第19話 北山公園を散歩

 秋になった。

美彌の家から二人で近所の植物園まで散歩した。

坂道を上り、バス道を横切って公園に入ると、変わった造りの温室がある。

色とりどりの花々がところ狭く置かれている。食虫植物の大きな袋が目につく。

小さなサボテンの鉢が飾られた棚には、ユーモラスな表情の人形が腰掛けていた。

美彌は珍しい種類の花の写真を熱心に撮っている。

「カフェのディスプレイの参考にするの」そう言って、ほほえんだ。


 和風の建物があり、門までの小道の紅葉は格別に鮮やかだった。

二人は何度も立ち止まって、この赤がいいとか、こちらの黄色も素敵とか言い合った。

秋を満喫させる色彩の風情に酔いしれる。

和風庭園の苔の上に散った紅葉の葉の美しさは、今しか堪能できない美であった。

園内の遊歩道に沿って歩いていくと、中国風の建物があり、それを取り巻く池に散った紅葉の葉は絨毯を広げたようだ。

いろいろな角度から美彌は写真を撮っている。

「秋を切り取っておくのよ」そう言って、カメラを構える。

少し小高い丘の道を上っていくと、奥には静まりかえった池があった。

水面に周囲の木の紅葉が反映して、逆さ絵になっている。

静寂ということばがぴったりの場所で、東屋のベンチで休んで、持ってきたお茶を飲んだ。

「心が落ち着くね」

「毎日の喧騒を忘れそう。街から近いのに、こんなに静かなところがあるなんて贅沢ね」

「小さなしあわせ、でも、これ以上の幸せはないだろうね」

「本当にそう思う?」

「ああ、美彌といるだけで生きてるって感じ」

「泣かせたら大阪湾だしね」

「まだ言うか?阪上家の怨念が僕に取りついている…」

「バカ言わないの。ゆくゆくは二人で家を継ぐんだから」

「そうなるのかな。でもまだまだ先でしょ」

「あたしが追い出さない限りはね」

「おお怖っ」

「いつまでも大事にしてね」


 来た道を戻って、公園の広場に出ると、子供が三四人、走り回って楽しそうに遊んでいる。

美彌はその姿を見ると、「子供かわいいな」と独り言を言った。

二組の親が芝生に腰を下ろして子供たちを見まもっている。

常二は美彌の気持ちを想像した。

「僕たちも子供ができたら、ここに連れてこようね」

「何人ほしい?」

「そうだな、美彌が産めるだけほしい」

「何人産ます気なの?一人でもたいへんよ」

「じゃあ、三人。女の子と男の子、組み合わせは美彌に任せる」

「いいわ、三人産んであげる」そう言って常二の腕をつかんだ。

「ママも喜ぶだろうね」

「ママは、若いおばあちゃんですねって言われるわ」

「それが楽しみなのよ、きっと」と言った。


 空一面に、うろこ雲が広がっている。

「あの雲のように穏やかに流れていきたいな」

「ずっと一緒にね」

美彌の手を取り、固く握る。

「うふっ」といつもの声を出した。

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コメディあるいはトラジティ ネツ三 @bluesboy

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