史料・研究書解題。専門家から高評価の注釈・研究書(必見)

本格的な研究をしたい方へ。評価が高い記紀の注釈書・個人的お勧めの解説書・辞典(事典)など

 本稿では個人的にお勧めの市販の書の他、現代の記紀の注釈書類にも使用され、引用されている先代の注釈書や研究書などで専門家の間でも評価が高い物を取り上げていきます。その中でもなるべく活字化されているもので、デジタルコレクションからダウンロード可能なもの(一部ユーザー登録が必要なものもあります)はURLを記載しましたので、宜しければ参考にしてください。


 なお、本稿は近い時代から古い時代に降っていく形をとっています。全てを読むのは難しいかと思いますが、後世の文献程前代の研究を引き継いでいる傾向にあるので、『日本書紀通釈』のような時代的には比較的新しい物から参考にして、もっと詳しく調べたい場合や校異を確認したい場合などに古い文献にあたると効率的かと思います。又、周辺の書籍に関しては次稿以降に紹介致します。



◇令和~昭和

 注釈書・解説書の詳細は省きます。過去の稿でも取り上げたものに関してはそちらを参考にしてください。


〇記紀の注釈書・解説書

●日本文学の専門家によるもの

・『新釈全訳 日本書紀 上巻(巻第一~巻第七)』神野志隆光 金沢英之 福田武史 三上喜孝・著 講談社

・『古事記注釈』(全八巻)西郷信綱 ちくま学芸文庫

・『日本古典文学大系 〈1〉古事記祝詞』倉野 憲司 , 武田 祐吉  岩波書店


●歴史学の専門家によるもの

・『日本書紀』(全五巻) 井上光貞・大野晋・坂本太郎・家永三郎 校注 岩波文庫

・『日本書紀』(上下全二巻)監訳者・井上光貞 訳者・川副武胤 佐伯有清 笹山晴生 中公文庫


○解説書

・『日本書紀の世界』山田英雄 講談社学術文庫

・『六国史』坂本太郎 吉川弘文館

・『古事記研究』西郷信綱 未來社

・『日本書紀成立論序説』横田健一 著 塙書房

・『日本古代文学 : 古代の超克』西郷信綱 著 中央公論社

・『古事記の研究』川副武胤 著 至文堂

・『記紀万葉の世界』川崎庸之 御茶の水書房


〇昭和初期の注釈書

●『六国史 巻1・2』佐伯有義

 寛文九年版の日本書紀を底本に、諸本と校合した本文に傍訓を示し、要を得た頭注を附しています。


・『六国史 巻1 日本書紀. 巻上,下 増補』佐伯有義 編 朝日新聞社 昭15

https://dl.ndl.go.jp/pid/1172831

・『六国史 巻2 日本書紀. 巻上,下 増補』佐伯有義 編 朝日新聞社 昭15

https://dl.ndl.go.jp/pid/1172847



○古代史の入門書

 色々と初心者向けの解説書や事典をお出しになられている武光誠氏の著書。近年は首を傾げざるを得ないような内容の著書ばかりなのですが、最近のものよりも多くの参考文献を確認出来るこちらの書の方が評価できます。入門者には若干難しいかもしれませんが、以下の書は歴史学を勉強する学生向けに書かれている為、参考になる内容が多いです。


・『古代史入門ハンドブック[第二版]』武光誠 雄山閣



〇古事記の入門書

 以下は山田孝雄の文部省の教育研究会における講演の筆録。本論四稿と、附録として古事記序文と作文大體抄出とを収めています。本論では第1項から3項までは、古事記序文の講述であり、第4項は古事記を読解する上の諸注意や、古事記の重要事項についての説明となっています。

 入門書との事ですが、恥ずかしながら本書を通して初めて知った内容(例えば本文注に「上」が記されているところは声を上げて読み、「去」と書かれている場所は尻下がりに読む事など、現代の注釈書では解説されておらず、知りませんでした。)も多く、参考になります。


・『古事記概説』山田孝雄 中央公論社 昭15

https://dl.ndl.go.jp/pid/1047104



○史料

 古い書籍ですが、他の史料集では省かれていそうな神代や神武東征の記事も一応掲載されており、時代の流れで重要かと思われる最低限の史料は掲載されています。但し、解説の内容も今となっては古い見解も散見するので注意が必要です。


・『史料による日本の歩み 古代編』 編集者代表 児玉幸田 吉川弘文館



〇古事記事典

 書店で見かけるような入門者向けの事典や解説書は正直イマイチな内容のものが多いですが、尾畑喜一郎氏による『古事記事典』は入門者から上級者まで使えそうな内容で充実しています。概説や語句解説、テキスト以外にも器物類の解説、社寺一覧や宮都・行宮・離宮一覧・陵墓一覧、神人名系譜、年表、官職一覧、地理案内、記紀の訓中一覧の他、注釈書・研究書一覧など、記載内容が豊富でおススメです。


・『古事記事典』尾畑喜一郎 桜風社



〇古事記大成

 戦後十年程の各分野における専門家による古事記研究の集大成。当方が所持しているものは以下になりますが、特に4巻は井上光貞氏の「帝紀からみた葛城氏」が載っている為、この巻だけでも読む価値はあります。まぁ同書の林家辰三郎氏の論文は今となってはトンデモが含まれている為、スルーした方が良いかも知れませんが……。


