘打ちをし

吐瀉物が自分に降りかからないように全力でその場を立ち去ったあと私は店を出た



それからというもの飲み会に参加しないどころかサークルに出ることもなく、私の短い大学エンジョイ生活は結局性に支配され終了を迎えた



私は人よりも胸がでかい

自分で言うのもなんだが、触り心地の良いふにふにとした肌や色白さ、安産型の骨格、適度な痩せ型

正直、性的な目で見る場合に関しては他より勝っている


ボンキュッボン 理想体型そのものだ


それがとてつもなく不快であることは誰に悟られることもなく、男も女も皆、私の存在を軽んじた



超絶ビッチらしいよ

あの胸が自然?ありえない、男に揉んでもらって育ったんでしょ。(笑)

経験人数2桁でおさまんないらしい 

P活でトラブったことあるって噂あるよね 

avに出演してたって聞いたことある


こんなにもデタラメだらけの噂があっただろうか

私が人生で性行為をしたのは2回。初めての馬鹿馬鹿しい変態との行為と、好きな人なら気持ちがいいという友人の言葉を鵜呑みにした行為。それだけだ。


そんなこと、誰が説明するというのか

私は人生でまだ2度しか経験したことはありません

その2回とも何も感じないどころか不快でした


誰が信用するのだろうか


噂だけが独り歩きしていたある時、新歓の飲み会で私が肘打ちをした男の先輩が事の発端源であることが人づてに発覚した。


本当に馬鹿馬鹿しい変態というのは面倒な生き物である。そんなにも性に拘るのなら金を払えばいいのだ。金を払うのが嫌ならばそこら辺の女を捕まえて自分のものにしてしまえばいい。その能力すら持たず性に貪欲であることは恥じるべきだといい加減自覚してほしいものだ。



そんなことを言っていたある時、私はサークルの長からの連絡でしぶしぶサークル室へ行くことになった。

このままサークルに来ないつもりならば、退会届を書いて欲しいといわれたのである。そんな面倒なことを言われることがあるのか。サークルは。入らなければよかった。そう思いつつ重たい足取りでサークル室へと向かった。



サークル室には、例の変態とサークル長、それから何人かの先輩がいた。

てっきりサークル長だけがいると思っていた私は拍子抜けしてしまったが、まあサークル活動をする部屋なのだからサークルのメンバーがいておかしい事もないか。と特に何も考えずに椅子に座った。


いや、座ってしまったというべきだろうか。


部屋の鍵をかけられ、四方を塞がれたタイミングで私は最悪のシナリオがこれから行われるという事実に気がついた。1人のメンバーの手には既にカメラがあった。


私の人生の終わりを告げたこの日は私にとって一生の恥であり、死ぬ理由の第一であった。


何人もが私の上に覆い被さり、穢らわしい言葉が吐き捨てられ、痛みと不快感が全身を襲った


笑い声 蔑む声 常に私を押さえつける全て


何もかもが嫌になった


恐怖ではない 絶望である

抵抗などする余裕も無くなりただ放心状態で天井を見つめ続けていた


動画が流出し、全世界に私の全てが曝け出された後、学校はこの事実を把握し、サークルの解体と関わった人物全員の退学を命じた


私は 可哀想 の的になった

初めて私が共感を得られた日だった

私にとって世界で一番嫌な 行為 というものを

きちんと嫌なものとして処理してもらえたことが

本当に嬉しかった


しかし現実はそんな簡単に私の味方をしてはくれない

この動画をみた男子生徒からは前よりも酷く性的な目で見られることとなり、女子生徒の中でのカーストは底辺となった。友人達も家族も周りの全員が私を腫物扱いした。元々の噂のせいで、元々そういうやつであいつから誘ったらしい。どうせ元から汚れているのだから別に今更何も変わらないだろう。など好き勝手に言われた

名前が特定され住所が特定され、私は全世界の性犯罪者・性犯罪者予備軍の的にもなった

外に出られなくなり、自分を肯定できなくなり、生きている理由が本格的に無くなってしまった


死にたい女であっても、性のせいで死ぬことになるのは少し屈辱だった。どうにか生きてやろうと毎日大学へ行くようにした。蔑む声も可哀想だという目線ももうどうでもいい。元から私は異常者で可哀想なのだから。



大学2年になり、ある一人の男性と知り合った

その男性は女の子に興味がないのだという。


初めてだった。私を女の子としてみることがなく、私自身を見てくれていると感じたのは。


ずっとこの人と友達でいられるならどれほど良いか。友達という安心安全安定な関係を続けられるだろうか。


不安半分期待半分で私たちは共に時を過ごした。


ある日、大幅な遅延により終電を逃した時があった。彼は、自分の家はここから徒歩圏内なのでうちへ来るか?と言った。


いつもの私であればこのような男の誘いは頑なに受け入れないのだが、外に居続ける不安とこの男に対する安心感が後押しし、私は初めて男の家へ上がり込んだ


たわいもない話をし、お風呂を借り、別々のベットで眠りについた。


何もなかったんだ。何もなかったはずだった。


彼は女の子に興味を示さないのだから何も不安がることなどなかった。なかったはずだった。


私はいつもよりも早く眠りについた。

終電を逃したことや前日あまり眠れていなかったことなどが原因だと思っていたが、現実はあまりに残酷だった。


薬のせいだったのだ。彼は、私に薬の入った飲み物を差し出していた。

何も知らずにそれを飲み眠りについた私はまたも性犯罪の被害者となった。


なぜ私はこんなにも性の象徴のように取り扱われるのだろう。


誰も味方などしてはくれなかった。


自分から上がり込んだのだからある程度そういうことになってもいいという考えはあったんだろう。


襲われたい欲求があるのではないか


性欲の強い女だ




本当に心のない言葉というのはつきささるもので

私は誰にも理解されることのない人生を歩む以外に何も無くなってしまった


何もないというのは案外気楽なもので

気にする存在も 大切にしなければいけないものも

うまくいかない落ち込みも 本当に何もなけければ人生は楽になるのだ


ああこんなにもふわふわとした気持ちは初めてだ

このままずっと浮かんでいたい


鈍い音がして 鉄の味がした

心地よい痛みと今までの最悪な人生の回想がエンドロールのように流れている


ああ 私の人生は幸せで終わってくれた

本当に 死ぬのは難しい

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