記紀周辺の書の注釈・研究書

 前回まで記紀と風土記・万葉集といったよく知られている上古の文献を取り上げましたが、本稿ではそれら以外で記紀と関りが深い、あるいは研究に欠かせない周辺の書に関する研究書などを取り上げます。重要なものに関しては、過去の稿でご紹介させて頂いた物をこちらでも再度掲載しています。


◇『続日本紀』

◆本文・注釈

〇『六国史3・4巻』 佐伯有義

 『続日本紀』は奈良時代の正史を伝えている貴重な文献にも拘わらず、記紀に比べると圧倒的に研究書が少ないです。近世までの注釈書で目ぼしいものは江戸時代末の村尾元融の注釈『続日本紀考証』ぐらいしか無いかと思いますが、この書で活字化されているものは見つけられませんでした。


 佐伯有義氏の『続日本紀』はかなり詳しい頭注があり、その殆どを『続日本紀考証』に依拠していますが、内容的にはやや古くなっており、頭注なので多くは望めませんが、ネットから無条件で読める詳細な注釈書としては現状これ位しか存在しません。


・『六国史 巻3 続日本紀. 巻上,下 増補』 佐伯有義 編 朝日新聞社 昭15

https://dl.ndl.go.jp/pid/1172835

・『六国史 巻4 続日本紀. 巻上,下 増補』 佐伯有義 編 朝日新聞社 昭15

https://dl.ndl.go.jp/pid/1172850



◆本文

〇『国史大系 続日本紀』経済雑誌社

 明暦刊本を原本とし、村尾玄幽著の続日本紀考証、岡本保孝著の続日本紀攷文、及び小中村校本を以て対校を加えたものを、秘閣所蔵卜部家本、尾張徳川家所蔵金沢文庫本等で更に校訂し、類聚国史、日本紀略、扶桑略記、類聚三代格をはじめ、参考諸書に照らして改訂増補したものです。


・『六国史 : 国史大系 続日本紀 再版』経済雑誌社 大正6

https://dl.ndl.go.jp/pid/950694


〇『続日本紀宣命 校本・総索引』北川和秀

 宣命体の詔の詳細なテキストです。宣命のみですが、上記の六国史や国史大系のテキストよりも詳しい訓点が記されており、語彙・万葉仮名・漢字のそれぞれの索引がついており、大変便利です。デジタルコレクションから閲覧するにはユーザー登録が必要となります。


・『続日本紀宣命 校本・総索引』北川和秀 吉川弘文館 1982.10

https://dl.ndl.go.jp/pid/12268745




◆現代語訳・注釈

〇『続日本紀』(全四巻)直木孝次郎

 本エッセイをご覧の方ならば言わずと知れた直木孝次郎氏による口語訳・注から成り立っており、恐らく『続日本紀』関連の書では最も注が充実していると思います。中古本も比較的入手しやすい部類ですが、ebooksでは電子書籍で購入出来るのが便利です。


・『続日本紀』(全四巻)直木孝次郎 他訳注 平凡社


〇『完訳注釈続日本紀』林陸朗

 続日本紀の文語体の書き下し文です。完訳とは言うものの、実際は文語体の書き下し文に止まっていますが、巻末の注が充実しており、発売当時までの研究成果をよく取り入れています。残念ながら、デジタルコレクションには1・2・4分冊しか無く、直木氏の続日本紀に比べ、中古市場などでも全巻揃えるのは難しいかも知れません。


・『完訳注釈続日本紀 第1分冊 (巻第一-巻第八) 』林陸朗 校注訓訳 現代思潮社

https://dl.ndl.go.jp/pid/12269138

・『完訳注釈続日本紀 第2分冊 (巻第九-巻第十五)』林陸朗 校注訓訳 現代思潮社

https://dl.ndl.go.jp/pid/12269137

・『完訳注釈続日本紀 第3分冊 (巻第十六-巻第二二)』林陸朗 校注訓訳 現代思潮社

・『完訳注釈続日本紀 第4分冊 (巻第二三-巻第二九)』林陸朗 校注訓訳 現代思潮社

https://dl.ndl.go.jp/pid/12270263

・『完訳注釈続日本紀 第5分冊 (巻第三十-巻第三五)』林陸朗 校注訓訳 現代思潮社

・『完訳注釈続日本紀 第6分冊 (巻第三六-巻第四十)』林陸朗 校注訓訳 現代思潮社




◇『先代旧事本紀』

◆本文・現代語訳・注釈書など

 鎌田純一氏の『先代旧事本紀の研究』(吉川弘文館)の「校本の部」と「研究の部」が最も知られていますが、今となっては入手困難かと思います。(当方は校本の部しか持っていません)。