 1巻の研究史篇は解題の章で、研究史において、過去にどのような書が読まれ、評価が高いのか知る事が出来ます。これを参考にして、古いものに関しては多くの書がデジタルコレクションで閲覧できるもので便利です。


・『古事記大成 第1巻 研究史編』平凡社

・『古事記大成 第2巻 文学編』平凡社

・『古事記大成 第4巻 歴史・考古編』平凡社

・『古事記大成 第5巻 神話民俗編』平凡社



〇古代氏族研究(歴史学・考古学)

 雄山閣の「日本古代氏族研究叢書」シリーズが詳しいですが何故か大伴氏や葛城氏が発売されていません。『萬葉集大成 第5巻 歴史社会篇』所収「大伴家の歴史」と『古代氏族の系譜』は主に大伴氏、『日本古代氏族伝承の研究』では武内宿禰系の同族と蘇我氏について詳しい分析があります。


 個人的にお勧めは以下となりますが、特に「日本古代氏族研究叢書」シリーズの『物部氏の研究』による篠川賢氏の主張を批判なさっている平林章仁氏の『蘇我氏の研究』を強くお勧めします。なお、古代氏族研究に欠かせない『新撰抄氏録』関連の研究書は別稿で紹介予定です。


・『蘇我氏の研究(日本古代氏族研究叢書)』平林章仁 雄山閣

・『物部氏の研究(日本古代氏族研究叢書)』篠川賢 雄山閣

・『大神氏の研究(日本古代氏族研究叢書)』鈴木正信 雄山閣

・『阿倍氏の研究(日本古代氏族研究叢書)』大橋信弥 雄山閣

・『大伴氏の伝承 旅人・家持への系譜』菅野雅夫 桜楓社

・『古代氏族の系譜』溝口睦子 吉川弘文館

・『萬葉集大成 第5巻 歴史社会篇』平凡社

 所収「大伴家の歴史」藤間生大

・『日本古代氏族伝承の研究』日野昭 永田文晶堂

・『葛城と古代国家』門脇禎二 講談社学術文庫

・『謎の古代豪族 葛城氏』平林章二 祥伝新書

・『古代豪族葛城氏と大古墳』小笠原好彦 吉川弘文館




〇古代氏族研究(民俗学)

 民俗学者・谷川健一氏による主に物部氏の研究。前出の『物部氏の研究』と読み比べれば一目瞭然ですが、神社伝承や先代旧事本紀を利用する研究手法は歴史学のそれとは一線を画するので、歴史学の常識と認識の差を留意する必要はあります。


・『白鳥伝説』谷川健一 集英社

・『青銅の神の足跡』谷川健一 集英社

・『四天王寺の鷹 謎の秦氏と物部氏を追って』谷川健一 河出書房新社



〇伝記

 氏族研究ではなく、記紀に登場する人物について書かれた伝記として代表的なものは吉川弘文館の人物叢書シリーズに含まれています。上古の人物では以下の人物が取り上げられています。(以下出版順)


・『蘇我蝦夷・入鹿』門脇禎二 吉川弘文館

・『聖徳太子』坂本太郎 吉川弘文館

・『日本武尊』上田正昭 吉川弘文館

・『秦河勝』井上満郎 吉川弘文館

・『継体天皇』篠川賢 吉川弘文館


 これらの中でも坂本氏の『聖徳太子』における憲法十七条に関する津田左右吉説の批判や、上田氏の『日本武尊』の建部に関する論考などが記紀研究の際によく取り上げられています。



〇古代氏族辞典

 平野 邦雄・坂本 太郎(監修)の『日本古代氏族人名辞典』を所持していますが、内容的には岩波日本書紀の注程度です。評判が良く無料で読める物としては太田亮の『姓氏家系大辞典』があげられます。


・『日本古代氏族人名辞典』平野 邦雄・坂本 太郎(監修) 吉川弘文館


・『姓氏家系大辞典 第1巻』太田亮 姓氏家系大辞典刊行会 昭和17-19(ア~オ行)

https://dl.ndl.go.jp/pid/1130845

・『姓氏家系大辞典 第2巻』太田亮 姓氏家系大辞典刊行会 昭和17-19(オ~コ行)

https://dl.ndl.go.jp/pid/1130938

・『姓氏家系大辞典 第3巻』太田亮 姓氏家系大辞典刊行会 昭和17-19(コ~タ行)

https://dl.ndl.go.jp/pid/1131019

・『姓氏家系大辞典 第4巻』太田亮 姓氏家系大辞典刊行会 昭和17-19(タ~ニ行)

https://dl.ndl.go.jp/pid/1123910

・『姓氏家系大辞典 第5巻』太田亮 姓氏家系大辞典刊行会 昭和17-19(ヌ~マ行)

https://dl.ndl.go.jp/pid/1123956

・『姓氏家系大辞典 第6巻』太田亮 姓氏家系大辞典刊行会 昭和17-19(マ~ワ行)

https://dl.ndl.go.jp/pid/1123985



カバネ研究

 以下の書は部・氏・家・カバネ・臣・公・別・連・直・造・首・史、それに地方の制度まで幅広く上代の社会組織について説明があります。カバネ研究の出発点である細井貞雄の『姓序考』や『古事類苑』姓名部により集められたカバネに関する重要な史料の整理を行い、氏族の祖先系譜とカバネが深く関わっていることを示しています。


