路傍の占い師
あーく
路傍の占い師
「——あなたは控えめに振る舞うことが多いようですが、どうでしょうか?」
「え?どうしてそれを?」
「うーん・・・。直感ですね。なので、もっと積極的になれば彼は振り向いてくれるのではないでしょうか?」
「ありがとうございます!」
占い師ヒミコは今日も商店街で占いをしている。
繁盛しているとは言い難いが、生活には困らない程度だった。
「はい、次の方——」
「おい!お前!ここは俺の会社の敷地だ!なに勝手に店開いてんだよ!」
「え?前から許可を取ってましたけど・・・。」
「それは前の社長だろ!今日から俺が社長だ!とっとと出て行け!」
「・・・わかりました。」
彼は
辛口が個性的と評判で、TVや雑誌で取り上げられるほど大人気の占い師だ。
ヒミコは肩を落としながら新しく占いができる場所を探しながら歩いていると、家電量販店のTVから流れる声が聞こえた。
ちょうど表有の占い番組が映っており、ヒミコは足を止めた。
番組では前科持ちの人が、社会に復帰できるかどうかの相談を受けていた。
「あなたはこのままでは地獄に落ちるでしょう。確か、あなたのおふくろさんは亡くなっていましたよね?おふくろさんも泣いていることでしょう。でも、救われる方法がいくつかあります。それは——」
ヒミコは彼の占いの方法に少し違和感を感じた。
すると踵を返し、先程まで占いをしていた場所に戻った。
「なんだ貴様。まだいたのか?ここは元々俺の敷地だったんだからとっとと帰れ!」
「これから言うのは私の直感——いえ、警告です。もっと謙虚にならないと、取り返しのつかないことになるでしょう!」
「取り返し?はっはっは!わざわざ戻ってまで説教か。」
「占いはお客さんの悩みを聞いて安心させるもの。解決はお客さん自身でしてもらわないと。あなたがやっているのはただの押し付け。やたら不安にさせて自分の考えを押し付けるなんて、占い師失格だわ。」
「うるせえ!俺の方が売れてんだ!俺の方が正しいに決まってるだろ!」
「——これ以上何を言っても無駄のようですね。さようなら。」
「帰れ帰れ!」
ヒミコはため息をつき、新しく占いができる場所を探し回ることにした。
そして、占いができる場所が見つからないまま一日が過ぎた。
表有は今日も、悩める一般人の運勢を占うTV番組に出ていた。
「トラックの運転手ですか――深夜に運転することもあるんですよね?
なにやら嫌な予感がしますね。あなたにこれからよくないことが起きます。お守りを持っておくとよいでしょう。」
「ありがとうございます!」
「はい!カットー!お疲れさまでした!よかったらこの後、一杯どうです?」
「お、いいね!」
表有はスタッフと共に居酒屋へ足を運んだ。
しばらく飲み続けていると、既に日付が変わっていた。
「お、もうこんな時間か。もう帰らないと。」
「タクシー呼びますね。」
「俺は専属の運転手に任せるからいらないよ。」
「そうですか。では私はタクシーで。」
しばらく待っていると、先に表有の運転手が到着した。
「おっと、来たようだ。見てくれよこの外車、高かったんだぜ!」
「いやあ、すごいですね!あ、タクシーも到着しました。それではこの辺で。」
二人は別れを告げ、それぞれの送迎方法で居酒屋を出発した。
表有は左ハンドルの車の助手席に乗り込んだ。
「早くしろよー。明日も早いんだからな。」
「は・・・はい。」
急かされるように車は加速すると、前を走っていたトラックに追いついた。
「邪魔くせーな、このトラック。おい、追い越せ!」
「はい。」
その時だった。
トラックが急ブレーキをかけてきた。
「おい!ちょっと待て!!」
運転手も慌てて急ブレーキを踏んだ。
キキーーーー!!
夜の街にブレーキ音が鳴り響く。
「止まってくれーーーーーー!!」
車内に叫び声が鳴り響く。
「うわーーーーー!!」
そして――
「あれ?ここは?」
「気が付いた?」
「お前は!あの時の占い師!」
「だから警告したじゃないですか。自業自得ですね。」
「まて!悪かった!もう一度やり直させてくれ!」
「もう遅いです。あれを見なさい。」
表有が乗っていた車は原型をとどめておらず、無残な姿になっていた。
左ハンドルの外車の助手席にいたのは——
「おい!ふざけんな!あれは——俺じゃねーか!!」
表有は大量に血を流しており、到底助かるとは思えなかった。
幸か不幸か、衝突直前に外側にハンドルを切ったため、運転手は致命傷を避けられた。
が、代わりに表有が犠牲となった。
「これは——夢だ!そうに違いない!」
「まだ分からないようですね。周りをご覧なさい。」
車の周りには、パトカーや救急車が停まっていた。
その近くで、TVの収録にいたトラックの運転手が事情聴取を受けていた。
表有が乗っていた車が衝突したのは、この運転手が運転していたトラックだった。
トラックは荷台が大きく潰れ、荷物がいくつか被害を受けただけで済んだ。
「さすがはよく当たる占い師ですね。では、私はこれで。」
「待ってくれ!!」
しだいに表有の意識は遠のいていった。
翌日、この事故は大きく報じられた。
新聞には大きく『大人気占い師が大往生』『表有のよく当たる占い!トラックにも当たる!』などと書かれていた。
一方、ヒミコは新しく占いを経営していた。
「すごーい!そうなんです!私ペット飼ってるんですよ!なんでわかったんですか?」
「うーん・・・。直感です。」
「ふーん。あ、よく当たるといえば、人気占い師の表有さんが亡くなったの、聞きましたか?」
「ええ、もちろん。新聞で読みました。」
「私も何回か見てもらっていたんですけど、もったいないな~。」
「そうですか、それはお気の毒に。」
「あ、話が脱線しましたね。すみません。それで、私はうまくいくでしょうか。」
「ええ、自分に自信を持ってください。そうすれば、必ずいい方向に向かうはずです。」
「ありがとうございます!」
「はい、次の方——」
やがて、ヒミコの店は行列が並ぶようになっていた。
路傍の占い師 あーく @arcsin1203
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