サルの大将は風船を知らない

アほリ

サルの大将は風船を知らない

 うきーっ!!うきーっ!!うきーっ!!うきーっ!!うきーっ!!うきーっ!!うきーっ!!うきーっ!!うきーっ!!うきーっ!!うきーっ!!うきーっ!!


 「あれはなんだ?!」


 「カラフルな果物がなっている?!」


 「この木は、果物のなる木だっけ?」


 「果物にしちゃ、フワフワして気色わるいわ?!」


 ここは山奥のサル山、そしてニホンザルの群れ。


 突如、木々にいっぱいひっかかったヘリウム風船に群れのニホンザル達は不安そうに見つめていた。


 この風船達は、遠い街の結婚式場から飛んできたのだ。

 結婚披露宴で、華やかな演出の為に大量の風船をいっぱい飛ばしたのだ。

 そしてこの風船は風向きのせいで、どんどんこのサル山の木々に紐がひっかかってまるで、得体の知れない木の実が実ってるようになっていたのだ。



  うきーっ!!うきーっ!!うきーっ!!うきーっ!!うきーっ!!うきーっ!!うきーっ!!



 「どうなっちまったんだよ?!」


 「これじゃ、木の上を駆け登ること出来ないぜ?!」


 「じゃあ、俺に任せろ!!」


 若いオスザルのノボルが、恐る恐る1個の風船の側に近付いて、そっと触れてみた。



 ちょこん。



 ふうわり・・・ゆらゆらゆらゆら・・・



 うきゃーーーーーっ!!うきゃーーーーーっ!!うきゃーーーーーっ!!うきゃーーーーーっ!!うきゃーーーーーっ!!




 ノボルが触れて揺れた風船に反応して、サル達が一斉に恐怖で騒ぎだした。



 のっし、のっし、のっし、のっし、のっし、



 「みんな・・・騒々しいなあ・・・」



 「あっ!!」「ボスだ!!」「ボスが来たっ!!」「何?!ボス?!」


 「ボスだっ!!」


 「ボスだっ!!」


 「ボスが来たーーーっ!!」


 「みんな!!頭が高いぞ傅けっ!!」


 「ははーーーーーっ!!」


 サル達の群れの向こうから、厳つい顔の雄のボスザルがのっし、のっし、のっし、とゆっくりと歩いてきた。


 「で、皆は何を騒いでるのかい・・・?」


 「おお!!声色までボスザルの風格!!」

 「ボスザルのユリオ様!!」「ボスザルのユリオ様!!」「ユリオ様!!」「ボスザルのユリオ様ぁ!!」


 サル達は一斉にボスザルのユリオを囃し立ててきた。


 「だから何を騒いでるんだっつーの!!」


 「おー!!我々にボスザルのユリオ様が一喝を!!」「ありがとうございます!!ユリオ様!!」


 サル達はキラキラと目を輝かせた。


 「だから話が進まないぞ!!何があったんだよ?!」


 「はっ!!ボスザルのユリオ様!!最近この山の木にこの様に、得体の知れないいろんな色のフワフワした木の実みたいなのが成ってるんです!!

 それは何かと。何でも知ってるというボスザルなら解ると思うんですが・・・?」


 ・・・えええっ・・・?!


 一瞬、ボスザルのユリオは硬直した。


 ・・・何この木の実みたいの・・・?


 ・・・俺は初めて見たよ!そんなもんは・・・?!


 ・・・「何でも知ってる!俺は頭がいい!」って皆に主張したのは、俺がボスザルになって俺に傅くサル達に有頂天になりたいから出任せで言ったのに・・・!?


 ・・・うわー!!どうしよう・・・!!


 ・・・ここで俺が無能だと解ったら・・・!!


 ボスザルのユリオはどぎまぎして、冷や汗をかいた。


 「え・・・ええと・・・それは・・・」


 「何ですか?それは?」


 ・・・ええいっ・・・!!


 ・・・適当な事言っちゃえ・・・!!


