小ネタ マヨワとツブラの非実在説
過去に二回に渡って葛城円について取り上げてきましたが、今回は記紀が伝えるこの大臣に関する話が説話であるという説を取り上げてみます。記事の内容につきましては「『日本書紀』で見る各時代の大連・大臣(3)最古の名族の衰退。葛城円」及び「『古事記』でもっとも好きな話」をご覧ください。
この話において、
また、『古事記注釈』の著者としても著名な西郷信綱氏によればマヨワは巻貝の一種であり、「和名抄」には石炎螺をマヨワと訓していることを述べており⑶巻貝はまたツブと呼ばれる事が想起され、今でもタニシ(田螺)の類をツブと呼ぶ地方がまだかなり多く、カタツブリ(蝸牛)―それは固い
ですが、記紀を見渡せば動物や昆虫の名を冠した人物など幾らでも居ます。例えば実在性が認められている仁徳天皇の名は『日本書紀』では
むしろ雄略の殯斂儀礼に触れた⑵の説の方が説得力がある様に思えますが、「『日本書紀』で見る各時代の大連・大臣(3)最古の名族の衰退。葛城円」でも取り上げましたように、葛城円が履中天皇紀二年の「圓〈圓。此云豆夫羅。〉大使主」という氏を表記しない古い資料に基づいた人物である為、比較的実在性が高い事や、近年の考古学的な知見では極楽寺ヒビキ遺跡のように日本書紀の記述を裏付ける可能性がある遺跡が発掘されている為、全くの説話であるとは断言が出来ない状況になっています。
余談ですが、本稿で取り上げている西郷信綱氏の『古事記注釈』は古事記で最も詳しい注釈書のひとつであり学ぶ事も多くお勧めの書ですが、戦後導入したと言う方法論的な立場による研究があまりにも偏りが見られ、今となっては時代遅れである感が否めない事と、何よりも考古学的な知見が殆ど欠落しており、現在の常識からするととても受け入れられない見解も顕在していますので、決して鵜呑みにせず、必ず他の解説書なども参考にする必要があるかと思います。
*追記
本稿を書いた当時、西郷氏の著書は『古事記注釈』ぐらいしか読んだ事が無く、今から振り返ると本稿の様な批判は的外れであったと自省するとともに、評価も改めさせて頂いております。
後の稿(「考古学について① 西郷信綱の考古学に対する批判論」)でも触れますが、古事記研究の古典と呼ばれる『古事記研究』(未来社)では西郷氏が何故考古学に対して自制的であるのか、理由を知らされるとともに、歴史学や考古学的な視点からだけでは、決して理解する事の出来ない新たな視点を提供されたことにより、長年抱いてきた疑問(別稿「神武天皇東征の史実性と英雄時代論」参照)も氷塊した事から、その研究に対して是々非々の姿勢を保ちながらも、こと文学的な解釈に関しては、最も参考にさせて頂いているかも知れません。
◇参考文献
⑴『令集解. 苐二』国書刊行会 編 国書刊行会 国立国会図書館デジタルコレクションより閲覧 242コマ 471ページ
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1878432/242
⑵『古事記事典』尾畑喜一郎 桜楓社 184ページ
⑶『古事記注釈』第七巻 西郷信綱 ちくま学術文庫 226ページ
⑷『古事記注釈』第七巻 西郷信綱 ちくま学術文庫 227ページ
◇関連項目
・『日本書紀』で見る各時代の大連・大臣(3)最古の名族の衰退。葛城円
https://kakuyomu.jp/works/16816452219091770654/episodes/16816452221036349661
・『古事記』でもっとも好きな話
https://kakuyomu.jp/works/16816452219091770654/episodes/16816452220082185337
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