評価が高い風土記の注釈書・解説書など
本稿では記紀に次いで古代史研究、とりわけ地方史や民俗の研究に欠かせない風土記について評価の高い注釈書・解説書類を取り上げてみます。
◇風土記研究について
風土記研究は地方史と言う性格上、長い間研究対象として取り上げられず、平安後期から鎌倉時代にかけて『日本書紀』や『万葉集』などの古典の研究に際し、卜部兼方の『釈日本紀』や仙覚の『万葉集註釈』にみられるように、注釈の傍証的資料として用いられるに過ぎませんでしたが、近世になると風土記伝本の探索が始まり、その転写や逸文の採集が行われ、風土記研究の基礎が出来上がります。しかし、『日本書紀』や『万葉集』などに比べると文章が難解で内容が断片的な事もあり、あまり歴史学的な研究が進んでいませんでした。ですが、近代になると注目される研究があらわれはじめます。本稿では主に専門家により評価が高い注釈書や研究書で活字化されており、著作権切れ且つ、国立国会図書館デジタルコレクションにログイン無しで閲覧・ダウンロード可能なものを取り上げます。(一部例外有)
なお、現在でも手に入りやすそうな市販の風土記でお勧めの書は過去の稿を参考にしてください。
・「記紀周辺の文献(国内)」
https://kakuyomu.jp/works/16816452219091770654/episodes/16816452219106837849
◆各国風土記注釈書
粟田寛による近世風土記研究の集大成。その後の風土記研究の基礎となりました。
・『標註古風土記』栗田寛 纂註 大日本図書 1899
https://dl.ndl.go.jp/ja/pid/993215
・『標註古風土記 出雲』栗田寛 著, 後藤蔵四郎 補註 大岡山書店 昭和6
https://dl.ndl.go.jp/ja/pid/1192498
・『標註古風土記 : 常陸』栗田寛 著, 後藤蔵四郎 補註 大岡山書店 昭和5
https://dl.ndl.go.jp/ja/pid/1192442
近世以来の風土記逸文の採集の集大成。伴信友・中山信名・開祖衛弁の風土記についての論考を載せています。
・『古風土記逸文』栗田寛 著 大岡山書店 昭和2
https://dl.ndl.go.jp/pid/1210472
後藤蔵四郎は出雲国風土記の伝写本と校訂本を日御碕本と国造家本に分類し、本文の校訂に訓点を付し、考証しています。
・『出雲国風土記考証』後藤蔵四郎 著 大岡山書店 大正15
https://dl.ndl.go.jp/pid/1020570
又、『肥前国豊後国風土記考証』は校訂本に訓読をほどこし、語義・地理について考証しています。はしがきの風土記貢進時の肥前・豊後の人口推測なども参考になります。
・『肥前国豊後国風土記考証』後藤蔵四郎 著 大岡山書店 昭和8
https://dl.ndl.go.jp/pid/1242695
井上通泰は以下の風土記では「甲」「乙」「甲乙以外」三種の風土記の存在を指摘し、甲類の成立を『日本書紀』以前、乙類を『日本書紀』以降、以後、漢風諡号制定以前の成立と分類し、その後の研究に影響を与えました。
・『肥前風土記新考』 井上通泰 巧人社 1935
https://dl.ndl.go.jp/ja/pid/1875239
・『豊後風土記新考』 井上通泰 巧人社 昭和10
https://dl.ndl.go.jp/ja/pid/1236018
・『西海道風土記逸文新考』 井上通泰 巧人社 1935
https://dl.ndl.go.jp/ja/pid/1880038
・『播磨風土記逸文新考』 井上通泰 巧人社 1931
https://dl.ndl.go.jp/pid/1875249
なお、『播磨風土記』に関しては最初の公刊標註本である敷田年治の『標註播磨風土記』が著名で、調べた限り活字化されていないようですが、上記の『播磨風土記逸文新考』に敷田氏の標註が引用されているのでそちらを参考にしてください。
◆民俗・言語学
前稿でもご紹介させて頂きました井上通泰・柳田國男の弟で言語学者・民俗学者の松岡静雄は播磨・常陸国風土記を民俗・言語学的視点から説話の解釈を試みています。
・『播磨風土記物語』 松岡静雄 刀江書院 昭和2
https://dl.ndl.go.jp/ja/pid/1043805
・『常陸風土記物語』 松岡静雄 刀江書院 昭和3
https://dl.ndl.go.jp/ja/pid/1177948
◆歴史学。風土記研究・批判
津田左右吉は風土記を机上の制作とみて史料的価値を批判しており、戦後の歴史学者に多大な影響を与えました。
・『古事記及日本書紀の研究』津田左右吉 岩波文庫 大正13
所収「附録 一 風土記の記載について」
https://dl.ndl.go.jp/ja/pid/1085727/1/152
なお、これに対して肥後和男の『風土記抄』は風土記の記事に歴史的事実を認めようとする立場ですが、デジタルコレクションで閲覧するには国立国会図書館の利用者登録を行う必要があります。
・『風土記抄』肥後和男 弘文堂書房 1933
https://dl.ndl.go.jp/ja/pid/1876514
岡田正之は漢籍との関係で風土記を論じました。
・『近江奈良朝の漢文学』岡田正之 養徳社 昭和21
所収「第三篇 文章 五 風土記」
https://dl.ndl.go.jp/pid/1131604/1/83
◆考古学
五風土記を考古学的な調査可能な事項を考古学的な検討を加え、歴史的に解釈しています。従来文献史の立場からあまり顧みられなかった『風土記』を考古学的な解読を行われています。
・『風土記の考古学 1-常陸国風土記』 茂木雅博(編) 同成社
・『風土記の考古学 2-播磨国風土記』 櫃本 誠一(編) 同成社
・『風土記の考古学 3-出雲国風土記』 山本清(編)同成社
・『風土記の考古学 4-豊後国風土記』 小田富士雄(編) 同成社
・『風土記の考古学 5-肥前国風土記』 小田富士雄(編) 同成社
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