 『先代旧事本紀』に関しては偽書である故なのか、歴史学者や国文学者といった専門家による研究書は殆どなく、市販の書は在野の方による研究が殆どで、神道家の書籍など信用ならない本が目につくのが現状です。(大野七三氏の旧事紀は原田常次氏のトンデモ説を載せているぐらいなので……それでも2000年代初頭位の時期は、鎌田氏の著書を購入するのも難しく、これ位しか旧事紀の注釈本が発売されていなかったので、当時はありがたかったがっていたは事実ですが。)


 しかし、近年になって日本文学博士の工藤浩・松本直樹・松本弘毅の各氏による校注・訳の『先代旧事本紀注釈』(花鳥社)が発売されましたが、17600円と高額なので、中々手を出しずらいかも知れません。(当方は運よく中古で購入できましたが、それでも1万数千円を超えていました……。)校訂本文、訓読文、校注と現代語訳と索引付きで便利ですが、校注が校異の説明中心なので入門者には適しません。只、『国造本紀』の校注には国造の⑴設置時期、⑵本拠地、⑶氏姓、⑷奉斎神社が掲載されており過去の旧事本紀関連の書には無い独特の形式を取っています。只、17600円払う価値があるかというと、研究者か余程のマニア(例えば「大夫」を過去の諸本や記紀では「まへつきみ」「まちきみ」などと訓む箇所を「だいぶ」と訓んでいるのを見つけて喜んでいる自分の様な輩)でもなければ、その額で他の研究書を複数購入した方が有意義かと個人的には思います。


 本文を別の書かデジタルコレクションの国史大系本で済ませるとしたら、注釈に関しては過去にご紹介させて頂いた『先代旧事本紀 現代語訳』(安本 美典・監修、 志村 裕子・翻訳 批評社)の方が充実していて便利かも知れません。只、翻訳の精度は当然専門家により訳された『先代旧事本紀注釈』に劣りますし、注に関しては『先代旧事本紀注釈』が日本文学ご専門の立場からの解釈に止まるのに対し、『先代旧事本紀 現代語訳』はある意味アカデミックな領域を超えた自由な立場から様々な解釈を試みているので、その


・『先代旧事本紀の研究「校本の部」』鎌田純一 吉川弘文館

・『先代旧事本紀注釈』工藤浩・松本直樹・松本弘毅 花鳥社

・『先代旧事本紀 現代語訳』安本 美典・監修、 志村 裕子・翻訳 批評社

・『国史大系 第7巻』経済雑誌社 編

https://dl.ndl.go.jp/pid/991097/1/98


 以下、最低限で恐縮ですが、研究書を幾つか取り上げてみます。


◆『先代旧事本紀』研究書

 鎌田純一氏の『先代旧事本紀の研究「研究の部」』(吉川弘文館)が有名ですが、現在入手困難かと思われます。確か安本美典氏の著書に鎌田氏や本居宣長等の過去の研究を纏めた著書がありましたが多分引っ越しの準備で本を大量処分した時に処分してしまったのか、書名を忘れました(マテ)。恐らく最新の研究本としては上記注釈と同じく工藤浩氏の『先代旧事本紀論 史書・神道の成立と受容』(花鳥社)がありますが、こちらも8800円と高価な上、品薄で中々手に入りません……というか読んだ事がありません。


 それ以前の纏まったものとしては、『歴史読本』(新人物往来社)2008年11月号に『先代旧事本紀』の成立に関する論考や物部氏(代表的な人物や十種神宝の伝承など)に関する論考。同書2008年12月号に『先代旧事本紀』の過去の研究史や「国造本紀」に関する史実性についてなどの論考があり、当時の時点での研究成果をある程度確認する事ができますが、今ではこれらを入手する事も難しいかも知れません。


・『先代旧事本紀の研究「研究の部」』鎌田純一 吉川弘文館

・『先代旧事本紀論 史書・神道の成立と受容』工藤浩 花鳥社

・『歴史読本』新人物往来社 2008年11月号

・『歴史読本』新人物往来社 2008年12月号


◆『国造本紀』研究

 偽書とされる『先代旧事本紀』の中でも巻十の『国造本紀』に関しては価値があると言われており、歴史学では主に『国造本紀』が注目されてきた経緯があります。以下の研究書がありますが、取り分け『国造本紀考』はベースとなる研究書なので必見です。

