じゃんけんブラザーウォー
武海 進
じゃんけんブラザーウォー
兄弟、それは頼もしい友であり、時に強大な敵になる厄介な存在。
現在、高橋家の兄弟関係は後者の方らしく、兄と弟が睨み合っている。さて、何故こんなことになっているかというと、理由は実にくだらないことだ。
昨日、彼らの父親が知人から旅行の土産で温泉饅頭をもらい、家族みんなでおいしく頂いた。
そして今日、その残りを兄弟がおやつに食べていたのだが、残っていたのが3個だったのだ。つまり、1個余る。
家にいた母親は二人が学校に行っている間に食べたようで、辞退した。なので兄弟どちらかが食べることになり、どちらも相手に譲らなかった為、現在に至る。
「兄さん、僕は今年受験でたくさん勉強している。だから常に脳が疲弊していて糖分を欲しているんだ。ここは可愛い弟に譲ってよ」
「何言ってんだ。俺だって部活帰りで腹減ってんだ。それに屁理屈ばっかこねる生意気な弟のどこが可愛いってんだ」
兄弟の視線がぶつかり激しく火花を散らす。温泉饅頭一つでここまで熱くなるとは成長期の男の子の食欲というのはすさまじいものだ。
「あんた達、つまらない喧嘩してないでじゃんけんでもしてさっさと決めなさいよ」
いつもの見飽きた喧嘩にうんざりした母親が面倒そうに提案する。ちなみにこの提案にはいつまでもグダグダ喧嘩しているのなら怒るぞという脅しが含まれている為、兄弟は素直に提案を受け入れることにした。
「兄さん、僕はグーを出すよ」
早速弟が兄に心理戦を仕掛ける。知能派の弟は心理的誘導と過去の兄が出した手のパターンから出す手を予想するという戦法を得意としている。
「嘘つくんじゃねえ!お前こないだはパー出すって言って出さなかったじゃねえか」
一方肉体派で頭の方は少し残念な兄は、よく弟に騙されて負けている。たまに勝ち星を拾うときは、考えるのが面倒になって直感で手を出すときくらいだ。
今回も空腹も手伝って兄は何も考えずに直感で出す手を決めた様だ。
弟の方も兄の顔から何も考えていない事を悟ると心理戦からパターンからの予想に作戦変更をする。
弟が出す手を腕を組んで真剣に考えていると、既に1つ食べたのにも関わらず、空腹の兄が痺れを切らした様だ。
「もうやるぞ!最初はグー!」
兄による不意打ちでじゃんけんが始まった弟は焦る。まだ出す手を決められていないからだ。
不意打ちなのだから止めて少し待つ様に言えば良かったのだが、考え込んでいたせいで突然の最初はグーに応じてしまい、じゃんけんが始まってしまったのでもうどうしようも無い。
慌てた弟の思考はもうぐちゃぐちゃで出す手を予想どころではなく、瞬時に思いついた手を出す。
「ポン!」
グーとパー、饅頭を巡る戦いはここに決着した。
「やった!勝った!」
「チクショー!負けた!」
勝ったのは弟だった。本能に従って直感で決めた兄とは違い、弟は焦りながらも過去の経験からの無意識の予想、直観で出す手を決めた。今回はそれが勝因に繋がったようだ。
悔しがる兄に勝ち誇りながら弟は饅頭に手を伸ばそうと机を見るが、そこにあったはずの饅頭が無くなっていた。
「いやあ、やっぱりこの饅頭美味いなあ」
無くなった饅頭の行方はいつの間にか仕事から帰ってきていた父の口の中だった。
「兄さん、半分こすれば良かったね」
「そうだな。バカみたいなケンカするんじゃなかった」
がっくりと肩を落とした兄弟は今日、大事な事を学んだ。争いは何も産まないという事を。
じゃんけんブラザーウォー 武海 進 @shin_takeumi
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