・『日本上代に於ける社会組織の研究』太田亮 磯部甲陽堂 昭和4

https://dl.ndl.go.jp/pid/1176567



○帝紀の研究

 文献学的に形態分析を試みた武田祐吉の書。記紀の元になった資料には『帝紀』と『旧辞』があり、『帝紀』には天皇の続柄、御名、皇居と治天下、崩御の年月日、山陵、皇子・皇女の事績、事績の簡単な記事を含むと主張し、後の井上光貞の「帝紀からみた葛城氏」のような帝紀研究に影響を与えました。


・『古事記研究 第1 (帝紀攷)』武田祐吉 青磁社 昭和19

https://dl.ndl.go.jp/pid/1041639




〇語句の辞典

 『日本古語大辞典 :続訓詁』は井上通泰・柳田國男の弟で言語学者・民俗学者の松岡静雄による『古事記』『日本書紀』『萬葉集』に関する古語辞典。『古事記伝』など過去の注釈書を批判する内容も多く、参考になります。現代の注釈書による注の方が詳しいですが、無料で閲覧できるのは嬉しいです。又、津田左右吉、山田孝雄、久松潜一、折口信夫、島崎藤村等当時の幅広い層の研究者・文学者による紹介・推薦・批評付きです。語誌篇は五十音順で検索するのに便利です。『新編日本古語辞典』は語誌篇を一般向けにコンパクトにしたものですが、語誌篇で漏れた用語も取り扱っている為、語誌篇とともにダウンロードしておくと便利です。


・『日本古語大辞典 : 続訓詁』松岡静雄 編 刀江書院 昭4

https://dl.ndl.go.jp/pid/1176550

・『日本古語大辞典 [正] (語誌篇) 増補版』松岡静雄 編 刀江書院 1937

https://dl.ndl.go.jp/pid/1870643

・『新編日本古語辞典』松岡静雄 刀江書院 昭12

https://dl.ndl.go.jp/pid/1207239




○文学

 憲法17条の研究で著名な岡田正之氏の著書で、讖緯説と関連付けた説はよく知られています。


・『近江奈良朝の漢文学』 岡田正之 養徳社 昭和21

https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1131604


 哲学者で文化史家・日本思想史家としても著名な和辻哲郎氏による著書。第三章では『古事記』の芸術価値観を説き、記紀の文学的研究を本格化させました。また、発掘された青銅器の種類により文化圏を分類したことで、考古学にも影響を与えていた時期がありました。仏教文化の影響を受けない日本古代文化の真相を究明するのが本書の目的ですが、その資料解釈の精密、その学的感覚の清新、その思案の明晰、その敍述の芸術的等、芸術的魅力と学的魅力に富む好書と評価されています。


・『新稿日本古代文化』和辻哲郎 岩波書店 1951

https://dl.ndl.go.jp/pid/2983658


 尾畑喜一郎氏は伝承の背後に古代劇的なものを想定していて示唆に富みます。伝承に関する論考も多く含みます。


・『古代文学序説 ―記紀と古代<芸能=劇>―』尾畑喜一郎 桜楓社



〇歌謡

 歌謡研究の先鞭としては明治31年、大和田建樹による『日本歌謡類聚』が近代歌謡研究に先鞭をつけた書として名高いですが、昭和3年~4年、高野辰之は『日本歌謡集成』で『日本歌謡類聚』を質量ともに遥かに上回り、日本歌謡研究の本格的な出発点として位置づけられており、現在でも日本歌謡研究にとって重要な基本図書になっています。


・『日本歌謡集成 巻一』高野辰之 東京堂 昭和17

https://dl.ndl.go.jp/pid/1883674


 前述書よりも詳しいものとしては、かつて記紀歌謡の注釈書としては最も信頼に値すると言われた相磯貞三の『記紀歌謡新解』を補足改訂した『記紀歌謡全註解』が上げられ、歌謡の注釈、成立事情や物語の関係などを詳細に考察しています。

 なお、本書をデジタルコレクションで閲覧するには利用者登録を行い個人送信サービスを利用する必要があります。


・『記紀歌謡全註解』相磯貞三 有精堂出版 1962

https://dl.ndl.go.jp/pid/1346349


〇歌謡の研究

 高木市之助の『吉野の鮎』は記紀の歌謡及び研究論文を集めたもので、これらの論文は著者が西欧の文芸論を資として構想した斬新な文芸理論と、周到な調査作業と、俊敏な文芸的感覚との協同の下になったもので、記紀歌謡は著者によって新しい解釈が下され、上代文学研究の領域に一生面を拓いたと言われています。但し、戦後に英雄時代論に関しては厳しく批判されました。