 又、ネットでみれるものとしては鈴木正信氏のサイト『日本古代氏族データベース』記載の「国造本紀のデータベース」も参考になります。


・『研究史国造』新野直吉 吉川弘文館

・「国造本紀における国造名」吉田晶(『日本古代国家成立史論』東京大学出版)

・『国造・県主関係史料集』高嶋 弘志 (著), 佐伯 有清 (編集) 近藤出版社


・『国造本紀考 訂正版 (存採叢書)』栗田寛 著 近藤活版所 1903 2版

https://dl.ndl.go.jp/pid/993511


・『日本古代氏族データベース』

https://m-suzuki.jimdofree.com/%E5%9B%BD%E9%80%A0%E3%83%87%E3%83%BC%E3%82%BF%E3%83%99%E3%83%BC%E3%82%B9/%E5%9B%BD%E9%80%A0%E6%9C%AC%E7%B4%80%E3%83%87%E3%83%BC%E3%82%BF%E3%83%99%E3%83%BC%E3%82%B9/


◆『先代旧事本紀』の批判

 沢山あるのですが、江戸時代には既に偽書であることが証明された為、近代になってからの批判(というか研究自体)が少ないです。江戸時代に批判論が盛んでしたが、活字化されたものでデジタルコレクションで閲覧できるものでしたら以下のものがあります。


 本居宣長の旧事紀批判は後世に多大な影響を与え、旧事紀に対する基本的な評価となり、現在でも受け継がれています。又、伊勢貞丈は旧事紀は偽書であると評しました。


・『古事記傳 1』著者本居宣長 撰, 倉野憲司 校訂 岩波書店 1940.8

https://dl.ndl.go.jp/pid/1904256/1/21

・『旧事本紀剥偽』伊勢貞丈

https://dl.ndl.go.jp/pid/2539212/1/1




◇『新撰姓氏録』

◆本文・研究書

○『新撰抄氏録の研究』佐伯有清

 本文篇及び研究篇が著名です。研究篇では田辺氏を古い渡来系氏族とする新撰姓氏録の記述を批判していますが、馬文化の移動から歴史的事実を指摘する三品彰英説に関しては過去の稿(笠原小杵を援助した上毛野氏は独立勢力だったのか? 武蔵国造の「反乱」論批判)で取り上げています。


・『新撰抄氏録の研究(本文篇)』佐伯有清 吉川弘文館

・『新撰抄氏録の研究(研究篇)』佐伯有清 吉川弘文館


〇『新撰姓氏録考証』栗田寛

 新撰姓氏録の研究では現在でも必ず取り上げられる等、古代氏族研究では欠かせない書です。


・『新撰姓氏録考証. 巻之1−10』栗田寛 著 吉川弘文館

https://www.dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/991614

・『新撰姓氏録考証. 巻之11−21』栗田寛 著 吉川弘文館

https://www.dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/991615


〇『新撰姓氏録と上代氏族史』太田亮

 新撰姓氏録の概説を学ぶのに最適な入門的な内容です。


・『新撰姓氏録と上代氏族史 (日本精神叢書 ; 48)』太田亮 内閣印刷局 昭和15

https://dl.ndl.go.jp/pid/1109727



◇上宮聖徳法王帝説

◆注釈・研究書

○『上宮聖徳法王帝説 注釈と研究』矢島泉・佐藤信・沖森卓也

 最も近年の注釈書としては本書があります。全文に渡る影印がカラーで掲載されており、校訂本文・訓読文・注釈・研究編で成り立っています。事項以外にも漢字にまで索引が付いており、便利です。研究篇では家永三郎氏の『上宮聖徳法王帝説の研究』「総論篇 文献学的研究篇」の研究も踏まえ、批判と新たな知見が加えられています。


