万葉集の辞典・注釈書

 こちらでは古事記・日本書紀と並び上古の三代古典に数えられる万葉集について主な辞書・注釈書を取り上げてみます。


 万葉集最古の歌は仁徳天皇の皇后磐長姫の作として伝えられている歌(但し、一般的には後世の作と言われています)ですが、本書所収の歌は時代的なひろがりが大きいだけでなく、地域・階層・職業・年齢・性別など非常に多様であり、地域的には東歌や能登・越前などの民謡を収め、階層・職業の面では上は天皇から下は乞食・遊女に至るまで、あらゆる階層・職業にある者を老若男女の別なく採録しています。七、八世紀ごろの文芸・国語・思想・信仰・習俗・社会・経済等をうかがえる無二の文献であるにとどまらず、当時の為政者が多数登場する為に、政治史の史料としても貴重と言われています。


 万葉集には星の数ほど研究書がありますが、当方があまり詳しくないので最低限の紹介にとどめます。(苦笑)現在市販の解説書であるならば、令和年号の成立に関わられたと言う噂で名高い中西進氏の書が良いかと思います。個人的にお勧めの入門書は過去の稿でご紹介させて頂いたものを参考にしてください。



◆本文

〇『定本万葉集』佐佐木信綱, 武田祐吉 編

 最古の全文として知られている西本願寺本万葉集を底本とし、これに佐々木信綱氏の『校本万葉集』に使用した諸伝本に依り、当時の諸学者の説及び、万葉集研究で著名な佐々木氏・武田祐吉氏の所見を参考に校訂を加えられた内容です。


・『定本万葉集 第1 (巻1-4)』佐佐木信綱, 武田祐吉 編 岩波書店 昭15

https://dl.ndl.go.jp/pid/1687801

・『定本万葉集 第2 (巻5-8)』佐佐木信綱, 武田祐吉 編 岩波書店 昭和17

https://dl.ndl.go.jp/pid/1683841

・『定本万葉集 第3 (巻9-12)』佐佐木信綱, 武田祐吉 編 岩波書店 昭和17

https://dl.ndl.go.jp/pid/1683842

・『定本万葉集 第4 (巻13-16)』佐佐木信綱, 武田祐吉 編 岩波書店 昭和19

https://dl.ndl.go.jp/pid/1683840

・『定本万葉集 第5 (巻17-20)』佐佐木信綱, 武田祐吉 編 岩波書店 昭和23

https://dl.ndl.go.jp/pid/1127422



◆辞典

○『日本古語大辞典 : 続訓詁』松岡静雄

 柳田國男の弟で言語学者・民俗学者の松岡静雄による『古事記』『日本書紀』『萬葉集』に関する古語辞典。『萬葉集』に関しては訓読文と原文の他、参照と簡単な用語解説付きですが、一部用語の説明しかないので、語誌篇や、語誌篇では漏れた語句も載せる新編、他に下記の『万葉集辞典』、或いは注釈書類などと併用するのが良いかと思います。


・『日本古語大辞典 : 続訓詁』松岡静雄 編 刀江書院 昭4

https://dl.ndl.go.jp/pid/1176550/1/103

・『日本古語大辞典 [正] (語誌篇) 増補版』松岡静雄 編 刀江書院 1937

https://dl.ndl.go.jp/pid/1870643

・『新編日本古語辞典』松岡静雄 刀江書院 昭12

https://dl.ndl.go.jp/pid/1207239


〇『万葉集辞典』折口信夫

 『万葉集』研究で著名な民俗学者・折口信夫氏による辞典です。『万葉集』のみならず、古代の言葉や文物に関する辞典としても活用できそうです。


・『万葉集辞典』折口信夫 著 文会堂書店

https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/958698




◆国文学・民俗学

〇『古代研究 第2部 國文學篇』折口信夫

 本書の「萬葉びとの生活」「萬葉集の解題」「萬葉集のなり立ち」「萬葉集硏究」が該当します。


・『古代研究 第2部 國文學篇』折口信夫 著 大岡山書店 昭和4

https://dl.ndl.go.jp/pid/1449506/1/231


◆文化史

〇『万葉集の文化史的研究』西村真次

 文化人類学的方法により、万葉集の諸素材を文化史的に考察し、飛鳥寧楽時代の民衆生活史を明らかにするにとどまらず、人種学・工芸学・社会学・土俗学(後の民族あるいは民俗学)・史学の領域に亘り、分析しています。