・『吉野の鮎』高木市之助 岩波書店 1941



〇律令制度・官制・司法制度

 古代日本の律令制度が唐の制度に習った事は言うまでもなく、中国の法家的な強権による厳罰主義と儒教的な人民教化の徳治主義とが、強く認められ、また、犯罪と刑罰に関する規定は殆ど律の中に収められていますが、律の内容は唐律とあまり相違なく、その点は令の場合より甚だしく、日本固有の法は殆ど伺われませんが、治部省に解部を置いて、氏姓を裁定させている事や、量刑が八逆以外の罪に対して、一般的に唐制よりも軽くなっていること等、相違点が無い訳ではないようです。以下、律令に関する滝川政次郎氏の著書です。日本律令・官制の経過に関する考証などを行っています。


・『律令の研究』滝川政次郎 刀江書院 昭和6

https://dl.ndl.go.jp/pid/1269856

・『日本法制史研究』滝川政次郎 著 有斐閣 1941

https://dl.ndl.go.jp/pid/1269827



〇考古学

 余り詳しくないのですが、記紀と関連する時代の弥生から古墳時代にかけての概説書や個人的にお勧めの書では以下の物が挙げられます。特に騎馬民族説批判の決定版とでも言うべき佐原氏の著書はお勧めです。


・『日本考古学概説』小林行雄 創元社

・『考古学入門』森浩一 保育社

・『日本考古学概論』斎藤忠 吉川弘文館

・『古代の技術』小林行雄 檀書房

・『大場磐雄著作集 第5巻  古典と考古学』雄山閣出版

・『考古学と古代史のあいだ』白石太一郎 ちくま学芸文庫

・『騎馬民族は来た!? 来ない!?』江上波夫・佐原真 小学館

・『騎馬民族は来なかった』佐原真 NHKブックス

・『日本歴史考古学を学ぶ(上)政治・経済・生活の諸相』坂詰秀一・森郁夫 編 有斐閣選書

・『日本歴史考古学を学ぶ(中)宗教の諸相』坂詰秀一・森郁夫 編 有斐閣選書

・『日本歴史考古学を学ぶ(下)生産の諸相』坂詰秀一・森郁夫 編 有斐閣選書

・『歴史考古学大辞典』小野 正敏 , 舘野 和己, 田辺 征夫 , 佐藤 信  編 吉川弘文館


 以下、群馬県白石古墳群の調査により前方後円墳の前方部の変化により古墳時代を前期・中期・後期の三時期に区分したことが評価されている後藤守一の書です。前述の『古事記大成 第4巻 歴史・考古編』にも後藤守一氏の論文があります。



・『古事記大成 第4巻 歴史・考古編』平凡社

所収「古事記に見えた生活文化」後藤守一

・『日本古代文化研究』後藤守一 河出書房 昭和17

https://dl.ndl.go.jp/pid/1041662

・『日本歴史考古学』後藤守一 四海書房 昭12

https://dl.ndl.go.jp/pid/1231555

・『日本考古学』後藤守一 四海書房 昭和2

https://dl.ndl.go.jp/pid/1191669



〇民俗学

『古事記の民俗学的考察』は書名の示す如く古事記神話の民俗学的研究ですが、神話学や史学の学説及び研究成果を取り入れています。

 古事記神話全体を民俗学的に研究した初めての書で該当研究を推進せしめる上に貢献することが大きかったそうです。


・『古事記の民俗学的考察』竹野長次 著 早稲田大学出版部, 1950

https://dl.ndl.go.jp/pid/1161933


 折口信夫の『古代研究』の民俗学篇は古代信仰や民間伝承を扱い、国文学篇は民間信仰や行事を基盤として、文学の発生及び萬葉集歌の民俗形成などについて述べる他、古事記に関連した初見も窺えます。


 全てを神事に結合して説く偏向、客観的論証が不十分である事等が指摘されていますが、古代文学研究領域に民俗学を導入し、この後の研究の道を拓き、著者の豊かな指摘直観力によって、古代生活の再発見に努めた業績が評価されています。


・『古代研究 第1部 第1 民俗學篇』折口信夫 大岡山書店 昭和4

https://dl.ndl.go.jp/pid/1449488

・『古代研究 第1部 第2 民俗學篇』折口信夫 大岡山書店 昭和5

https://dl.ndl.go.jp/pid/1449498

・『古代研究 第2部 國文學篇』折口信夫 著 大岡山書店 昭和4

https://dl.ndl.go.jp/pid/1449506



 柳田国男は『妹の力』所載の「稗田阿礼」に阿礼の女性説に清新な見解を示していますが、また民間伝承の説話や習俗に示した卓抜な理解は、古代文献に示唆することが多大であったと評されています。但し、現在の研究においては女性に舎人の例が無かった事などから、稗田阿礼女性説は否定的にみられています。


・『妹の力 (創元選書 ; 55)』柳田国男 創元社 昭和17 4刷

https://dl.ndl.go.jp/pid/1460128/1/201


 



〇神話学

 この分野で昭和以降でご活躍なさった方では松村武雄、三品彰英、大林太良、吉田敦彦など各氏が著名ですが、私の場合とりわけ松前健氏の影響が大きかったと思います。


 『日本の神話と古代史』では高句麗の神話との類似性から日本神話が騎馬民族の影響をうけたものとする説を、この程度の類似は世界各地で見られることだと批判し、『日本の神々』では天照大神が元は尾張氏が信仰する「アマテル」神が原型であるという説を唱えました。


