物語執筆セラピーで再び走れるようになる話【文書ロイドシリーズ短編】
春眼 兎吉(はるまなこ ピョンきち)
物語執筆セラピーで再び走れるようになる話
僕はいつから走れなくなったのだろう? それは、もう、思い出せない。
そしてそんな僕にリハビリのコーチが付いた。それはとても綺麗で
「次の患者さん、
車椅子に乗り、医師の診察へと通される。僕の足は動かない。事故の後遺症だ。だが、なんで『精神科』なんだ? 解せない。
「斉藤 亮さんね。ちょうど高校2年生といったところかな。ところで、何故精神科に通されたという顔をしてるね?」
先生は僕の疑いの眼差しを受け止めつつも淡々と事実を述べる。
「あなたの足はもう、完治しているハズなんですよ。外科医からも手術は成功していると太鼓判をもらっている。そしてあなたが実際に歩けないのは自身の内面、精神的なよりどころによるものだと思われます。そこで」
先生はそう言って言葉を切り、VRゲームをする時に装着するようなヘッドギアを看護師に持ってこさせる。
「これは最新の療法なのですが、『物語執筆セラピー』という療法があります。自閉症や心が
先生は「いかがですか? やってみますか?」と確認をとってくる。僕は少し考え、「はい」と答えた。なんか、心の奥にモヤモヤしたものが隠れていて若干気持ちが悪いと思う自分がいたから。そしてそれを手助けしてくれるなら、それでもいいと思えたからだ。
そして、僕はVR空間で
「初めましてやな。ウチは
そこには艶のある黒髪ロングの
「よろしくお願いします……
いきなり砕けた呼び方をされ、キョドった僕は差し伸べられた手をぎこちなく握るので精いっぱいだった。
それからはひたすら
「なかなか出されへんのやね。まぁ無理せず、ぼちぼちやろかっ」
「なんで、こんなに辛いんだよ! こんなのもうやだよ! なんでこんなに言葉を絞り出すのに
和さんは叫ぶ僕の顔を両手でホールドし、強引に面と向かせて言い放つ。
「だれに聞いたかしらへんけど、それは無理やで! 出来たとしてもそんな無粋なマネせぇへん!」
初めて見る和さんの怒りだった。
「ええか、亮ちゃん。悩んで苦しんで
ニカッと笑う和さんの眼差しは僕に希望のある未来を提示してくれているようだった。
そして執筆もいよいよ
そうか、僕は、『
僕は陸上部に所属し、メキメキと力を付け、インターハイで県下一と言われてた。声援に突き動かされ、走ることの楽しさを知った気になっていた愚かな自分。
そしてそのしっぺ返しは起こるべくして起こる。最初は下駄箱の靴に
「でも、実は足は機能するという可能性は残された。いや、もう治ってるのよ。あとは亮ちゃんの
気付けば僕は
「でもダメだよ! 和さん。僕はもう走りたくない! 歩きたくない! 動きたくない! だって他人が怖いもん。認められないことが怖い。だったら会わなきゃ良いんだよ。動かなきゃいい。その為には動く『機能』を持つ『足』は邪魔でしかないから!」
そんな
「こ~ん、に~ち、わぁ~♪ 『サッカ』だよぉ~♪ サッカという人の心を喰う バ ケ モ ノ だよぉ~♪ キミの心が美味しそうで、思わず来ちゃったぁ♪ じゃあ、今から『喰い散らかす』から、よ~ろ、し~く、ねぇ~♪」
「あれは『サッカ』。古代より人の心を喰う
和さんに両手に包まれた僕の手の平が熱い。
その熱は僕の全身をすみずみまで駆け巡り、心の中に火を灯した。
勇気という名の火を。
【人と会うのは怖いし
「きちんと自分の声を言葉に、文章に、意志に書き起こせたやないか!やったで!亮ちゃん、おめでとなぁ」
発動【
和さんを
駆ける駆ける駆ける、浜辺を海を空までをも駆け回る。
「ちょこまか、と、う~る、さ~い……っと」
サッカの全身から光線かがほとばしり、まるで光のシャワーだ。だが、
そして、【
僕の周りに展開した数多の金色の流線型の仏具が、サッカを刺し貫いていく。
こうして僕は現実世界へと帰還した。
そして今、僕は実際に現実世界で走っている。VRヘッドギアから和さんの声が聞こえる。
『ようやったなぁ。走れたやん♪』
「和さんのおかげ。和さんは僕の恩人」
僕は努めて簡潔に答える。だってそうだろ。もうすぐ和さんとはお別れなんだから。
『亮ちゃん、ウチは次の現場へ行くで!亮ちゃんが立ち直ってくれて嬉しかったぁ。ウチ、なんかこの仕事に誇りが持てそうやわ。これも全て亮ちゃんのおかげかな、こっちこそまさに恩人やで! ほなな、元気でやりぃや』
和さんとはそれっきりになった。
やがてしばらくしてAI暴走事件の責任を取って製作社たるMUST
僕は絶望し、
そんな日々が過ぎてしばらく。
机の中にしまっていたVRヘッドギアから音がする。
少し迷ったものの、それを付けると。
そこには。
「悪いなぁ、出戻りや。
夢にまで見た
僕は
「お帰り!
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【完結】文書(ぶんしょ)ロイド文子シリーズ原典『サッカ』 ~飽和(ほうわ)の時代を生きる皆さんへ~ 俺は何が何でも作家になりたい!そう、たとえ人間を《ヤメテ》でもまぁ!!
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物語執筆セラピーで再び走れるようになる話【文書ロイドシリーズ短編】 春眼 兎吉(はるまなこ ピョンきち) @harumanako-pyonkichi
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