Kawari mon

ジブラルタル冬休み

剥がれたせんべいで刺さないで

空が曖昧になった日に、私は、どうせ最後だから、と物理法則を無視してかっ飛ばしていた。

「風…………………」

地面とは平行に進んでいるはずが、なぜか、落ちていくような激しい恐怖に駆られた。それは、10年後を暗示するものなのかもしれない。

人間と妖精の確たる違いは、人間は「死期」を知らず、妖精は言わば「生期」を知らない。いつ産まれたのかも解らない。ただ、限りあるレールの長さと、その先について知らされているだけだ。

だから、線路の先に魅力的な金銀財宝を発見して急に列車を飛ばす奴もいる。しかし、彼らは輪廻の周期をも無視して先に死ぬから、次の生を受けるまでの時間が累乗となるのだ。

その途方もない時間……………………と、友達になれる気はしない。

ただ、私は違った。限りなく人間に近い妖精、と言う状態。お互いの「わからない」が合致し、八方塞がり。

私の周りの時間は、全て真っ暗に蠢いていた。それは、未知の胎動だった。

それが怖かったからかもしれない。また、滲んだ空を見上げる。


「死ぬの怖いんだよね」

「うん」

「気楽にしなよ、私たちにとって輪廻は当然のこと、産まれて死ぬを繰り返して、どんどん優良になっていくの」

友達は、楽天的だ。妖精は未来の最果てが見え、人間は過去の全てが見える。全てを見通せる。

「…そうなのかなあ、私、死んだ先が見えないってことは、なにか、例外的な何かが、働いているんじゃないかって、思ったりして………そしたら…怖くて…」

「それは、きっといい例外。私たちを産んだ神様は、えーと、なんだっけ?」

「…き…きりす…?」

「むはん…」

「ぶっ……」

「ヤハウェ」

「もあるか」

名前がふわふわして一定しない、私たちの親。

「とにかく、神様は不平等を嫌う。あなただけ、そんなひどいこと、ないよ、きっとさ」

私の涙をさくさく掬って、その辺に撒かれた。命が、ぼわぼわと芽吹く。

踏みたくなってしまった。ひいては、あの重力にすら託けたりして。

どこまでも、足で誹る。

なにもできない私を嘲笑っているのか。

この、騒音蜜也な感情も、きっと、この嘘のホントの嘘を濾過された私の歪み、、、かも?


友人は私に様々な講義を行った。以下、私が感じたことである。

本来命を寿ぐ存在なのだ。人間と妖精は対を成し、遂に成し遂げた功績も即席の足跡となる。だけど、実際は、私のようなウラシル足らずもいるのだ、死は怖い、死は怖い。誰も抗えない現実としてばんと打ち立てられた巨大な壁であり、その先は一切を遮られているからこそ人間は恐れ、憧れる。

逆に妖精は壁の上でのみ暮らすことができる。壁は堆すぎて、下が見えない。でも死後の世界はみんな空を飛べる。そこがどんなところかわかる。そして知っている。壁の先にはまた壁があって、仕切りの役目を果たしている。こうやって命は仕切られる。色の違う壁もある。そこでは、また別の生き物?地球じゃない、別の星の生き物?たちが輪廻するのだろう。

生まれ変わりたい生き物へ辿り着くのは大変だ。人間は先を見ず、壁を見ればまた壁の先を忘れる。だから、別の生き物に生まれ堕ちようとして、人間もわからなくなって、全てを失ってしまう。

欲は蓄積する。一定に貯まれば、人間でなくなる。



「私は、何に生まれ変わるのかな」

「わからないけど、死んだ先が地獄でも天国でもなく、儀式みたいな、大きな仕切りだってわかってるだけでさ、それは、幸せなんだよ、きっと。人間は、何もわからない。でも、過去の誰かの知識を頼れる。私たちは先人が全て死の先を知っているゆえに死んだ彼らを知らない、でも死が見える。命って臆病だね、何もできないの」

最後に私は、ちょっと、妖精にあるまじき(暴力的ではない)いじめを行った挙句、柔らかく融けて光となった。

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