人類は進化などしない。

人類は進化していない。

　どういう訳か、彼氏に井伏鱒二『黒い雨』を猛プッシュされた。

　私は自分の誕生日が長崎原爆忌というのもあり、原爆被害を題材にした作品は結構読んできた。だから半強制的に買わされた時は本当に面倒で、暫く本棚にすら仕舞わず床に転がしていた位に興味がなかった。

　だけどある時、暇過ぎて試しに少し読んでみた。文庫本を30ページほどめくったところで、耐えきれずページを閉じた。

　――『原爆』を『コロナ』に変えたら、今と全く同じじゃないか。

　科学が進歩して、いろんなことを機械が人の代わりに行うようになって、差別というものは加速度的に減ってきた気がする。有事においても日常においても、筋力に優れた者が優遇される時代は終わり、知性による戦略に長けた者が重宝されるように変わってきた。

　それでも人は、科学が及ばぬ物事に怯え、被害を受けた者を虐げる。

　理由が説明できないと見るや、外から来た人間のせいにする。

　コロナに始まった事じゃない。

　大陸の陰謀、半島の陰謀、ヨーロッパの陰謀、特殊組織の陰謀。

　いったいどれだけの偶然が、何かの陰謀のせいにされてきたか。

　いったいどれだけの偶然のせいで、多くの人々の心に傷が残ったか。

　私は、人をよくニホンザルにたとえる。

　猿山で飼育されているニホンザルには、上下関係があり常に争っている。人工的に閉じられた世界で、何の情報も発見も与えられず、闘争と防衛の本能のみに頼って生きている。

　猿山を『閉じた社会』に置き換えれば、そのまま人だ。

　人は猿から何も進化していない。

　自分で考え、情報を集め、閉じた社会から自立しなけりゃ、人は何度でも差別を繰り返す。閉じた社会で平等と平和を叫んだって、異端扱いされ迫害される側にされる。

　社会を閉ざしているのは為政者であり、マスコミだ。

　特に日本は、マスコミによる誇張の弊害が大きすぎる。正しい情報が、選択できる情報が、あまりにも伝えられていない。

　私は、社会を閉じる行為の愚かさに気付いて欲しい。

　人は進化していない。脳だけ大きくなっただけの、ただの猿なのだから。