拝啓、見えないキミへ

you

第1話 素敵な彼女


「起きて、ねぇ朝だよ?」

僕は少し低めの声とひどい揺れで目を覚ました

「ん…ああ、おはよ朝霞あさか

体に触れる手の感触で朝霞の方向を向いて話しかける

「おはよかなめ、朝ご飯できてるから」

そう言うとペタペタと音を立て居間に繋がる扉が開いた朝霞は居間の方に行ったのだろう、その様子を見届け僕も布団から出る



僕と朝霞と付き合い始めたのは高校二年の冬だった、二年になって同じクラスになり席も近かったのでよく喋るようになりクリスマスに僕から告白をした。

朝霞が見えなくなったのは付き合い始めて三年ほど経って同棲を始めてからだった。きっかけはよく分からない何の前触れもなく朝霞の姿が僕に認識できなくなった。

精神病院に行ってもそんな病例は過去にもなく打つ手がないと言われた、僕は酷く落ち込み絶望感に苛まれていた、でもそんな僕を救ってくれたのは朝霞だった。

「姿が見えなくても触れるし声も聞こえるんでしょ?ならいいじゃん私は外見以外もすごくかわいいよ?」

顔は見えなくても笑顔だと言うことが分かった、きっとこの言葉に、いや笑顔に僕は救われた、それからの一年は二人で今までと少しだけ違う、けど今まで通りの幸せな日々が続いた。



「顔洗って来なよ」

「ん、りょーか」

顔を洗い居間に入ると机の上にはご飯に味噌汁、卵焼きが並んでいた。

うちの朝ご飯ではパンが出る事はほとんどない、それは朝霞の家では基本朝はご飯との事だ、僕の家では食パンを毎朝食べていたので同居を始めてすぐの頃は朝はパンかご飯かでよく揉めていたので会議を開き「朝先に起きた方が決める」と言う案で可決した、これは事実上朝霞の勝利と言っていい

なんせ僕は朝に弱い、朝霞より早く起きようと思うと6時には布団の外に出ないといけないと言う事だ、そんな無理難題を毎日こなせる訳もなく最初の数日こそ張り合っていたが一週間が過ぎた頃には朝はご飯が定番になっていた。

「んじゃいただきます」

「いただきます」

そう言うと朝霞は箸を伸ばし卵焼きをつかんで口があるであろう位置に持っていき卵焼きがスッと消えた。

「なにー?私ばっか見て」

「いや、いつ見ても不思議だなって」

「あー口に入れると要からは消えるように見えるんだっけ」

そう言うと朝霞は少し笑いながら

「まぁ消えてもらわないと困るからね」

「そりゃそうだ、卵焼きが部屋を飛び回ることになるからね」

「そっかでも私の事見つけやすくて要はいいんじゃない?」

「いーや最近はそんな物無くても場所くらいは分かるようになって来たよ」

見えなくなって一年も経つと何となくだが家にいる朝霞の場所くらいは分かるようになって来た

「へぇーなにで分かるの?」

「んーなんだろ雰囲気…いや違うな匂いかな」

「うわぁこっわ」

気持ち後ろに椅子が下がった、おおよそ胸元を手で隠して後ろに引いたのだろ

朝霞は最初こそクールな印象だったが一緒に過ごしていくうちに表情豊かで見ていて楽しいようなそんな一面がある事が分かり幸せを感じていた

「そうそう私今日バイトだから夜の十時くらいに帰ってくると思う」

「夜ご飯はどうする?」

「久しぶりに要の料理食べたいなぁー」

「はいはい分かった、十時ね待ってるよ」

「別に先に食べててもいいよ?」

「じゃ待ちきれなくなったら食べるよ」

「む…まぁいいけど、できるだけ早く帰ってくるよ」

「ああ待ってる」

そう言って残っているご飯と味噌汁を飲み込む

「ごちそうさま、美味しかった」

「お粗末様でした、私はもう出るけど要は講義何限から?」

「二限からだからちょっと後から行くよ」

「そっかじゃあ行ってくる」

ペタペタと音がなり玄関に置いてある鞄と靴が消える

次に玄関の扉が開くと思ったら一向に開かない

「朝霞?どうしたの?」

「…ねぇ大学行く準備できてる?」

「え、いやまぁ昨日のうちに済ませてあるけど」

「五分!待ってあげる早く着替えて鞄も持って来て!」

普段あまり大きな声を出さない朝霞が僕を急かしてくる

「え?」

「早く!」

よく分からないまま外に出るための服を適当に見繕う、そして玄関に行き

「着替えたけど…」

「…」

返事は帰って来なかった、だが暖かい何かが僕の右手を握る

なるほどそういことか

僕は笑いを堪えながら

「…付き合って四年目なのにまだ手を繋いで外に行くのが恥ずかしいって」

「う…るっさいなぁ!早く行くよ!」

そう言うと僕は朝霞に引っ張られ外に出る


僕の彼女は顔は見えなくても笑っていることが分かるし照れていることも手に取るように分かるそんな


素敵な彼女










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