・『日本の神話と古代史』松前健 大和書房

・『日本の神々』松前健 中公新書




◇大正時代

○本文・注釈書

●『古事記新講』次田潤


 『古事記』全体を二百数十段に分け、訓読文、語訳、評を施し、索引、本文を巻末に収めています。訓は『古事記伝』『訂正古訓』に拠りつつ、当時迄の諸説に参照改訂を加え、本文は『訂正古訓』を底本に諸本を参照改訂を施しています。評においては明治以降に興った考古学・民俗学・民族学等の諸学の成果を盛り込み、『古事記』の文化的意義を明らかにしようとした点で、本書は近代的な最初の注釈とされています。大正13年に初版後、大正15年に増訂、更に昭和15年に改修と版を重ねました。内容が古いとは言え、現在の注釈書でこれ程充実したものはなく、お勧めの書です。


・『古事記新講 改修5版』次田潤 明治書院 1943

https://dl.ndl.go.jp/ja/pid/1920824



●『国史大系 日本書紀』黒坂勝美

 寛文の刊本を原本とし、小中村清矩が内藤広前校本によって異同を注したものを、日本書紀通証、書紀集解など二三の書とを以て校訂を加え、明治期に国史大系第一巻として刊行されたものを、大正期に日本書紀通釈の他、北野神社本、醍醐三宝院本など諸本を就いて更に校正を施し、改訂増補を加えたものです。

 研究書等で本文を引用する際、国史大系が利用されている場合が多いです。


・『六国史 : 国史大系 日本書紀 再版』経済雑誌社 大正6

https://dl.ndl.go.jp/pid/950693



○記紀研究

 明治時代後半から那珂通世、菅政友、喜田貞吉などによって、主に記紀の紀年を中心とする批判が行われ始めましたが、大正時代になると津田左右吉はそれを更に推し進めて、記紀批判を行いました。今となっては首を傾げざるを得ない見解も多いですが、歴史学者に与えた影響は大きく、現代でも『古事記及日本書紀の研究』と『神代史の研究』は古代史研究者の間では常識となっている著書なので、好むと好まざるに拘わらず、内容を知る必要はあります。


・『古事記及び日本書紀の新研究』津田左右吉 岩波文庫 大正8

https://dl.ndl.go.jp/ja/pid/1918863

 近代合理主義的に立脚した文献学的史学とも言うべき立場から、記紀の研究を試み、両書の本文を精密に分析批判しています。


・『神代史の新しい研究』津田左右吉 岩波書店 大正2

https://dl.ndl.go.jp/pid/950664

 記紀神代史の主要なるものについて考察し、その結果、潤色、性質及び精神、更にその述作者及び作られた年代などについて述べられています。


・『津田左右吉全集 別巻 第1 』岩波書店 1966

https://dl.ndl.go.jp/pid/2941381

 昭和期に上記の2冊を纏め『神代史の新しい研究』に附録を加えたもの。


・『古事記及日本書紀の研究』津田左右吉 岩波文庫 大正13

https://dl.ndl.go.jp/ja/pid/1085727

 『古事記及び日本書紀の新研究』の大幅な改訂版。間違えやすいですが「新」が付いてない方が新しいのでご注意を。


・『神代史の研究』津田左右吉 岩波書店 大正13

https://dl.ndl.go.jp/pid/978726

 『神代史の新しい研究』の改訂版というより続編とみなすもの。


・『日本上代史研究』津田左右吉 岩波書店 昭和5

https://dl.ndl.go.jp/ja/pid/1041707

 『古事記及日本書紀の研究』で取り扱った時代後の応神~天智までの時代。部・伴造の研究等。


・『上代日本の社会及び思想』津田左右吉 岩波書店 昭和8

https://dl.ndl.go.jp/ja/pid/1041708

 主に書紀の書き方や訓、大化の改新の研究、大化の改新以降の社会制度など。



○古代宮都研究

 文献史家でありながら、考古学的資料を自己の論に組み込んだ手法が評価されている喜田貞吉による古代の都城の歴史を最初に概観したものです。


・『帝都 (歴史講座)』喜田貞吉 日本学術普及会 大正4

https://dl.ndl.go.jp/pid/953288


 尚、昭和の研究では前述の『日本歴史考古学を学ぶ(上)政治・経済・生活の諸相』坂詰秀一・森郁夫 編(有斐閣選書)にも古代の都城に関する内容が含まれます。



○地名辞書

 「日本地名辞書」とも呼ばれています。地名由来や寺社の縁起について記紀をはじめとした上代の文献を引用・解説をしています。大正~昭和の学者にはよく使用されており、自分の知る限りでは津田左右吉・尾畑喜一郎・谷川健一の各氏等の他、岩波日本書紀でも引用されていました。