・『万葉集の文化史的研究 増訂版』西村真次 東京堂

https://dl.ndl.go.jp/pid/1127442


◆歴史学

〇『万葉集大成』

 歴史社会篇は坂本太郎・家永三郎・石母田正・西郷信綱・井上光貞氏等、古代史・古典文学分野において、戦後を代表する研究者等による研究書です。


・『万葉集大成 第5巻 (歴史社会篇)』平凡社



◆考古学

〇『万葉考古学』上野誠

 考古学の視点で万葉集を読み解くと、どのような風景が見えてくるのか。都市や交通、境界をテーマとして、第一線の研究者が、万葉の世界に迫る画期的な試みています。


・『万葉考古学』上野誠 角川選書



◆図絵

○『万葉集品物図絵』鹿持雅澄かもちまさずみ

 近世の万葉学の集大成である『万葉集古義』の著者としても知られている鹿持雅澄による万葉植物の図絵。現代でも万葉植物の写真を収めた書籍がありますが、その先駆けと言っていいでしょう。


・『万葉集品物図絵』鹿持雅澄 写

https://dl.ndl.go.jp/pid/2605356




◆注釈書

 中世以降の注釈書の多くは古今書院の万葉集叢書 全十巻に纏まっているようです。以下にデジタルコレクションから閲覧できる著名な注釈書を幾つか取り上げます。新しい時代から古い時代に降ってご紹介させて頂いています。

 なお、歌の訓が江戸時代以前と現代では異なっているので注意してください。


〇『万葉集古義』(1827年以前~)鹿持藤原雅澄

 全歌の注釈、または総論及び枕詞解など、各論もあり、総合的な万葉集研究。独断的な見解など一部批判もみられるようですが、周到な調査、広範な知識に基づく歌理解は、近世までの『万葉集』の集大成という評価を得ています。


・『万葉集古義 首巻』鹿持雅澄 著, 国書刊行会 編 大観堂出版社 昭和18-19

https://dl.ndl.go.jp/pid/1127502

・『万葉集古義 一』藤原雅澄 撰 精文館 1932

https://dl.ndl.go.jp/pid/1883772

・『万葉集古義 二』藤原雅澄 撰 精文館 1932

https://dl.ndl.go.jp/pid/1883783

・『万葉集古義 三』藤原雅澄 撰 精文館 1932

https://dl.ndl.go.jp/pid/1883790

・『万葉集古義 四』藤原雅澄 撰 精文館 1932

https://dl.ndl.go.jp/pid/1883802

・『万葉集古義 五』藤原雅澄 撰 精文館 1932

https://dl.ndl.go.jp/pid/1883816

・『万葉集古義 六』藤原雅澄 撰 精文館 1932

https://dl.ndl.go.jp/pid/1883823

・『万葉集古義 七』藤原雅澄 撰 精文館 1932

https://dl.ndl.go.jp/pid/1883834

・『万葉集古義 八』藤原雅澄 撰 精文館 1932

https://dl.ndl.go.jp/pid/1883843

・『万葉集古義 九』藤原雅澄 撰 精文館 1932

https://dl.ndl.go.jp/pid/1883857

・『万葉集古義 十』藤原雅澄 撰 精文館 1932

https://dl.ndl.go.jp/pid/1883863

・『万葉集古義 十一』藤原雅澄 撰 精文館 1932

https://dl.ndl.go.jp/pid/1883872

・『万葉集古義 十二』藤原雅澄 撰 精文館 1932 (精文館版の索引)

