狩りは脱走のあとで
タカナシ
「狩りを教えるのは大変!」
最近、ご主人さまの一人がしばらく、おうちに帰って来なかったと思ったら、急に子供を連れて帰ってきたのよね。
それはご主人さまと同じ種族の子供みたいで、わたしたちネコとは似ても似つかないわね。
で、賢いわたしはすぐにピンと来たわ。これはご主人さまの子供だって!
ということは先に住んでるわたしの弟分ってことよね。
わたしは自慢のキジトラ尻尾をピンッと見せびらかせるように立てて、その子供へと近づく。
「にゃ~(わたしはヒナタよ。あんたの姉貴分になるわね。ほら、あいさつは?)」
しかし、この子はあいさつをわたしにすることなく、ジッーっと見つめてくる。
「にゃ? にゃ(もしかして、まだ言葉もわからないわけ? わたしなんて、生まれてすぐには言葉を理解したっていうのに)」
ご主人の子供はしばらく、わたしを見ていると、ニパッと笑って、わたしの自慢の尻尾を掴んだ。
「にゃにゃっ!! (ちょっ、いきなりなにするのよ!!)」
わたしはぶん殴ってやろうかと思ったけれど、子供にそこまでするのは大人げないと思い、思いとどまる。
まぁ、驚いただけで大して痛くないしね。ここは大人なわたしが我慢よ。
それから新たな共同生活が始まったのだけど……。
「にゃ~~⤵ (こいつ、もう3か月も経つのに一向に狩りも何もしないわ)」
まぁ、それもそうよね。だいたい狩りの仕方を教えないご主人が悪いわ!
二匹も居るっていうのに、どっちも甘やかすばっかりなんだからっ!!
このままじゃ、この子は働かないダメな子になっちゃうわ!
ここはわたしがしっかりしないとっ!
さて、狩りを教えるには実践が一番だけど、この家って全然獲物がいないのよね。
ネズミはおろか、虫すらいないのよ。
そうなると選択肢は1つしかないわね。
そう。それはこの家からの脱走!!
そして、外からネズミなり虫なりをわたしが捕まえてくるの!!
わたしは使命感に燃える。
けれど、気合だけで脱走できるほど甘くはないわ。
外に出るためにはわたしの居るリビングから廊下、そして玄関まで行かないといけないのだけど、そこには3つの関門があるの。
1つめは横開きの扉。
2つめはご主人さまたちの目。
3つめが最難関、鉄の玄関。
これらを突破するには冷静な判断力と緻密な作戦、そしてなにより素早い健脚が必要なのよ!!
わたしはご主人さまたちにバレないよう準備を進め、いざ決行に移す。
※
1つめの関門の横開きの扉。これは正直、これは気合さえあれば開けられるのよね。けれど、今日はスピードが求められるの。
わたしは事前に鋭く研いだ爪を扉の隙間に差し込み、足を扉に掛ける。
そして一気に蹴るっ!!
「にゃにゃ~~」
少し扉が開いたところで、すかさず顔をすべりこませ、そのまま押し開けリビングから廊下へ。
「にゃ~(ふぅ、最初の関門はクリアね)」
「にゃにゃ! (でも安心は出来ないわ。ここまで来ているのをご主人に見つかると強制的に部屋に連れ戻されるの!)」
わたしは廊下を突っ走り、玄関の下駄箱の下へダイブする。
ここ数日かけて、下駄箱の下のいらない
だから、ここにわたしが身を隠すスペースが出来たってわけ!
これで2つめもクリア。
残す最後の関門だけど、この鉄の扉はわたしじゃ逆立ちしたって開けられないわ。だから、これは耐えるしかないの。
わたしの感覚ではあと少しするとオスの方のご主人が帰ってくるはず。
その瞬間を狙って外へと飛び出すのよ。
でも、以前、やったときには、扉の閉まる速度が速くて、わたしの自慢の尻尾が挟まれたの。
つまり、これは速さとの勝負! いかに早く扉が閉まる前に駆け抜け外へと脱走するかが肝なのよ。
努力なんて大嫌いなわたしがここ数日は速さを磨く為に頑張ったんだから、何がなんでも成功させるわ。
そのとき、ガチャリと鉄の玄関が開く。
「にゃあっ!! (いまだっ!!)」
わたしは下駄箱の下から全速力で飛び出す。
力の限り走る。玄関が締まるその前にっ!!
ご主人は完全に反応できていない。ここで捕まることはない。あとは扉の閉まるスピードに間に合うかどうか。
頭は抜けた。余裕だ。
前足、胴体と抜けていく。
チラリと見えた感じまだ余裕はありそう。
後ろ足も通り抜け、最後は尻尾だ。
「にゃああああっ!! (間に合えぇぇぇぇっ!!)」
ガチャン!!
背後で扉の閉まる音。
わたしは無事に外へと脱走したのだった。
「にゃ! (良しっ!)」
そのまま駆けて、わたしは手ごろな草むらへ飛び込んだ。
ここなら、手ごろな獲物がいるかもしれないわね。
すぐに、
わたしは体を落とし、お尻をあげる。タイミングを見計るため、尻尾をフリフリと揺らす。
「にゃ! (とった!)」
わたしは虫に飛び掛かるが、その虫はピョンと跳ねてわたしの一撃をかわす。
「にゃにゃっ!? (わたしの攻撃を避けるなんて!?)」
もう一回っ!!
わたしは飛び掛かるが、その虫は華麗に回避する。
「にゃ~~~(む、むむむ。なかなかやるわね。久し振りの外でわたしもいまいち本調子じゃないから。今日はこのくらいにしといてあげるわ)」
わたしはすぐに別の獲物へとターゲットを変える。
そう、出来るネコは1つの獲物に執着しないものよ。
今度は
ぴょん!
「にゃ? にゃにゃにゃ? (なに? き、消えた? いったいどこに?)」
右へ左へと首を振るけど、虫はどこにも見えない。そう思っていると。
「にゃ! にゃん! (はっ! いた! まさか、わたしの鼻の上にいるだなんて)」
前足で追うけれど、ついに掴み切れず、今度こそ、本当に見失ってしまった。
「にゃ~~! (次こそは!)」
そう声に出していると、
「おっ、居た居た。外にいきなり出たら危ないだろ。よっこいしょ。うちのヒナタは重いなぁ。そんなに太ってると虫も捕まえられないぞ」
「にゃ~~~~~~~~~~(あ~~~~~れ~~~~)」
こうして、わたしの脱走劇は幕を閉じた。
にゃ~、次こそはちゃんと脱走して獲物も捕まえてやるんだからっ!!
狩りは脱走のあとで タカナシ @takanashi30
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます