真実を見極める眼【KAC20213】

ひより那

真実を見極める眼【KAC20213】

 私は小学校でクラスリーダーの告白をフッたことでいじめられるようになった。

 それからはメガネをかけて地味な髪型に変えて目立たないように学校生活を送ったことで存在を消すことに成功。

 

 私は運が良かったのだろう。クラスリーダーは新しい女の子に好意を寄せると、地味になった私のことは目に入らなくなったようで私に平和が訪れた。


 中学生になるとまわりがお洒落に気を遣うようになる。私も興味はあったが、小学校のトラウマから『もし男性に告白されたらどうしよう』……不安が小学生時代を思い起こしてしまうので手を出さずに勉強に打ち込んでいた。


「私のことを誰も知らない高校に入って人生を楽しく過ごそう」


 そんな夢を思い描いていた。しかし、中学校まで相手の顔色を窺って話してきた性格が急に変わるはずもなく……癖となってコミュニケーション能力に影響を及ぼす。


「はぁ……直感が鋭くなったのかなぁ」


 顔色を窺うことで相手の雰囲気を感じ取れるようになった。機嫌の良し悪しで接し方を変えて対応すればどんな人間でもある程度の距離までは縮められる。


「夏美ちゃんは優しいね」

「夏美ちゃんが怒ることはあるの?」


 というのがクラスメイトの私に対する評価。ただ相手の心に触れるのが苦手なだけだし、貶めるような言い方を出来ないだけ。

 


「夏美ちゃん、これお願いしていい?」と友人の心愛ちゃん。


(少し眉間にシワが寄ってる気がする。これを断ったら嫌われちゃうかなぁ~)


「うん、心愛ちゃんの頼みだもんね。もちろんいいよ」


 私の鋭くなった直感が断る心を拒否させる。




「お前ら邪魔なんだよ」


 クラスでも浮いている剛毅君、噂によると不良グループに入っている怖い人で避けられている存在。


 しかもよりによって隣の席。


 椅子に寄りかかって傾けて両足を机に乗せて頭の裏で指を組んで前後に揺らしている。


「なぁ、夏美さん。教科書忘れたんだけど見せてもらってもいいか」


 私の直感が恐怖のアンテナをビシバシ立てている。ここで断ったら後が怖い。


「はい……。も、もちろんです」


「悪いな」と剛毅君は机を寄せて間に置かれた教科書を真剣な眼差しで見つめている。意外な一面を感じつつ恐怖のオーラを直感が全て受け止め心臓の鼓動を早くさせる。


 時には消しゴム、時には筆記用具などなどただ言われるがまま従うことしか出来ない。


「夏美さん!」


「はいぃぃ」


 まるでパブロフの犬。クラスメイトからは「ご愁傷さま」「目をつけられてるんだな」など噂が広まって友人も私から徐々に離れていった。


 友人の心愛ちゃん、初めて合ったときから優しさのオーラを直感が受け止めて直ぐに仲良く……剛毅君に目をつけられているという噂が広がってから相手をしてくれない。


「夏美さん」「夏美さん」「夏美さん」

「怖い……怖い……怖い」


 なんでそんなに恐怖のオーラを出しているの。なんで私の直感のアンテナにビシバシぶつけてくるの。



「夏美さん。この問題を教えてもらっても良いか」


 目の前には眩しい夕日が周囲を赤く照らしている。そんな赤い光が血の色に見えて直感のアンテナがへし折れるほど恐怖した。


「剛毅君、私なにか悪い事したの!」


 しまった……。あまりにも強い恐怖に本音をぶつけてしまった。どんどん直感のアンテナにぶつけてくる恐怖のオーラ。立ち上がる剛毅くん。



「ご、ごめん。実は前から夏美さんの事が好きだったんだ。ど、どうしても君の前だと緊張しちゃって……」


「え……」


 ずっと正しいと思っていた私の直感のアンテナ。実はただの思いこみで直感だと思っていたものは全て『直観』だったようだ。


 みんなももしかしたら直感だと思っているものは直観かもしれない。そう思って付き合ってみると案外うまくいくかもしれないよ。



 

=====

『直感』 ……  感覚によってとらえた物事が正しいこと

『直観』 ……  感覚によってとらえた物事。


 自分が感覚として捉えた物事が全て正しいと思いこんでしまうと、本当のことを見誤ってしまいます。身の危険を感じる出来事でなければ疑って見ると違った世界がひらけるかもしれませんね。



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