https://dl.ndl.go.jp/pid/1883881





〇『万葉集略解』(1798)橘千蔭

 国学者・橘千蔭による著書。全歌の注釈で自身の説は少ないものの、契沖・賀茂真淵・本居宣長の説が引かれ、平易、簡便である為、広く流布しました。


・『万葉集略解 第1篇』橘千蔭 著, 名倉熈三郎 校 図書出版 明24-26

https://dl.ndl.go.jp/pid/874427

・『万葉集略解 第2篇』橘千蔭 著, 名倉熈三郎 校 図書出版 明24-26

https://dl.ndl.go.jp/pid/874428

・『万葉集略解 第3篇』橘千蔭 著, 名倉熈三郎 校 図書出版 明24-26

https://dl.ndl.go.jp/pid/874429

・『万葉集略解 第4篇』橘千蔭 著, 名倉熈三郎 校 図書出版 明24-26

https://dl.ndl.go.jp/pid/874430

・『万葉集略解 第5篇』橘千蔭 著, 名倉熈三郎 校 図書出版 明24-26

https://dl.ndl.go.jp/pid/874431

・『万葉集略解 第6篇』橘千蔭 著, 名倉熈三郎 校 図書出版 明24-26

https://dl.ndl.go.jp/pid/874432

・『万葉集略解 総目録』橘千蔭 著, 名倉熈三郎 校 図書出版 明24-26

https://dl.ndl.go.jp/pid/874433




〇『万葉考』(1760)賀茂真淵

 江戸時代、賀茂真淵による「大考」と呼ぶ総論、本文の注釈、及び「明記」からなります。「大考」では「ますらをぶり」を中心にした万葉論を展開し、のちの研究者に大きな影響を与えたと言われています。


・『賀茂真淵全集 巻一 増訂』賀茂百樹 増訂 吉川弘文館 昭和2

https://dl.ndl.go.jp/pid/1913062

・『賀茂真淵全集 巻二 増訂』賀茂百樹 増訂 吉川弘文館 昭和2

https://dl.ndl.go.jp/pid/1913072

・『賀茂真淵全集 巻三 増訂』賀茂百樹 増訂 吉川弘文館 昭和2

https://dl.ndl.go.jp/pid/1913084

・『賀茂真淵全集 巻四 増訂』賀茂百樹 増訂 吉川弘文館 昭和2

https://dl.ndl.go.jp/pid/1913093




○『万葉代匠記』(1687)契沖

 江戸時代の僧・契沖による文献学的な考証態度により、漢籍や仏典まで渉猟する緻密な注釈書です。


・『万葉集目録代匠記 目録』契沖 著, 木村正辞 校 早稲田大学出版部 明35-38

https://dl.ndl.go.jp/pid/874367

・『万葉集目録代匠記 1−2輯』契沖 著, 木村正辞 校 早稲田大学出版部 明35-38

https://dl.ndl.go.jp/pid/874368

・『万葉集目録代匠記 3−5輯』契沖 著, 木村正辞 校 早稲田大学出版部 明35-38

https://dl.ndl.go.jp/pid/874369

・『万葉集目録代匠記 6−8輯』契沖 著, 木村正辞 校 早稲田大学出版部 明35-38

https://dl.ndl.go.jp/pid/874370

・『万葉集目録代匠記 9−10輯』契沖 著, 木村正辞 校 早稲田大学出版部 明35-38

https://dl.ndl.go.jp/pid/874371

・『万葉集目録代匠記 11−12輯』契沖 著, 木村正辞 校 早稲田大学出版部 明35-38

https://dl.ndl.go.jp/pid/874372



〇『万葉集注釈(仙覚抄)』(1269)仙覚

 鎌倉時代、将軍頼経の命により『万葉集』を校合し、無点歌一五二首に「新点」と呼ばれる訓点を施した事でも知られている仙覚による注釈本。本文批評や訓読、注釈の面でも画期的な業績をあげています。『風土記』から五十六条の逸文と、そのうち五十三条の風土記原典からの引用があり、資料性に問題があるものの、『風土記』逸文研究にも必須の文献と言えます。


・『仙覚全集 (万葉集叢書 ; 第8輯)』佐佐木信綱 編 古今書院 大正15

https://dl.ndl.go.jp/pid/970584/1/16


〇『秘府本万葉集抄』藤原盛方

 平安末期、藤原盛方による独立の注釈書。

 以下の書は本文が活字ではないので、見づらいかも知れません。(活字版がありましたらお知らせください)


・『秘府本万葉集抄 (万葉集叢書 ; 第9輯)』 佐佐木信綱 編 古今書院 大正15

https://dl.ndl.go.jp/pid/970585




 上記以外にもデジタルコレクションでは佐々木信綱・久松潜一・武田祐吉など著名な研究者による戦前の著書を多数閲覧可能なので、興味をお持ちの方はご自分で検索して、それらを参考にしてください。

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