 「あ・・・あれはね・・・俺達サル達に授けられた美味しい美味しい木の実だよーん!!」


 「ええっ!!」


 「本当?!」「ホントに?!」


 ボスザルのユリオの直観に反応した仲間のサルは、一斉にその美味しそうに揺れる大木な木の実を食べようと群がっていった。


 「いっただきまーーーふ!!」



 がぶっ!!



 ぱぁーーーーーーーーん!!ぱぁーーーーーーーーん!!ぱぁーーーーーーーーん!!ぱぁーーーーーーーーん!!ぱぁーーーーーーーーん!!ぱぁーーーーーーーーん!!



 うきゃーーーーーっ!!うきゃーーーーーっ!!うきゃーーーーーっ!!うきゃーーーーーっ!!うきゃーーーーーっ!!うきゃーーーーーっ!!うきゃーーーーーっ!!



 かじったとたんに、耳をつんさぐドデカイ音を立てて爆発した木の実に仰天したサル達は、一斉にパニックになって大騒ぎした。


 「なにこれ!!なにこれ!!なにこれ!!なにこれ!!なにこれ!!なにこれ!!」


 「ギョエェェェーーー!!」


 「怖いよーーー!!」


 「ママー!!」「よしよし、坊や・・・泣かないの。」


 ・・・ど、どうしよう・・・


 ・・・な、何でこうなったんだ・・・?!


 ・・・どうやってこの状況を説明すれば・・・?!


 ・・・落ち着け落ち着け落ち着け・・・!!


 ボスザルのユリオは深呼吸した。


 「こ・・・これは・・・ええと・・・えっ・・・と・・・

 罠だ!!これは罠だっ!!人間の罠だーーーっ!!

 俺達が人里に来て、食い物失敬してるのから、わざと実の形に偽装して触れると爆発する罠で俺達を殺そうとしてるんだーー!!

 気を付けろ!!うっかり触れると俺達を根絶やしにしようと目論む人間どもの手に乗るなーーーーっ!!!!!」




 うきゃーーーーーっ!!うきゃーーーーーっ!!うきゃーーーーーっ!!うきゃーーーーーっ!!うきゃーーーーーっ!!うきゃーーーーーっ!!うきゃーーーーーっ!!うきゃーーーーーっ!!うきゃーーーーーっ!!


 「ひぃぃぃーーーー!!」


 「助けてーーーー!!」


 「まだ僕らは死にたくなーーーーい!!」


 「ママーーーー!!怖いよー!!」「逃げましょ!!ここはもう駄目だ!!」「そうだそうだ!!」


 「さらば!!住み慣れた山よ!!」



 仲間のサル達は、忽ち大パニックになり一斉にこの危険なサル山から出ていってまった。



 ・・・やば・・・俺、思わず適当な事言ったのをみーんな真に受けてしまった・・・!!


 ・・・まいいか・・・


 ・・・何を思うも、みーんなの意思だし・・・♪


 ・・・俺のせいじゃないもん・・・♪


 ・・・俺のせいじゃないもん・・・♪


 ・・・しーらないっ!しーらないっ・・・♪


 ボスザルのユリオは口笛吹いて、どこ吹く風を決め込んでいた。



 ごそごそごそごそごそごそ・・・



 「おい!あれを見ろよ!!」


 「あっ!!あいつは!!」


 「僕達の群れの元No.2の・・・ユキオ・・・?確かボスのユリオとの戦いに破れて群れから追放された筈じゃ?!」


 ボスザルのユリオが人間の罠と言い張った、木に引っ掛かっていた風船の枝によじ登り次々と爪で紐を切って外しては、身体に結び付けているのを、風船を怖がってサル山から逃げようとした仲間達が見つけて、キーキーとざわつかせた。


 「ユキオの奴、何で罠を身体に?!」


 「まさか・・・ユキオの奴、身を呈して私たちの命を守ろうと・・・?!」

 

