第一回パーティー追放検討会
名苗瑞輝
第一回パーティー追放検討会
「この中に一人、無能がいる」
俺は勇者。魔王を討伐するためのパーティーを率いている。
近頃は相手にするモンスターが強くなっていて、魔王軍もついに本気で侵略を謀っていることがうかがえる。
そこでパーティーの編成を見直すべきではないかと俺は直観した。さらにそれは、人員の追加ではなく、誰かを追放するべきだと告げている。
「え、勇者さん、マジで言ってます?」
「あぁ、大真面目だ」
「そっすか」
てっきり遊び人は反論をするのかと思ったが、思いのほかすんなりと状況を受け入れた。
「まずは各々、改めて自己PRをしてくれ。まずは……遊び人から」
直観的に候補に挙がるのが彼、遊び人だ。
遊び人って何? え、こいつパーティーに必要?
「うっす。遊び人っす。カジノで稼ぐのが得意っす」
確かに旅には金がかかる。
魔物の討伐を通して報奨金を得ることは出来るが、そのために必要な装備や道具は消耗品であるので、その分を差し引くとあまり利益にはならない。
ではどうやって生計を立てているかというと、遊び人の手によって少ない種銭をカジノで数倍に増やしているのだ。
「じゃあ次、預言者」
次に候補として浮かぶのは預言者。
こいつ戦闘中何してるの? 神様のお告げでも聞いてるの?
「神からの
だが彼の言う神からの預言は精度が高い。
今までに何度も預言によって助けられたことがある。
例えば『眠らずに街まで進め』という預言を受け、俺たちは徹夜で街まで歩いたことがあるのだが、本来ならば俺たちが野宿するはずだった場所が土砂崩れに飲まれたと後から聞いた。
そして今、パーティーに不要な人間がいるというのであれば、俺の考えに間違いは無かったのだと確信できる。
「次、錬金術師」
錬金術師は可愛い。あとおっぱいも大きい。好き。
だが、そういった私情を抜きに候補を挙げるなら彼女の名前もそこに含まれてくる。
「はーい。ポーションとか作ってまーす」
先ほどと同じく金の話にはなるが、ポーションなどの薬品などは彼女が生成している。
このポーション類がまた、市販品とは一線を画す効能と味なのである。規定により冒険者による販売が出来ないことが悔やまれるほどだ。
あと、可愛くておっぱい大きいのは正義だと思う。
「あとは……あれ? スパイは?」
「ここにござる」
「うおわ!?」
俺のすぐ後ろから耳元に声がしたので、俺は慌てて飛び退いた。
そこには最後のパーティーメンバー、スパイの姿があった。
こんな感じで普段から不在が多く、何をやっているのかは謎だ。パーティーに要る要らない以前に、そもそも居ないのだ。
てなわけで、このパーティーのどこに問題があるかというと、俺以外全員駄目なんじゃ無いかと直観してしまうわけだ。
「間もなく魔王軍がこの町に向けて侵攻を開始するでござる。仕掛けるなら今にござる」
「むっ、こんな話をしている場合では無かったか。行くぞ!」
「ういー」
「うむ」
「はーい」
「御意」
* * * * * * * * *
勇者たちは魔王軍に対峙する。
まずは預言者が予め魔方陣を複数展開しておく。広範囲を焼き尽くす大魔法を発動するためのものだ。
そして遊び人の『因果律を捻じ曲げる』スキルにより、軍勢の多くが魔方陣の上へやってくるように調整する。
軍勢のおよそ半数ほどが各魔方陣の上にやってきたとき、大魔法が発動してその殆どが焼き払われた。
残された魔物も、錬金術師が錬成したホムンクルス軍団によって次々淘汰されていく。ホムンクルスは易々と魔物を倒していく程の力を持ち、受けた傷も錬金術師が投げたポーションにより回復、もしくは倒した魔物の血肉を取り込み再生してく。
魔王軍の後方には指揮を執る将が陣取っている。開戦して早々にして兵たちが滅ぼされていく状況に司令部は混乱していた。
スパイはそこに紛れ込んでいた。司令官の一人が影へと消え、飲み物を飲んだ一人がその場に倒れ、状況を伝えに来た者の首が落ちる。地味ではあるが、着実に一人ずつ司令部にいる魔族を始末していった。
勇者は剣を取る。誰も引き抜けなかった伝説の剣だ。
その剣を振るうと何かが起きるというわけでもなく、魔物へと刃が当たる。しかしその鉄皮を切り裂くことが出来なかかった。
魔物は勇者の攻撃を意に介さず、そのまま体当たりする。勇者はそれを正面から受け、吹き飛ばされてしまった。
「ぐっ」
だが彼は倒れること無く地に足を付け、少ししたところで踏みとどまった。
「勇者さん、後ろっす!」
遊び人の声に勇者が振り向くと、別の魔物がまさに勇者に向けて攻撃を振りかざしていたところだった。
それをすんでの所で回避する。勇者がいたところには、先ほど勇者を体当たりで飛ばした魔物の姿があり、別の魔物の攻撃が当たって息絶えていた。
「ハイこれポーション」
錬金術師から渡されたポーションにより、先ほど受けた傷を癒やす。
そしてまた別の魔物が現れる。勇者はその魔物に向け剣を突き出す。手応えはあまり無かった。だが魔物は脆くも崩れ去る。
「流石にござるな」
いつの間にか戻ってきていたスパイが勇者の後ろで言う。
再度のことに勇者が驚いていると、預言者がやって来てこう告げた。
「神は言う。戦いは終わったと」
* * * * * * * * *
勇者は先ほどの戦いを振り返る。
結局あいつらなにやってたんだっけ、と。
だが、彼の直感が『まあ勝ったからいいや』と告げたのでこの件は無かったことになった。
一方で、遊び人たちは今日も思うのだった。
勇者は役に立っていないな、と。
だが彼らは、出会ったときに直感していた。この勇者はそんなに強くないと。
それでも彼らはこうも直観していた。勇者を祭り上げておけば、面倒事が無く暴れ回れるのだと。
第一回パーティー追放検討会 名苗瑞輝 @NanaeMizuki
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