・『大日本地名辞書 上巻 二版』吉田東伍 著 冨山房 1907/10/17

https://dl.ndl.go.jp/pid/2937057

・『大日本地名辞書 中巻 二版』吉田東伍 著 冨山房 1907/10/17

https://dl.ndl.go.jp/pid/2937058

・『大日本地名辞書 下巻 二版』吉田東伍 著 冨山房 1907/10/17

https://dl.ndl.go.jp/pid/2937059



〇考古学

 高浜健自は文学博士ながら考古学会を主催し、古墳出土遺物の研究を意欲的に行い、古墳文化の性格について多くの業績を残しました。


・『古墳と上代文化 (文化叢書 ; 第9編)』高橋健自 国史講習会 大正11

https://dl.ndl.go.jp/pid/969817

・『鏡と剣と玉』高橋健自 富山房 明44.7

https://dl.ndl.go.jp/pid/768795


 浜田耕作はイギリスで考古学を学び、京都大学に日本最初の考古学科を開設しました。以下の書はヨーロッパの考古学の研究法を広めました。以下の書は記紀とはあまり関係ありませんが、基本的な考古学の学習方法は今でも参考になると思います。坂詰秀一氏の『日本考古学文献ガイド』(ニュー・サイエンス社)にも考古学を学ぶにあたり、先ず初めに読むべき書であるとの趣旨で紹介されていました。


・『通論考古学』浜田耕作 大鐙閣 大正11

https://dl.ndl.go.jp/pid/964457



〇人類学

 人類学は考古学と密接な繫がりがあります。鳥居龍三は人類学の範疇に止まらず考古学・民族学等多くの隣接の学問の分野において、多彩な活動をなし「総合人類学者」と呼ばれ多くの功績を残されました。以下の書は記紀で見られる上代文化を多くの他民族と比較し、人類学的な視点で分析なさっています。


・『人類学上より見たる我が上代の文化 ⑴』鳥居龍蔵 叢文閣 大正14

https://dl.ndl.go.jp/pid/1020864



◇明治時代

〇年紀の研究

 日本書紀の年紀の問題を辛酉革命と関連付けて解釈し、現在に至るまで有力な説となりました。又、神功・應神の二御代について朝鮮文献と比較して、干支二運一二〇年前に記されていることを明らかにした、年紀研究の画期とでも言うべき研究書です。以下は明治時代に那珂通世氏が行った年紀研究を昭和期に三品彰英氏が増補された書です。


・『上世年紀考 増補版』那珂通世 著, 三品彰英 増補 養徳社



〇神話学

 諸外国の学説を紹介すると共に、日本神話との比較を試みており、これが事実上日本神話学の起点を成すものとされ、「高木神話学」と呼ばれ今なお高い評価を受けています。その研究態度が西欧の諸学説に対してもただそれを踏襲するというものでなく、頗る批判的に摂収していること、また国学神道学派の研究資料の偏狭、独善的な解釈等の弊を破って、広く世界神話民話譚に材を求め、これらの相互の伝播や暗号関係を想察し、日本神話を広汎な世界神話伝承の境域の中に定位させようとしています。本書が後の日本神話学研究に与えた影響は大きく、多少に拘わらずこの恩恵を受けない日本神話研究は無いと言っても過言が無いそうです。


・『比較神話学 (帝国百科全書 ; 第116編)』高木敏雄 博文館 1904

https://dl.ndl.go.jp/pid/992534



〇外国人による古事記研究

●The Kojiki(英訳古事記)

 古事記全文を英訳したものがイギリス人のバジル・ホール・チェンバレン(Basil Hall Chamberlain)により明治16年に刊行されました。本書は序文と本文より成り、古事記研究の観点からすれば、その序文が特に注目されました。この序文において、チューラニアン・シイシアン・アルタイック等の種々の名称を以て呼ばれている一大人種の最も古い典籍であり、且つこの人種の最上の古書であると説き、また古事記と日本書紀を比較して、これをラテン語の書と古代英語の書に例えました。(因みに、卑猥と感じられた部分は英語ではなくラテン語で翻訳されています)


 日本の古事を十分に考究するには古物学者(考古学者)の助けを借りざるを得ず、日本の国書を蒐集して悉くこれを批評し、ありとあらゆるものを校閲して、その事実の知識を捜出するのみならず、中国朝鮮の記録にも注目すべきことを述べています。


 以下は、本書の序文を翻訳し、粟田寛・飯田武郷など当時の著名な古典学者の評語が頭注に掲げられているのが特徴で、チェンバレンの解釈の誤りをよく指摘していますが、逆にその指摘が民族意識による反感によるものも多く、考古学・民俗学が援用される以前である当時の学問水準が伝わってきます。


・『日本上古史評論』チャンバーレン 著, 飯田永夫 訳 史学協会出版局 明21.4

https://dl.ndl.go.jp/pid/772280




〇注釈書・本文

●『日本書紀通釈』飯田武郷

 平田篤胤の弟子である飯田武郷が明治32年に完成させた書です。先行学説の引用が大部分で自説が少ないのですが、かつて『日本書紀通証』と『書紀集解』が活字本化されなかった為、広く利用されたそうです。その為、江戸時代の研究の集大成として、先ずはこの注釈書を参考にすると便利です。ただし、『日本紀標註』の説を「或人曰」という形で引用し、著者と著作名を表記していないことに注意が必要です。索引の巻を使用すると便利で、現在でも使用に足ります。


