付記

 この文は本作の完結後の近況ノート(2022年4月11日付)を加筆したものです。近況ノート公開当時はこの旅行記の一部とすることに躊躇いがありました。

 今では、本作の読者様にこそ読んでいただきたいと考えております。


  *  *  *


 ツアーで一緒だった人たちから何通か、翌2015年に年賀状が届いた事は本文の最終章に書いた通りです。今年の旅行に行きたい場所といった希望を綴った方もおられます。


 しかし、その2015年1月に起こったのがシャルリー・エブド事件です。

 大きな衝撃を受けると同時に、こう考えました。


「今年だったら家族は快く送り出してくれただろうか。旅行に行けたとしても、テロ自体の危険性とテロへの警戒の両面から、日本人の女一人で行動する事に、何か重い制限が課せられはしなかっただろうか……」

 と思うと、2014年の初夏、旅行を先送りにしなかったのは大正解でした。


 しかし、その選択の正しさをこのような形で確かめたくはありませんでした。

(※年賀状の送り主が巻き込まれた訳ではありません)


 恥ずかしながら、2014年がクリミア併合の年でもあったことも最近になって知りました。

 私が平和と自由と豊かさを感じていたとき、それは私の周りだけのことに過ぎなかったのでした。

 いつか世界中に平和と自由と豊かさがもたらされる時は来るのでしょうか。


 個人的な思い出を文章として公開したり、コメントに返信したりする際、あれこれ調べるうちに知ることがあります。

 必ずしも心躍る情報ではありません。

 先述のクリミア併合や、ケルン事件など。


 そうした物事のなかでも「躓きの石」の話をしない訳にはいかないでしょう。

 実在の人ひとりの名前などが記された金属製のプレートに、立方体の土台を有するオブジェで、ヨーロッパのあちこちの地面に埋め込まれています。


 ホロコーストの犠牲となったユダヤ人をはじめとするナチス・ドイツの犠牲者が、連行される直前に住んでいた場所の地面に、このオブジェが埋め込まれているのです。

 躓きの石一つに一人の記録を残して。

 建築家のグンター・デムニヒ氏が始めた活動で多くの人々の支持されています。氏が一つ一つ、設置する作業を行っているそうです。

 私が歩いた通りにもあったのかもしれません。

 ドイツという国の、人類の、そして気づかなかった私の躓きです。


 忘れてはならない歴史の暗部ですが、こうしたことを知ることは、旅の楽しみを減じるものではありませんでした。


 私の旅行は、知力体力コミュ力の要る活動をどんどん行う旅に比べれば平凡なものです。しかし、平凡どころか贅沢な旅だったと今は思います。

 日本の庶民にとって欧州への旅行のしやすさという点で、当時はここ数年よりも恵まれていたのかもしれません。


 いつか隣国の戦争が終わるとき、またコロナ禍がおさまるとき、良きにつけ悪しきにつけ世の中は様変わりしているでしょう。


 世界がどう変わろうと、旅していたとき、思い出しながら文章を書いていたとき、私が自由で幸福だったことは決して変わりありません。


 どのような世界であれ、人の一生を、時の流れを旅と呼べるならば……。

 皆様、良い旅を。




(Auf Wiedersehen!)







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ふつどく! 2014 〜独身のうちに一度は行きたいフランス&ドイツへ、ツアーに一人参加しました!〜 蘭野 裕 @yuu_caprice

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