腹の中

蛾次郎

第1話



彩が資産家の男性ジョンとオープンテラスで紅茶を飲んでいると、店の奥から女の悲鳴が聴こえ女性物のバッグを抱えた若い男が店内から飛び出した。

彩の背後の席にいた男が咄嗟にその若い男を取り押さえたが、それを見た彩は驚いた。

若い男を取り押さえているのは夫の雅人だったからだ。

雅人もなぜ彩がここに?と驚いたが、それ以上に抵抗する若い男の顔を見て驚いた。

その若い男は今日、面接を受けに行く会社の担当社員だったからだ。

「お疲れ様です」

雅人が担当社員に袈裟固めをしながら気まずい表情で挨拶をした。

「ちょ、ちょっとあんた面接予定の…」

担当社員が気付いた矢先、悲鳴を上げていた女が店から出て来て、その担当社員と口論になった。

どうやら2人は恋人同士で、女が別れ話を切り出したので担当社員はプレゼントしたバッグを返せと取り上げたらしい。

貰い物は別腹だと怒る女と俺の物だと腹を立てる担当社員。

担当社員を取り押さえながら「ジョンに乗り換える腹積もりか?」と彩に問い詰める雅人。

「あんだがリストラされたから金策で資産家のジョンに会っていただけよ」と腹の内を明かし、雅人の勘違いに腹わたが煮えくり返る彩。

その光景を見た資産家のジョンは呆れながら、これで小腹でも満たして落ち着けと、自腹で万札を4人に渡し去って行った。いやはや太っ腹だ。



(おわり)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

腹の中 蛾次郎 @daisuke-m

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