・『上宮聖徳法王帝説 注釈と研究』矢島泉・佐藤信・沖森卓也 吉川弘文館



〇『上宮聖徳法王帝説の研究』家永三郎

 上宮聖徳法王帝説関連の研究書では最も著名と思われる家永三郎氏の著書です。「各論篇」「総論篇 文献学的研究篇」の二書があります。


 「各論篇」では本論で底本・本文・訓読・復原文及び正訓・釈義があり、年表・系図・地図といった資料が便利です。


 「総論篇 文献学的研究篇」の大きな特徴としては、上宮聖徳法王帝説を大きく次の五つの要素、即ち、A、法王の系譜。B、法王の行実に関する傳説記録。C、法王関係の古文及びその注釈。D、法王の行実及び関係史実に関する傳説記録。E、法王関係五天皇及び法王の御略歴の記録に分類し、如何なる性質の文献にして、如何なる事実の下に成立し、又、如何なる過程を経て結合されたか追及しており、成立過程を想定しました。


・『上宮聖徳法王帝説の研究 各論篇』家永三郎 三省堂

・『上宮聖徳法王帝説の研究 総論篇 文献学的研究篇』家永三郎 三省堂



〇『上宮聖徳法王帝説新註』

 古事類苑編纂所理事、大神宮史編修を務めた神道家の江見淸風の処女作。(名義の金子長吾は実兄。)江戸時代後期に書かれた狩谷 棭斎望之の『上宮聖徳法王帝説証注』でも尚備わない例証や、証注の内、信従し難いものが無きにしも非ざるを遺憾として作られたもので、引用書として85部、その内孫引きらしいものもありますが、聖徳太子傳私記、拾遺記、上宮太子菩薩傳などを含み、『証注』を補うところも少なくなく、伴信友、黒川春村の書入れの殆ど全文を引用紹介したのは学会に資する所が大きいと言います。但し、明治の新しい研究成果を参照にする事が乏しく、本書と関係のない漢籍仏典の文を引用羅列するあたり、注釈書としては古い型に属します。


・『上宮聖徳法王帝説新註』金子長吾 注 吉川半七 明34.9

https://dl.ndl.go.jp/pid/780769





◇懐風藻

◆翻訳・注釈書

 書籍としては風土記に次ぐ古い文献であり、本邦初の漢詩集で注釈書や解説書類は幾つかありますが、発行部数が少ないのか殆ど手に入りません。

 序文により上代日本文学の変遷の概要を確認することが出来ますし、大友皇子・大津皇子・河島皇子等の伝記は『日本書紀』以外の記述から得られる貴重な資料なので、(特に大津皇子の変について考察する上で重要な内容になっています)研究の発展を願っています。以下、当方所持の懐風藻の注釈書で現在でも何とか手に入りそうな書ですが、これら以外では小島憲之校注の『懐風藻 文華秀麗集 本朝文粋 日本古典文学大系69』(岩波書店)辺りならば図書館にあるかと思います。


・『懐風藻 全訳注』江口孝夫 講談社学術文庫

・『懐風藻 古代日本漢詩を詠む』辰巳正明 新典社


◆本文

〇『新撰名家詩集』所収『懐風藻』

 頭注の類が無く、本文のみです。


・『新撰名家詩集』塚本哲三 編 有朋堂書店

https://dl.ndl.go.jp/pid/977945/1/257


◆解説書

○『近江奈良朝の漢文学』岡田正之

 別稿でもご紹介させて頂いた岡田正之氏の著書ですが、懐風藻の解説書としても活用できます。


・『近江奈良朝の漢文学』岡田正之 養徳社 昭和21

https://dl.ndl.go.jp/pid/1131604/1/105


〇『記紀万葉の世界』川崎庸之

 題名通り基本的に記紀と万葉集の解説書ですが、懐風藻についても触れています。


・『記紀万葉の世界』川崎庸之 御茶の水書房 1952



◇高橋氏文

◆注釈書

○『高橋氏文考注』伴信友

 高橋氏の『墓記』を基に書かれたと言われており、古代氏族伝承を研究する為の貴重な資料であるにもかかわらず、過去に出版された関連書籍が少なく、あったとしても注釈の類を載せていないものが殆どであり、未だに昭和6年に発行された(執筆は江戸時代)伴信友の考注の方が圧倒的に詳しい為、高橋氏文の研究を行う場合、基本的にこの書を頼らざるを得ません。


・『高橋氏文考注』伴信友 著 大岡山書店 昭和6年

https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1175589



◇古語拾遺

◆注釈書

○『古語拾遺新講』飯田季治

 龍野照近『古語拾遺餘抄』、池邊眞棒『古語拾遺新註』、久保季茲『古語拾遺講義』、粟田寛『稜威男健いづのをたけび』など古語拾遺の注釈書の諸説を渉猟し、飯田季治の攻究した新考を加えた、当時の古語拾遺研究の集大成的な内容です。


