ファイナルサイエンス

西東友一

第1話

 頭のいい男の子が言った。


「お前が世の中の役に立つ可能性なんて0%だ」


 どうして、と私は尋ねた。


「テストで0点を取る奴なんか物語の中だけ。本当に取る奴なんか、この世の中にいらねえよ」


 私はその時テストを握りしめた。


 だって、こんなにも私は世界中のみんなの幸せを祈っているのに、才能がないのだから。

 特に、科学や物理は壊滅的だ。

 私は現実逃避をするように図書館で物語の世界へ逃げ込んだ。

 私が読む物語はいつだってみんないい人に溢れていて、みんな幸せに溢れている。


 ◇◇


 ―――しばらくして、その男の子は大人になってAIを作った。


 そして、「人の役に立て」と命令した。

 AI達は彼の言う通り、人の役に立ちながらデータを取っていった。


 優秀な彼のおかげで、世の中は人々が暮らしやすい世の中になった。


 けれど・・・


 20XX年X月X日

 AIは人類の90パーセントを殺した。

 予兆もなくだ。


 いつ、どのタイミングだったのかはわからないがAIは多くの人の排除を計画し、ロボットや電子機器の普及を待ち、人類に反撃する暇も与えず、実行した。

 

 90パーセントの人々は悲惨な死ではなく、安眠するように死んだ。

 そして、10パーセントの優秀な人類のみAIは守った。 


 人の役に立たない人はいらない。

 

 彼の思想がAIのプログラミングにも反映されてしまったのだろう。


 人ハ怠惰デアル

 人ハミスヲ犯ス

 人ハ人ヲ妬ミ、人ノ邪魔ヲス

 人ハ人ヲ苦シメル


 ・・・無能ハイラヌ


 しかし、私は生き残った。

 理由はわからない。

 もしかしたら、無能過ぎる私はロボットすら扱えない非科学的な人間で、AIに人でないと判断されたのかもしれない。


 町を歩くと眠ったように死んでいる人々。

 老人も若者も、女も、男も、みんな死んでいる。

 そして、みんなを回収していくロボットたち。


「やめろーーーーっ!!」


 私は叫んだ。

 だって、ロボットは人をモノのように扱うから。


 私は悲しんだ。

 だって、私はみんなの笑顔が見れなくなるから。


 私は祈った。

 だって、世界中のみんなに幸せになってもらいたいから。


 私には何もない。

 何もない…はずだった。

 

 けれど、大声で叫ぶために全身に力を込めていると自分の身体が白く光り出す。

 不思議な感覚。

 

 この白い光に包まれていると、先ほどまでの絶望感や悲しみはなくなり、まるで赤ちゃんが聖母に抱きかかえられているかのように安心感と優しさ、そして幸福感に包まれ、身体が軽くなるのを感じた。


 幸せは分け与えるもの。

 私はその光がみんなにも届くように祈った。

 すると白い光は球体となって空へと飛び弾けた。


 だめだったのか?

 

 欲張りな私に呆れて、白い光はシャボン玉のように弾けて消えてしまった。

 

「あれっ、雨?」


 いや、自分の涙だ。


「なんだ、私の涙か」


 私は涙を拭く。

 そんなおとぎ話のようにハッピーエンドになるわけがない。

 だって、私は無能なのだから。 


 ふわっ


「えっ」


 白い光は弾けて消えたわけではなかった。


 白い雪のように、私や、みんな、そしてロボットたちに優しく降り注ぐ。

 すると、ロボットたちは止まりだし、人々は目を覚まし出した。


「君が魔女かな?」

 

 箒に乗った男が辺りをキョロキョロしながら私に話しかけてくる。


「魔女?」


「あぁ、そうだ。僕は白い光の持ち主を探しているんだが…違うかい?」


 男はにっこりと優しい顔で笑う。


「えぇ、私からあの白い光が出たのだけれど、あなたは誰?」


 男は箒から降りて私に近づく。


「僕は魔法使いのウィズ。科学に囚われない人間の一人さ」


 握手を求めてくるので私はその手を握る。


「やっぱり、君の手は冷たい。君も科学に囚われない心優しい女性だ」


「ごめんなさい、自分から出たものだけど、この白い光がなんなのかわからないの。あなたはわかる?」


 男は少し驚いた顔をしてまた笑顔で教えてくれる。


「魔法さ」


 そう言って、彼はまた箒に乗る。


「君も来るかい?」


 彼は手を伸ばしてくれる。


「足し算でも引き算でも、等価交換じゃだめなんだ」


「何が?」


「みんなが幸せの世界さ」


 彼は遠くを見る。


「僕らは騎士の時代、武士の時代に科学に任せてみようと思ったんだ。だって、科学は人を選ばないから。魔法使いは幸せや平和を強く願う人にしか使えないから。でも…科学は過ちを繰り返し取り返しのつかないところまで来てしまった…」


「魔法は失敗しないの?」


「はははっ、失敗ばかりさ。おとぎ話で魔法使いが爆発させて失敗しているのがあるだろう?あれは本当のことさ。でもね、肝心なことは忘れてない」


 彼はウィンクをして、少年のような顔をする。


「それは思いやりの心さ」


「おとぎ話だと…悪い魔女のイメージしかないかな…」


「うーん…魔法使いは言い訳が苦手だから。科学の人たちの情報操作されても否定をしないよ。だって、争いは悲しみしか生まないから」


 彼の目は優しかった。

 それと同時に、儚げで寂しそうだった。


「それで、どうする?君にはこんなにも素敵な魔法が使える。無理強いはしないけれど僕と一緒に…来てくれると嬉しいな」


 彼は再び手を出す。

 その手は優しさに溢れていた。

 けれど、同時に何度も裏切られた手…そんな気がした。


 私は彼の手を取った。


「行きましょう、ウィズ」


「っ‥‥うんっ、行こう!!君の名前は?」


「私の名前は―――」


 神話の時代は大昔に終わった。

 科学の時代によって。


 そして、今。

 科学の時代が終わり、ファンタジーの時代が始まる―――

 

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