 「そうだー!!ユキオが自ら犠牲になろうとしてるんだ!!」


 「ユキオ危ないぞ!!」


 「ユキオ罠を身体から外せ!!」


 「死ぬなユキオ!!」


 「ユキオ!!」


 「ユキオ!!」


 「ユキオ!!」「ユキオ!!」「ユキオ!!」「ユキオ!!」「ユキオ!!」「ユキオ!!」「ユキオ!!」「ユキオ!!」「ユキオ!!」「ユキオ!!」「ユキオ!!」「ユキオ!!」「ユキオ!!」「ユキオ!!」「ユキオ!!」


 突如、サルの群れは一斉に『ユキオコール』が巻き起こった。


 あるサル仲間はその姿に涙を流して無事を祈る者が入れば、


 踞って手を合わせて、「ナムアミダブツ」と祈るサル仲間もいた。


 「ユキオ!!」「ユキオ!!」「ユキオ!!」「ユキオ!!」「ユキオ!!」オ!!」「ユキオ!!」「ユキオ!!」「ユキオ!!」「ユキオ!!」「ユキオ!!」


 「ええいっ!!ユキオユキオうるせぇーーーーー!!」


 ボスザルのユリオは、生意気でもう顔を見たくないユキオを応援する仲間達に激しく嫉妬した。


 

 しゅたっ。



 身体中に、木々に引っ掛かっていたありったけの風船を結んだ元No.2のユキオは、再びサル山に戻ってきた群れのど真ん中に降り立った。


 そのカラフルな風船に身を包んだユキオの姿に、サル仲間達は一斉に歓声をあげた。


 「なにさ!!なにさ!!なにさ!!なにさ!!どの面下げてこの群れにやってきた!!」


 怒り心頭のボスザルのユリオは、ズカズカとユキオの前にやって来た。


 「ん?」


 

 ぷしゅ~~~~~~~~~~!!しゅるしゅるしゅるしゅるしゅるしゅる!!ぶぉぉぉーーーー!!



 ユキオの手から、持っていた風船を離すとロケットのように風船が吹き口から空気を吹き出して吹っ飛び、萎んで群れの足元に堕ちた。


 「セイコちゃん、この萎んだ風船の穴から息を吹き込んでごらん?」


 「え?私?」


 ユキオに言われた通り、セイコは半信半疑で萎んだ風船の吹き口をくわえて、



 ぷぅ~~~~~~~~!!



 と、息を入れて膨らませた。


 「あら?木の実になっちゃった!!」


 「セイコちゃん。これはあいつの主張してる『実に偽装した罠』ではないぜ?

 これは『ゴム風船』だよ。

 俺達には全く無害。今さっき触れて割れたのは、爪をたてて穴が開いたからだよ。

 ゴムで膨らんでるから穴が開いたらパンクするのは当たり前じゃん。

 で、こうして吹き口をほどけばぷしゅー!と萎むし、そこから息を吹き込んでぷしゅー!面白いでしょ。というものでさ・・・」


 ユキオそこまで言うと、ギロッ!とたじろぐボスザルのユリオを睨んだ。


 「おめえさ・・・無知のくせに、直観だけで群れを司どるなよ・・・で、おめえのそのデマカセで群れがパニックになったの責任放棄しようとしただろ・・・

 そんなおめえは、ボスザルの資格ないね。

 おめえ要らねぇ!この群れから出ていきやがれ!!」



  うきゃーーーーーっ!!うきゃーーーーーっ!!うきゃーーーーーっ!!うきゃーーーーーっ!!うきゃーーーーーっ!!うきゃーーーーーっ!!うきゃーーーーーっ!!



 「み、みんな・・・混乱させてごめんなさーーーーい!!」


 激昂したサルの群れに取り囲まれたユリオは、怖じ気づいて群れから一目散に遠くの山の向こうへスタコラサッサと逃亡してしまった。


 そして、元群れのNo2ユキオはボスザルに襲名したのだった。





 ~fin~


 









 



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