・『日本書紀通釈 第1 増補正訓』

飯田武郷 著 日本書紀通釈刊行会 昭15

https://dl.ndl.go.jp/pid/1115770

・『日本書紀通釈 第2 増補正訓』

飯田武郷 著 日本書紀通釈刊行会 昭15

https://dl.ndl.go.jp/pid/1115817

・『日本書紀通釈 第3 増補正訓』

飯田武郷 著 日本書紀通釈刊行会 昭15

https://dl.ndl.go.jp/pid/1115832

・『日本書紀通釈 第4 増補正訓

飯田武郷 著 日本書紀通釈刊行会 昭15

https://dl.ndl.go.jp/pid/1115849

・『日本書紀通釈 第5 増補正訓』

飯田武郷 著 日本書紀通釈刊行会 昭15

https://dl.ndl.go.jp/pid/1115865

・『日本書紀通釈 索引 増補正訓』

飯田武郷 日本書紀通釈刊行会 昭15

https://dl.ndl.go.jp/pid/1115870



●『古事記伝略』吉岡徳明

 本居宣長の『古事記伝』は古訓が後の古事記の注釈書の基礎になるなど、古事記研究で欠かせない書ですが、全四十四巻にも及ぶ膨大な文量の為、研究者でもなければ全てを読むのは困難です。現代では神野志隆光氏の『本居宣長「古事記伝」を読む(1~4)』(講談社選書メチエ)が簡略化された現代人向けの解説書となりますが、過去には吉岡徳明が古事記伝を簡略化し、『古事記伝』の誤りや不備を補正し、平田篤胤の『古徴史』『古史伝』を始め、その他の注釈・研究書の説を参照にして自説を補足して出版した『古事記伝略』という書があるので、こちらを利用するのが便利でしょう。『古事記伝』の趣旨を容易に知り得るとともに、当時における古事記の註釈一般を窺うことが出来る点に価値があります。


・『古事記伝略 : 12巻 上 (国民精神文化文献 ; 第19)』

吉岡徳明 国民精神文化研究所 昭和13

https://dl.ndl.go.jp/pid/1918154

・『古事記伝略 : 12巻 下 (国民精神文化文献 ; 第19)』

吉岡徳明 国民精神文化研究所 昭和13

https://dl.ndl.go.jp/pid/1918164




◇江戸時代

〇注釈書・本文

●『古事記伝』本居宣長

 『古事記』研究史上画期的意義を有する注釈。『古事記』全巻に渡る本文校訂、訓読、解釈等について、文献学的方法による実証実験は、以降現在に至るまで多大な影響を及ぼしています。部分的誤りや古道的解釈は批判されるものの、『古事記』研究には必読の書と言われています。

 過去に何冊か全集や単行本化しましたが、活字化したものでデジタルコレクションから閲覧できるものは以下になります。目次は付いていませんが坤巻は索引付きなので、これを利用すると便利かと思います。


・『古事記伝 : 校訂 乾 増訂版』本居宣長 著 吉川弘文館 昭和5

https://dl.ndl.go.jp/pid/1041627

・『古事記伝 : 校訂 坤 増訂版』本居宣長 著 吉川弘文館 昭和5

https://dl.ndl.go.jp/pid/1041637


●『書紀集解しょきしっかい』河村秀根

 尾張藩士、河村秀根による過去の諸注釈の集大成。『日本書紀』の典拠を中国の内典(仏教経典)や外典(儒教経典)から探し出し、出典を明らかにする事や、『延喜式』など『日本書紀』成立以降に作成された書物も含め多くの書籍により『日本書紀』を解説しています。『日本書紀』を漢文の書籍として扱い、分注を後世の書き込みと考えて削除するなど国語学的な問題が残るものの、『日本書紀』の潤色の典拠を指摘し、語句の漢語的解釈を行った成果は、現代でも通用する程高い価値を有すると評価されており、現在最新の注釈書である『新釈全訳 日本書紀 上巻(巻第一~巻第七)』においてもこの書と『日本書紀通証』に関して「現在においても圧倒的である」と絶賛されています。ただし、河村が使用した『日本書紀』の写本は、書名に『書紀』とのみ書かれていたので、これを信用した河村も書名に『書紀集解』と名付けたと伝わる様に、あまり信用出来るものではないそうです。


・『書紀集解 国民精神文化文献5 巻上』

河村秀根 著, 河村殷根, 河村益根 考訂 国民精神文化研究所 昭和11

https://dl.ndl.go.jp/pid/1157899

・『書紀集解 国民精神文化文献5 巻中』

河村秀根 著, 河村殷根, 河村益根 考訂 国民精神文化研究所 昭和12

https://dl.ndl.go.jp/pid/1157913

・『書紀集解 国民精神文化文献5 巻下』

河村秀根 著, 河村殷根, 河村益根 考訂 国民精神文化研究所 昭和12

https://dl.ndl.go.jp/pid/1157934

・『書紀集解 国民精神文化文献5 首巻』

河村秀根 著, 河村殷根, 河村益根 考訂 国民精神文化研究所 昭和15

https://dl.ndl.go.jp/pid/1157883



●『日本書紀通証』谷川士清たにかわことすが

 神道家でもある伊勢の和学者である谷川士清による書。中世から近世初頭に多かった空理空論を述べる注釈書と異なり、字句の意味を古典に基づいて解釈を行いました。国語辞典『倭訓栞わくんのしおり』の著書でもある士清は、『釈日本紀』以来注釈が行われなかった皇代紀についてその出典を明らかにし、国語学的な注釈を行いました。士清の研究は現代でも充分利用出来るものと言われていますが、神代紀に関する注釈が中世の説を集大成しているのに加え、師の山崎闇斎の説を引用している他、陰陽五行説・宗の理気学による解釈がある事など、垂加神道の色彩が濃厚に残っている点が本居宣長により批判されています。また、この書も『書紀集解』と同じく参考にした本文の質が低いと評価されています。


