転がすサイコロ/KAC20212作品「走る」

麻井奈諏

第1話

『出目が走る』と言って伝わるだろうか?

主にTRPGなどのサイコロを転がす遊びにおいていい出目が出た時に使われる。

「おらぁあああああああ!!よっしゃ走った!!」

この怒声飛び交う元TRPGサークル、現チンチロサークルでもよく使われている。

勝ったであろう怒声のような雄叫びを上げる男とその周りに囲うように座りうへぇと声を漏らす他の男。いかにもダメな大学生と言った風貌をしている。

「……あんたら……あんまりじゃないこれ?」

「「「ゲッ!!真理恵先輩!!どうしてこんなところに?!」」」

バタンと強く扉を開けこの光景を目の当たりにした女性は侮蔑するような冷たい目を部屋の中心にたむろしている男集団にへと向ける。

「『ゲッ!!』じゃないわよ。なんで私達の代が抜けた途端にこんな惨事になってるのよ」

先ほどまで勝って雄叫びを上げていた男がへこへこと頭を下げながら事情を説明し始める。

「いやね、先輩達が卒業しちゃって、ね?俺らもこのサークル盛り上げていかなきゃなぁ、って思ってたんすよ。」

「で?」

「そ、そんな睨まないでくださいよ先輩」

より一層強くなる視線を受けより低姿勢になりながら渋々説明を続ける。

「ご、ゴホン。で、それでなんすけど。いや、TRPGってルルブはともかくシナリオいるんすよね。いやー俺ら馬鹿だからシナリオ考えられなくて……」

「いや、他の人が作ったシナリオでも回せばいいでしょ」

「えーだってそれやるんだったら他人のシナリオ読み込まなきゃ駄目でしょ?めんどくさくて―。と言うか、GMだるーい」

「あん?」

「いえ、何もないっす……あ、そうだそれなら真理恵先輩GMしてくださいよ。今から」

「は?……あたし手ぶらなんだけど」

「いや、大丈夫でしょ。『紙とペンとサイコロがあれば遊べるのがTRPGの良いところだ』って言ってたの真理恵先輩ですよね?」

「うぐっ」

うんうんと頷いて、多くの部員たちも相槌を打っている。

「俺、真理恵先輩が『TRPGは面白いんだ』ってすげぇしつこく勧誘するからこのサークル入ったッス!!」

そのうちの一人が手を上げて叫んだ。

「あー、わかる。僕も真理恵先輩がメンツ足りないから入ってくれって言われたから」

一人が言い始めたのを皮切りに真理恵に誘われた旨を次々に並べていく。

「あ、あんたら……そ、そりゃああのときは大人数のサークルにすれば卓がいっぱい建って楽しいだろうなって勧誘頑張ったわよ。でも、あんたらだって楽しかったでしょ?」

「もちろんッス。感謝こそすれ先輩を責めるなんて一切ないッス」

「で、でしょ?」

「でも、先輩にが居なくなったらもう遊べないんだなぁって。あー辛い。就職したらはい、バイバイなんてそんな軽い関係だったんですね」

「そ、そんなことないわよ」

「でも、顔出したの久しぶりじゃないすか?遊びましょうって誘っても忙しいって言うし」

「就職先がブラックなのよ!!」

「あー、先輩馬鹿ですもんね。ブラックで有名な一社しか受かんなくてそこでバリバリ働いて余計に仕事押し付けられてるって」

今度は男たちの方があちゃーと言った憐みの目を向ける。

「……じゃ、こうしましょチンチロ。これで俺らが勝ったら仕事やめて俺らのGMやって下さいよ。俺らが負けたら大人しくGMの練習しますよ」

「流石に仕事やめるなんてリスクデカすぎるわよ」

「そうでもないッスよ?俺ら割といいとこのボンボンって奴なんで就職斡旋くらい余裕ッス」

ニヤニヤと男たちは笑みを浮かべる

「……そうだったわね……アンタらの手を借りて絶対就職なんてしたくないって断ったんだったわね(死ぬほど後悔したけど)」


「ま、先輩に別に損はしないでしょ。代表で俺が振らさせてもらいますけど。でも、こういう時俺割と運がいいんすよね」

「はぁ、私がTRPG何回やってサイコロ振って来たと思ってんの?アンタとは修羅場の数が違うわ」

「まぁ、それでもいいすけど、じゃあ俺から振らさせてもらうっすね」

「ええ、構わないわよ」

クスクスと笑いが零れる。

「いやー先輩あくまでチンチロ何すわ」

「それがどうしたのよ」

「親が振って。子は振るまでもなく負けっていう出目があるんすわ」

「あっ」

『4・5・6』サイコロを振って親がこの目を出した場合子はサイコロを振ることなく負けとなる。

「俺言ったっすよね。こういう時強いんすよ」

「そんなこと言っても確率的に」

「確立なんて信用し始めたらTRPGプレイヤー終わりっすよ。先輩が言ってたことじゃないっすか」

「あっ」

“やってしまった”と言う顔をする。サークル時代にはよくそう口癖のようによく言っていた。「100面ダイスで100と1が出る確率は同じではない」ともよく言っていた。

「じゃあ、行くっすね」

「あ、待っ」

彼女の制止する声は少し遅かった。もう男の手からダイスは放たれ。皿の上にダイスは転がり始めている。


「ほーら、走った。先輩、遊びましょ」

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転がすサイコロ/KAC20212作品「走る」 麻井奈諏 @mainass

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