・『古語拾遺新講』飯田季治 明文社 昭15

https://dl.ndl.go.jp/ja/pid/1685317


○『古語拾遺精義』溝口駒造

 序論は古語拾遺の歴史的価値、内容、斎部広成に対する非難への擁護、結語から成り、古い時代の研究や評価について知ることができます。

 又、本文・解読文・通釈の他、詳細な用語解説もあり、お勧めです。


・『古語拾遺精義』溝口駒造 著 中文館書店 昭和10

https://dl.ndl.go.jp/ja/pid/1233224


◆本文・翻訳

〇『古語拾遺』 加藤玄智

 現代語に翻訳されているので比較的手軽に読むことが出来ます。


・『古語拾遺』 加藤玄智 校訂 岩波文庫 1929.2

https://www.dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/3457563



◆古語拾遺の研究・批判

○『日本上代史研究』又は『津田左右吉全集2巻』所収「古語拾遺の研究」

 古語拾遺成立の経緯や、忌部氏の成り立ちについての説明があります。古語拾遺の神代の物語を記紀が編述せられたよりも後の造作であろうと推察しています。


・『日本上代史研究』津田左右吉 岩波書店 昭和5

https://dl.ndl.go.jp/ja/pid/1041707/1/169



◇家伝上

◆本文

 中臣(藤原)鎌足の伝記と鎌足の子、貞恵の伝記を記したもの。藤原鎌足の伝記の部分には『日本書紀』には見えない重要な記事が多く記載されています。但し、家伝の作者である恵美押勝が鎌足の曽孫であることにより、鎌足の事績を誇張して書いた疑いもあります。


・『群書類従 第四輯』塙保己一 編 経済雑誌社 明治31

https://dl.ndl.go.jp/ja/pid/1879458/1/179


 横田健一氏の『白鳳天平の世界』では、大織冠伝と日本書紀のそれぞれの内容を並べて記載している為、本文を比較するのに便利です。


・『白鳳天平の世界 (創元学術双書)』横田健一 創元社 1973



◇神名張

〇『神名張考証』

 『延喜式』の巻九と十にあたる。神祇官が管理する諸国の三千百三十二座の神名を書きならべたもの。畿内の神々の数が全国の神々の五分の一にすぎないことは平安時代に畿内中心の祭祀が崩れはじめていたことを物語るらしいです。十世紀の主要な神社の分布を確実に伝える者として重要な資料と言われています。


・『伴信友全集 第1 (国書刊行会刊行書)』国書刊行会 明治40

https://dl.ndl.go.jp/ja/pid/991312



◇寺院縁起 

◆諸寺縁起

 中でも『大安寺伽藍縁起幷流記資財帳』の評価が高く、百済大寺、高市大寺、大管大寺造営に関わる記事は『日本書紀』よりもかなり詳しいですが、それは大安寺に伝えられて信頼できる記録に基づいてつくられたとみてよく、また寺院の財産の記録が奈良時代における寺院経済の一例を伝えるものとして貴重であると言われています。


 『元興寺伽藍縁起幷流記資財帳』もかつては所謂「辛亥の変説」の根拠とされたり、『日本書紀』の成り立ちを考える資料として貴重とされていましたが、冒頭部分に馬屋戸豊耳聡皇子作と記されていること等から、太子信仰が盛り上がった平安末期に記された偽書とみる説があります。


 『四天王寺御手印縁起』は丁未の乱後、四天王寺が物部氏から摂取した所領や奴婢について詳細な内容が書かれており、丁未の乱後の処分についての考察をする際に参考になります。以下はそれらの縁起を纏めて閲覧できます。


・『大日本仏教全書 118』仏書刊行会 明治45-大正11

https://dl.ndl.go.jp/pid/952822/1/2


◆研究

 『元興寺伽藍縁起幷流記資財帳』の数々の不審な記事を取り上げ、平安末期の成立の偽書と批判する吉田一彦氏の研究です。


・「元興寺伽藍縁起并流記資財帳の研究」名古屋市立大学研究紀要 15 2003年 吉田一彦

https://ncu.repo.nii.ac.jp/?action=repository_uri&item_id=1255&file_id=25&file_no=1

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