・『日本書紀通証 第一巻 (国民精神文化文献 ; 第15)』

谷川士清 撰述 国民精神文化研究所 昭和12

https://dl.ndl.go.jp/pid/1917885

・『日本書紀通証 第二巻 (国民精神文化文献 ; 第15)』

谷川士清 撰述 国民精神文化研究所 昭和14

https://dl.ndl.go.jp/pid/1917890

・『日本書紀通証 第三巻 (国民精神文化文献 ; 第15)』

谷川士清 撰述 国民精神文化研究所 昭和16

https://dl.ndl.go.jp/pid/1917894

・『日本書紀通證 35巻【全号まとめ】』

谷川士清 撰述 五條天神宮 宝暦12 [1762]

https://dl.ndl.go.jp/pid/12865343



●『長等ながらの山風』伴信友

 伴信友により江戸時代に書かれた壬申の乱の研究書であり、大友皇子即位説が有名ですが、附録に「壬申紀」の詳しい註釈が載っています。壬申の乱に関してのみですが、歴史学的な分析としては『集解』や『通証』よりも優れていると言われています。

 但し、自分が確認した限りでは物部連麻呂に関する記事にある「從之」を「殉死」と解釈する(史実の物部連麻呂は後に石上氏に改名し、左大臣にまで昇格する。)など明らかな誤りも見受けられます。


・『伴信友全集 第4 (国書刊行会刊行書)』国書刊行会 明治40

所収『長等ながらの山風』附録一「壬申紀證註」

https://dl.ndl.go.jp/ja/pid/991315/1/265



〇歌謡

●『稜威言別』橘守部

 記紀の歌謡一八〇余首を注釈しています。契沖の『厚顔抄』、宣長の『古事記伝』などを土臺として更に新見を出そうと試みています。


・『稜威言別』橘守部 著, 橘純一 校訂 富山房

https://dl.ndl.go.jp/pid/1069688




◇鎌倉時代

〇注釈書

●『釈日本紀しゃくにほんぎ卜部兼方うらべ の かねかた

 平安時代に断絶し、鎌倉時代中期に再開された『日本書紀』の講書を兼方が筆記したものです。『史記』『文選もんぜん』など多くの中国の書籍が引用され、古代の講書の成果である「私記」や『古語拾遺』『古事記』『日本後紀』など多くの日本の書籍も引用され、単なる「私記」の整理に止まらない当時の『日本書紀』研究の集大成。内容も『日本書紀』の成立、記事批判、語句の解釈訓読を行うなど、古代における講書の成果よりも高い水準に達しています。『風土記』や『上宮記』などで原本が存在しない逸文の引用も価値が高いです。



・『国史大系 第7巻』 経済雑誌社 編 経済雑誌社 明治31

https://dl.ndl.go.jp/pid/991097/1/268



◇平安時代

〇辞書

●『和名類聚抄わみょうるいじゅしょう』源順

 平安時代中期に作成された辞書。『日本書紀』(本書では「日本紀」と表記)に登場する神や地名などの説明が多数あり、現代の注釈書でも本書がよく引用されています。


・『倭名類聚鈔 20巻』

源順 撰 那波道圓 元和3 [1617]

https://dl.ndl.go.jp/pid/2606770



*追記

 多すぎて何から読めば分からないという場合は、先ずは文献史家からの評価が高く、よく推奨されている『古事記伝』『書紀集解しょきしっかい』『日本書紀通証』を推奨しますが、『古事記伝』を簡略化し、新たな知見を加えた『古事記伝略』や、『書紀集解しょきしっかい』『日本書紀通証』を引用し、江戸時代の研究の集大成的な『日本書紀通釈』を代用しても良いと思います。これに現代の標準的な注釈書である岩波文庫版の『日本書紀』を加えることを推奨します。


 研究書は津田左右吉氏の『神代史の研究』『古事記及日本書紀の研究』『日本上代史研究』『上代日本の社会及び思想』は歴史家に高い評価を受けており、記紀研究は津田氏の研究をベースとして研究を進める場合も多いので、批判的な立場を取るにしても、最低限の基礎教養として読む必要はあると思います。




◇参考文献

『古事記』『日本書紀』の謎 別冊歴史読本

『改訂版 考古学を知る事典』熊野正也・堀越正行 著 東京堂出版

『考古調査ハンドブック3 日本考古学文献ガイド』坂詰秀一 ニュー・サイエンス社

『古事記事典』尾畑喜一郎 桜風社

『古事記大成 第1巻 研究史編』平凡社

『新釈全訳 日本書紀 上巻(巻第一~巻第七)』神野志隆光 金沢英之 福田武史 三上喜孝・著 講談社



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